肆、掘割に浮かぶ花火
秋の夜空に。
一郎は後ろで起きていたトラブルの一部始終を確認し、大きく頷くと一人ひっそりとサムアップをした。
舟上の楽しみ方を理解した王族たちは、次第にリラックスして、舟に身を任せ、夜の掘割の情景や食事を楽しむようになった。
橋々をくぐるさいは、町の人々がランタンや手持ち花火で明かりを灯し、声援や手を振る。
あたりの闇の中、その場一点が極端に明るくなる。
「王様」
「万歳!」
「こんばんは~」
「楽しんでくださいね~」
それに答え、王族たちは手を振り返したり、
「ありがとう」
と、声をかえす。
王族や重鎮たちが、菓子袋を橋上の子どもたち目掛け投げると歓声があがる。
3人の暁屋船頭達も手を振って答えた。
夜の掘割を縫うように3隻の舟は進み続けた。
普段よりゆっくり時間をかけて、北側の外堀の一番広い場所へと舟はやって来る。
一郎は、スペースを見つけると、ゆっくりと竿を使い、舟を90度に曲げ、自分の位置を岸辺に近づけると、舟のロープを木柵に括りつけ係留する。
それから竿を風向きとは逆の舟べり横の水底へ深く突き刺し舟をしっかりと固定する。
続いて茜がその隣に、アルバートも多少もたつきながらも3隻並んで係留した。
一郎はその様子を確認すると、
「3隻揃いました」
伝える。
王は頷き、
「よろしい。では」
右手をあげると、3隻目の重鎮が合図とばかりに、持った松明を大きく振る。
すると、ほどなくして、
しゅるる~。
花火が打ちあがる音がする。
次の瞬間、大輪の花火が夜空に咲く。
暗闇で見えなかったシルエットの城が、くっきりと姿を現し、その上空に花火は舞う。
と、同時に掘割の水面にも大輪の花が映り、二重に見える。
思わず、目を輝かせる茜。
王族や重鎮たちは夜空を彩る花火をじっと見あげる。
秋の夜に次々とうちあがる花火。
一郎は腕組みをしながら、孫娘たちを見た。
茜もアルバートも花火を観つつも、しっかり竿を持って舟の安全に留意している。
花火の明かりで照らしだされた、2人の顔は誇らしげでいい顔をしている。
そういう姿を見ると、
(よかった)
彼は思わず嬉しくて微笑んだ。
「綺麗」
茜は思わず呟いた。
色とりどりの菊、牡丹、冠、型物、万華鏡、柳、千輪の花火が夜空に舞い。
最後にスターマイン花火が空を埋めつくすと、舟から周りに集まった人々から、われんばかりの拍手が巻き起こった。
舞え花火。




