伍、船頭長怒りを露にして綻ぶ
船頭長の怒り。
冬が過ぎ春を迎えようとしていた。
船頭が過酷な激務に耐えきれず大柳から一人二人と辞めていく。
そうなると、元より人員不足がさらなる悪化を招き、社員たちは休日返上で仕事へ望んでいる。
兎にも角にも船頭達は限界を感じていた。
船頭長バンはついに怒りを経営者たちにぶつけた。
「このままじゃ、みんな倒れていきますよ!」
朝礼の最中、涼しい顔で今日も予約などバリバリ過密日程を告げるユングに、バンはついにキレたのだった。
「はあ、このくらいで?」
ユングは涼しい顔で言った。
「皆、社長のように仕事が命の奴らじゃありません」
「なんだと」
ユングの眉がぴくりと動いた。
「休日は身体を休めたり、遊んだり、リラックスをする大事な時です。また我々それぞれに家族や家庭、休みの日には予定だってあります。もう少し考えてもらわないと」
「誰に向かってものを言っているんだよ。雇われ立場のくせに!誰が船頭長にとりたててやっているんだよっ!ええ?バンよ、バンよ、バンバンバン、船頭長バンさんよ!お前のような皆の上に立つヤツが、そんな弱音を吐くとはよ。俺は信じられないよ。アンビリバボーだっ!」
怒り心頭のユングは、完全にやっちゃうモードに入っていた。
「あなた」
顔を突き合わせ一触即発の雰囲気に、メルダは2人の間に割って入った。
「バンさんも・・・ね、落ち着いて。熱くなっちゃ駄目よ」
懸命になだめるが、瞳孔ガン開きの両者はヒートアップする。
「もうついていけない!」
「だったら、どうするんだよ、あっ?」
「辞めさせていただきます」
バンは言い切った。
「おおう。辞めちまえ、こっちにはケンがいる」
鬼の形相をしていバンは、ふっと我に返ると苦笑を浮かべ、静かに頷いた。
「ああ、そうですね。ケンがいます。では、俺は心置きなく辞めます」
「わかった。だが、暁屋には行くなよ」
突然関係の無い話に、再びバンは沸騰する。
「はあ?行くかボケっ!船頭なんか二度とやるかっ!」
「言ったな、言ったな、この野郎。しかと聞いたからな」
「ああ、清々した」
「お前、後悔するぞ」
「するか、馬鹿野郎っ!今日の決断誇りに思うわ!」
バンは三行半を吐き捨てた。
「おのれ!おのれ!おのれっ!」
ユングは口汚く罵り、喚き散らす。
バンは皆が騒然とする中、くるりと背を向け歩き出し、ケンジの肩を叩いた。
「すまん」
こうして、大柳の大黒柱は去って行った。
綻び露わ。




