表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/126

玖、ボブの退職

 ボブ辞す。

 

 ケンジはめまぐるしい忙しさに、時を経つのも忘れるほどだった。

 はたと気づく。

 ボブが一週間も舟屋に来ていないことを。

 彼は船頭長のバンに何か知っているかと聞いてみる。

「さあな、辞めたんじゃね」

 と、あっさりとした言葉、

「でも、だったら、朝礼で知らせたり・・・」

「おいおい、ケン。うちの舟屋(会社)そんなちゃんとしたところか?」

「はあ」

 彼は思わず、頷きながら返事をしてしまう。

(そりゃ、そんなとこあるけど・・・あとで社長に聞いてみよう)


 ケンジは3度目の川下りが終わり、珍しく時間があったので、船頭部屋の方で休憩しようと中へ入る。

「あ」

「あ」

 ボブと目が合う。

 右手のぐるぐる巻きされた包帯が痛々しい。

 ロッカーを片付けているのか、左手には大きな袋を持っている。

 ぺこりボブは頭をさげた。

「お世話になりました」

「・・・やっぱり・・・あ、すいません」

 ケンジは思わずそんな言葉がでてしまった。

「はは」

 ボブは苦笑いを浮かべた。

「ご迷惑おかけしました」

「いえいえ、そんな」

 ボブは真っすぐにケンジを見た。

「不本意です。だけど、辞めてよかったと思います。これで良かった。きっと」

「・・・・・・」

「ここにはいれない、いられない」

 ボブは心の内を正直に吐露する。

(そうだよな)

 ケンジは自然と頷いた。

「立つ鳥跡を濁さず。こんなの言っちゃいけないんですけど」

「いいえ」

「ふふ、ちょっとスッキリしました」

 ボブはそっと左手を差し伸べる。

 ケンジはその手を取った。

「ありがとうございました」

「お元気で」

 申し訳ない気持ちもあり、ケンジは深々と頭をさげた。


 営業終了後、ケンジは社長室をノックする。

 ユングの声がする。

「入れ」

「失礼します」

「なんだ?」

「今日、ボブさんが船頭部屋にいました」

「そうか」

「ボブさん辞めるそうですね」

「ああ」

「何故、みんなに知らせないのですか」

「言う必要があるか」

「・・・・・・」

(ああ、やっぱり)

 ケンジは確信した。

(この人はこういう人だと)

「ほかに用はあるのか」

「ありません」

「なら帰れ」

「はい。失礼します」

 

 ほどなく、ケンジが家路へと歩きはじめる。

 振り返る社長室の明かりが灯っている。

(いつまで仕事するんだ)

「はあ」

 彼はまた溜息をついた。


 社長にも正義がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ