伍、帰城
行きはよいよい。
熱を帯びた人々の熱気は、花火が終了すると、辺りは途端に静けさが訪れる。
秋の虫の鳴き声と、少しだけ肌寒い風が一行を現実へと戻させる。
3隻目に乗る大臣から報告があがる。
「以上になります」
一郎は右手を軽くあげる。
「了解」
茜は隣の舟のアルバートに声をかける。
「舟を変わりましょう」
彼は突然の提案に驚き、
「え、でも」
と、戸惑いを口にする。
「この先、城入水門橋の流れが激しいの、もの凄く戻されるから」
茜は事情を伝えると、有無を言わさず3番舟のデッキへ飛び乗る。
「・・・わかりました」
アルバートは頷くと、2隻目のデッキへと移る。
「アル、なにかあったら、ワシらがサポートする。一番舟のワシが水流除けで、茜がいざという時、2番舟を押し進める。お前は全力で竿をおせ」
一郎が指示をおくる。
「わかりました」
アルバートは緊張した面持ちで頷いた。
「よし!もうひと仕事だ」
一郎はサムアップして笑った。
舟は一斉に帰城の途へと向かう。
一郎の一隻目に続き、アルバートと茜が操船する舟が続く。
水門橋に近づくと、水の流れる音が大きくなる。
「こいつは・・・」
一郎は呟くと、竿持つ手に力をこめる。
「難儀やなあ・・・続けっ!」
深く竿を突き刺して、竿をしならせ水門橋へと向かう。
それから竿を急ピッチで刺し、激流を少しずつ少しずつ前へと進む。
アルバートの舟が戻される。
「えっ!」
今まで体験したことのない、水流が竿を刺す暇すら与えない。
彼は焦り、なんとかしようと竿を水底に突き刺そうとするが、水の勢いで竿をもっていかれそうになる。
「くそっ!」
その時、
どんっ!
ゆっくりと茜の3隻目の舟が、アルバートの舟の後部に接触し押しはじめる。
「アカネさん!」
アルバートは思わず振り返る。
「前を向いて、しっかり竿をさして」
茜は必死の形相で竿をさし舟を押している。
「はい」
そこから彼は一心不乱に竿をさし、舟を進める。
「よし!一気に行くぞ」
一郎はチラリ後方を確認し、グイグイ舟を進めていく。
後続の2人も必死に続き、3隻はなんとか水門橋を抜けた。
中堀に入り、城への中道を進むと、城門の桟橋が見えてきた。
ゆっくりと舟は桟橋へと近づける、納涼船を堪能した王族や重臣、貴賓たちは舟から降りた。
「イチロー」
王が声をかける。
「ん」
一郎は振り返った。
「ちょっと、話をしないか」
王は右手でグラスを持ちくいっと飲むジェスチャーを見せた。
「・・・ああ」
彼は頷き、
「茜、アル先に帰ってくれ」
と、茜とアルバートに言った。
「ええ?」
「へ?」
戸惑う2人。
帰りはつらい。




