参、回想ユング去る
ユング回想弐。
誰もいない社長室、大きく伸びをし一郎は天井を見た。
「はん」
自虐的に声を発す。
思いだすもなんともいえない。
社長室で一郎はゆっくりとユングを諭す。
「ユング。あの川下りはいけないよ」
「どうしてですか」
「まずは安全確保。お客様に注意事項を伝えてない」
「ああ、そうでしたか、やってなかったっけ?」
「お前、なにかあったらどうするんだ」
「そりゃ、不注意のお客様が悪いでしょ」
「・・・ワシ、お前にそんな指導したか?」
「?」
一郎はやり場のなさに拳が震えた。
「・・・ガイドのあれはお前の自慢か?」
「いやだなあ。ヤナガーの歴史ですよ。知ってもらわなきゃ、師匠いや社長のアピールもしたでしょ」
純粋な目をしてユングは言う。
「あれが・・・もし、ユングがお客としてお前のガイドを聞いたらどう思う?」
「別に・・・凄くよく知っている船頭だなって」
一郎は頭を抱えた、まだある。
「あと操船、今のままでは任せられない」
「社長、お言葉ですが、安全に川下りは行いましたよ」
「・・・26回」
「へ」
「26回、岸や壁、障害物にぶち当たっている。内4回はかなり危険だった。気づいていたか」
「さあ、社長、気にすぎじゃ」
「ふ~」
一郎は天を仰いだ。
「もういい。ユングしばらく中の仕事をしてくれ」
「そんな!」
「決定事項だ」
口を尖らせるユングに、一郎はきっぱりと言い捨てた。
(とても船頭は・・・まかせられない)
一郎は自らに決断を下した。
のち、ギルモアが加入し、ユングは主に配船を担当するようになった。
ユングは慌ただしく動き回り、仕事をこなす。
桟橋に到着してきたギルモアを手招きする。
「ギルモアさん、急いで!お客様待っています」
ギルモアは怒鳴りつける。
「今着いたばかりだ!ちったあ、休憩させろや!」
「あなたが遅いからでしょう」
「なんだと!」
お客の前でやりあう2人に、フィーネは睨みつけ、
「やめなさい。ギルモア休憩をちょっと取って」
「おう」
ドワーフは肩を怒らせて船頭室へと向かった。
「フィーネさん、駄目ですよ。甘やかしちゃ」
ユングは明らかに不満顔で言った。
「船頭ってハードワークなんでしょ・・・それはあなたがよく知っていると思うけど」
「私なら、すぐに行けますよ」
平然と言い放った。
「・・・そう、だけど。みんながあなたと一緒だとは限らないわ」
「じゃあ、ギルモアさんは船頭に向いてないな」
「・・・そう」
ユングの言葉にフィーネはあきらめたように目を伏せ、受付へと戻った。
そんなある日、一郎は休みなく3回目の川下りを終え、社長室で煙管をいっぷくしていると、ユングが慌てて入って来る。
「社長!」
「どうした?」
「ギルモアさんが桟橋で落水しました」
「わかった」
一郎は部屋を飛びだす。
ギルモアは子どもが下船時に足をすべらせて落水したのを助けようとして、水の中へと飛び込んだ。
子どもを桟橋へあげたまではよかったが、元来、重くてかなづちの彼は桟橋の木の杭につかまったままあがることが出来ないでいた。
「ギルモア」
一郎は手を差し伸べる。
「すまねえ」
彼はギルモアの右手を両手で握りしめると、踏ん張って引き上げた。
ドアーフは開口一番、
「ぼうずは?」
助けた子の心配をする。
「大丈夫よ」
フィーネは声をかける。
ユングは鬼の首をとったかのように、ギルモアを罵った。
「これはドワーフさん、やはり図体ばかり大きくていけませんね。お客様を落水させるなんて、いけませんよ」
「てめ」
「何故、こうなってしまったのか。原因分かりますか。事故が起きてしまったからには、状況、原因そして対策が必要不可欠です」
ユングは口撃を止めない。
「ですよね。社長」
「・・・ユング。言わんことはもっともだ」
「ね」
彼は嬉々とする。
「だけど、そうじゃねぇだろ!」
「?」
「おいっ!」
一郎はユングの首の襟を両手で掴むと締めあげた。
「しゃ、社長」
(なんで・・・)
憤怒の形相の一郎に、ユングは驚愕と恐れ怒りを覚える。
「わからんか、わからんのか」
一郎の顔はくしゃくしゃになった。
憤りと悔恨で涙が滲む。
「・・・・・・」
彼は力なく、腕をおろした。
ユングは派手に尻餅をつくと、わなわなと全身を震わせた。
そうしてユングは暁屋から姿を消した。
そして・・・。




