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陸、秋風に吹かれて

 旧交をあたためる。


 熱を帯びたあと、2人しかいない桟橋にて、秋の風が肌寒さを感じた。

 ぶるっ。

 思わず、身震いした茜は、桟橋から舟のデッキに乗り、竿を構える。

「帰ろうか」

彼女はアルバートに言った。

「はい」

 2隻は静まり返った夜の掘割を薄ら灯りを頼りに暁屋へと帰って行った。


 城のバルコニーにて。

 グラスを掲げる王と一郎がいた。

「今日はありがとう」

 王が礼を伝える。

「どういたしまして」

 ニヤリと一郎は笑った。

「こうやって、話をするのは何年ぶりかな」

 王は感慨深げに言った。

「そうだな」

 一郎は頷き、ぐいっとグラスを空けた。

「聖魔大戦から3年・・・いや4年近くなろうとしている」

「そうか、もうそうなるか、勇者ベル」

「よせ、もう勇者ではない。英雄イチロー」

「ふふ、お互いな」

「ああ」

 2人は顔を見合わせ笑った。


 ふっと笑みが止むと、若干の沈黙が訪れる。

「寒っ」

 秋風に思わず一郎は呟いた。

「そうだな、中で飲み直そう」

 ベルガモットは、右手を差し出し室内へ入るよう彼を促す。

「すまない」

 一郎は中へ入った。


 ベルガモットは貴賓室へ誘おうとするが、

「ワシはここでいい」

 と、即、広間に腰を下ろし、酒を飲みはじめた。

「・・・相変わらず、しょうがないヤツだな」

 王は苦笑いをして、隣に胡坐をかく。

 それからじっと彼の顔を見つめた。

「どうした?」

 なんとなく察する一郎。

「頼みがあるんだ」

「だろうな」

 彼は頷いた。

「・・・聞いてくれるか、キャッパは知ってるよな」

「ああカッパね」

「・・・カッパいやキャッパ・・・まあどうでもいいか。そのバケモノ」

「妖怪だ」

「なんでもいい。そいつが掘割に現れたそうだ。今のところ被害の報告はあがっていない。だが・・・」

「この世界の異変を感じる・・・のか」

 ベルガモットは一郎の言葉に重く頷いた。

「微妙な変化・・・杞憂ならばよいか」

「そうか」

 一郎は目を伏せた。


「イチロー」

 王は言った。

「ああ」

 一郎は返事をした。

「キャッパの調査頼まれてくれないか?そいつがなにも害をなさねばそれでよし。もし、そうであれば退治して欲しい」

「・・・わかった」

 一郎は片手をあげた。

「すまないイチロー感謝する・・・あ、それとな」

 ベルガモットは難しい顔をして、後の言葉を濁した。

「ん?」

 一郎は訝しがる。

「真に言いにくいことだがな・・・おほん」

 王は苦い顔をして咳払いをした。

 


 船頭と勇者。

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