弐、初秋納涼舟
暁屋大仕事?
初秋。
薄暮れの桟橋に立ち貴人たちを出迎え待つ船頭3人。
アルバートは額に鉢巻を巻く、緊張の顔が見える。
ポンと一郎は彼の右肩に手を置いた。
「アル、緊張してるか」
「はい」
アルバートは正直に答える。
「よか、緊張しろ。楽しめ」
一郎はニヤリと笑う、続けて、
「茜」
「はい?」
茜は一郎を見た。
「いつも通りだ・・・な」
彼はサムアップをする。
「うん」
彼女はサムアップして返した。
ヤナガー国を治める王、ベルガモットより依頼され、暁屋は納涼船を3隻だす事になった。
王やその家族を乗せた一番舟には一郎、二番舟の王族を乗せた舟にはアルバート、殿の国の重鎮を乗せた舟は茜が担当している。
・・・その数日前、王族納涼舟ミーティングにて。
「ワシ、アルバート、茜の3隻で王様の夜舟にあたろうと思う」
一郎は、選抜メンバーを告げた。
「何故っ!」
ギルバートは吠える。
王族を乗せるということは大変名誉なことである。
彼はその人選に納得がいかなかった。
「これが最適解だからだ」
フィーネとバリーは一郎の言葉に頷いた。
「私も理由が知りたい」
李はおずおずと手をあげた。
クレイブは妻フレアと共に黙って話を聞いている。
「ふむ・・・正直、誰でもいいとワシは思った」
「なら」
ギルモアは顔をぐいっと一郎へ突き出す。
「そうはいかんでしょ」
と、睨みをきかせるフィーネ。
「相手はこの国を治める王様です・・・なにかあったら」
バリーは自分の右手を首にやり、斬るフリをする。
するり、霊体の手が首をすり抜ける様は滑稽で異様だ。
「という訳だ」
一郎は腕組みをする。
「操船技術って訳ですか」
クレイブは言った。
「そういうことだ」
一郎は頷き、続けて、
「今回は正直、ガイドはいらない。安全に運航する技術とそれなりの礼儀作法・・・っーか、接客」
残る船頭を見渡す。
「・・・俺だってやる時はやる」
ギルモアは胸を張った。
「ああ。だが、それは、どのお客さんの時もそれは変らずにだ」
「ぐ」
ドワーフ翁は二の句が継げない。
「わかった今回は・・・だが、何故アルバート?」
李は疑問を口にした。
「ああ、それは俺もそう思った!」
ギルモアも同調する。
「気づかない・・・か」
一郎は2人を一瞥した。
「操船・・・それに立ち居振る舞い」
クレイブは呟いた。
こくり茜は頷く。
「そうだ。安全たる操船と竿さし姿勢の美しさ見れば分かると思うぞ。それに今回はアルが不得意なガイドに重要度は無い。そして、もしものフォーロはワシと茜がやる・・・な」
「はい!」
アルバートは緊張した面持ちで返事をした。
一郎はぐるりと見渡す。
「ま、今回はこれで行く。不参加の船頭もバックアップや次回の可能性もあるのでよろしく」
ミーティングはこれにて散会した。
・・・・・・。
・・・・・・。
3隻の舟は夜のヤナガーのお堀をゆっくりと進んでいる。
舟の両端には簡易の手すりをつけ、そこに左右4基のランタンを提げ灯している。
舟の中では、テーブルが置かれ豪華な食事に、お酒やジュース参加者は大賑わいとなっていた。
夜の帳を、舟灯すランタンが温かく薄らとあたりを照らし、ゆっくりと進んでいる。
納涼船は進む。




