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捌、配舟兼船頭バリー

 ゴーストバリー。

 

 配船兼時々船頭のバリーはゴーストつまりは幽霊である。

 配船とは、船頭が滞りなく川下り業務をこなせるように、番手や動きを調整する役割である。

 彼は普段、霊体のまま活動をしているが、実体が必要な時つまりは船頭を行う時には、生前の自分の姿をかたどった蝋人形の中に魂を移し仕事を行っている。


 茜は船頭部屋に張り出された配船表を見ながら、腕組みをして唸っている。

 配船表とは、当日の船頭の動きを振り分けたものである。

 ひょろろろ~と自分の横を通り過ぎようとするバリーを呼び止める。

「バリーさん」

「はい」

 透き通る霊体のバリーは振り向く。

「私ずっと一番手でしょ」

「それが何か?」

 バリーはすまし顔、

「だ・か・ら」

 茜はすごむ。


「分かっていますよ。必然的にアカネさんの負担が大きくなるは、みんなが2、3回で済むところ。ここ最近の盛況もあってか、あなたの4回以上の川下りはザラですからね」

 彼は涼しい顔で答えた。

「だったら」

 茜の憤る顔を見ながら、バリーは人差し指を左右に揺らす。

「チチチですよ。アカネさん以外に適任がいないのです」

「・・・・・・」

 茜は口をへの字に曲げた。その通りなのである。

「うちの大将(一郎)はいまだ故障中、ギルモア爺は爺さんで偏屈。李さんも爺さ・・・仙人。アルバートはムラが多い。クレイブは新米・・・ねっ・・・どーゆーあんだーすたんど?」

「お、おふこーす。わかるけど・・・」

 彼女は渋々頷いた。


 バリーは霊体ながら、頭をかきながら思案する。

「と言いましても、アカネさんへの負担が大きいのは事実」

 茜は頷き、

「そうでしょ」

 バリーは呟いた。

「・・・私が出ますか」

 茜は驚く、

「えっ、バリーさん船頭出来るの」

「勿論です。ご存じなかった?」

「どうやって?幽霊なのに」

「ちょっとお待ちになってください」

 バリーはそう言うと、船頭部屋の壁をすり抜け消えていった。


「お待たせしました」

 ほどなくして、扉をノックして入って来たのは、カクカクとした動きで、無表情かつ瞳がガン開きの蝋人形バリーだった。 

「怖っ、てかてか、きっしょ・・・あ、ごめんなさい」

 思わず、本音がでてしまう茜。

「傷つくなあ。これで船頭やってます」

 口が動かずに喋っているのは、もはやホラーである。

「お客さん、怖がるでしょ」

「まあ、そうですね。大将からお前は切り札だと言われています」

「そうでしょうね・・・はあ」

 茜は溜息をついて、二度、三度、自分を言い聞かせるように頷いた。


「わっかりました。当面の間は頑張らせていただきます」

 茜は右手を額にあて敬礼をする。

「すいません」

 バリーもぎこちない動きで敬礼を返す。

「だって、その動きじゃ、舟をおすの難しいし、その顔じゃお客さん怖がっちゃう」

「よく言われます」

 茜は苦笑しながら、

「じぃちゃんが治るまでね」

「はい」

 バリーは感謝をし、頭をさげると、がくんと首の関節が外れた。

「ダメだこりゃ」

 茜は呟いた。




 お前も蝋人形にしてやろうか・・・いつかこの台詞言わせてみたい(笑)。

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