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捌、冬の嵐

 ユング怒りの説教。


 寒風吹きすさぶ冬のヤナガー川下り。

 お客には厚着励行で乗船を促すが、寒さに耐えるのも限界がある。

 そんな時には、大柳では防寒着がわりに雨合羽(レインコート)を手渡し、羽織ってもらうのであった。

 使用後は、天日干しをして再利用をしている。

 いつもに増して客足の多い日、営業途中でレインコートが足らない事態がおこってしまう。

 客は寒さに震え舟に乗船した。


 ユングは営業終了後、従業員たちを呼び止めて雷を落とす。

「今日のアレどうなっているんだよ!」

 いきなり怒鳴り散らす社長に、船頭長のバンが言葉を返す。

「と、いいますと」

「合羽だよ合羽っ!なんでお客様に渡せねぇんだ!しっかり枚数は確保してるだろ」

「雨や寒い日が続きましたから」

「・・・おいおい、いい訳か船頭長?はい、足りませんでしたで済ませる気か」

「なにぶん、干す時間もかかりますし」

「・・・・・・ああ?」

 ぎろり、ユングは瞳孔を開き船頭長を睨みつける。

「・・・・・・」

 バンは目を伏せる。

「おい、雨合羽はどれだけある?」

「・・・・・・」

 皆は答えようとはしない地雷を踏むのはまっぴら御免だからだ。

「分からんのか?おかしくない?おかしいよね。備品すら管理できてない。そんなのアリ?ナシだよね」

(そんなの突然に備品管理なんぞ言われた事もないのに知るか・・・なら社長が管理しろ)

 船頭達の本音だった。

 そんな中、おずおずと仕方なしにケンジが手をあげる。

「およそ500枚です」

「・・・おう、だけどケン500何枚だよ」

「・・・それは」

「備品の正確な数も分からずに、何かあった時にお客様に提供できるか。だからこういう字事態が起こるんだよ」

「・・・・・・」

「だから、すったく(手抜き)すると、こうなるんだよ」

「・・・・・・」

 皆は早く終われと、うな垂れる。

 ユングの速射砲のような説教はダラダラと続き、話がいったりきたり、

「どうするんだよ。どうするんだよ」

 社長はみんなを舐め回すように見つめる。

「わかりました。俺が今から数えます」

「それでいいんか?おい」

「概ねは」

 バンが答える。

「わかった。ケン責任もって数えろ」

「はい」

 ケンジは釈然しない気持ちだったが頷いた。

このままでは埒が空かないと判断し、泥水をかぶることにした。 


 ケンジは船頭たちが帰ったあと、備品庫で雨合羽を数える。

 日はとっぷりと暮れ、彼は燭台に灯りをつけて作業を続ける。

 全て数え終わり、社長室へ向かい報告した。

「526枚です」

「おう、ご苦労さん」

 ユングは熱心に書類へ目を通し続けており、彼の顔を見ずに片手をあげた。

「・・・・・・お疲れ様でした」

 ケンジは軽く一礼をして、部屋をでた。

 

 身支度を整え、大柳をでて家路へつく。

 社長室は以前、煌々と明かりが灯っている。

「はあ」

 彼は深い溜息をついた。

 白い息が暗闇の空に吸い込まれていった。



 そりゃないぜ~。

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