伍、アルバート、茜の舟に乗る
アルバート登場。
茜の衝撃のデビューから数日のこと、朝ミーティングでアルバートはおずおずと手をあげた。
アルバートは異世界の人間である。
年は36歳、不健康そうで神経質そうな青白い顔に丸眼鏡かけて、ひょろっとした180㎝の長身である。
仕事はそつなつこなすが、接客業としては致命的な愛想が無いのが玉にキズなのである。
「どうしたアル?」
一郎は彼に発言を促す。
「すいません、私、一度、アカネさんの舟に乗ってみたいと思いまして・・・ぶしつけながら、そういう機会をいただけないかと思いまして」
一郎と茜は顔を見合わせる。
「ふむ」
「・・・・・・」
「確かに、他の船頭がどんな働きをしているか、自分とどう違うのか見て知る機会はあったほうがいいな・・・それによって、上回る所、足りない所、学んで伸ばすところ知るチャンスになる・・・な」
「うん」
茜はこくりと頷いた。
一郎はパンと柏手を打った。
「じゃ、早速やるか」
「へ」
茜は素っ頓狂な声をあげる。
「アル、一番舟の茜の舟に乗ってみろ」
「ありがとうございます」
「ちょ」
「見る、見られることによって、相互作用がある。お前にとっても悪いことじゃないぞ」
「・・・うん」
「じゃ、よろしく」
一郎は片手をあげた。
「はあ」
「よろしくお願いします」
アルバートは茜へ慇懃に頭を下げた。
「・・・はい」
彼女は苦笑いをして返事をする。
茜はお客さんとアルバートを乗せて舟を出発させた。
アルバートから見た彼女の操船は、竿さしの技術、声かけ、ガイドどれをとっても素晴らしく感心とともに驚くばかりだった。
それもあっという間に時は過ぎ、舟が暁屋の桟橋に戻ってくる頃には、茜の操船技術にすっかり魅了されてしまった。
「素敵でした。ありがとうございました」
アルバートはぺこりと頭を下げる。
「いや、そんなお役に立ちましたか」
茜は照れながら答えた。
「もちろん!」
彼は頬を紅潮させ頷いた。
「アル」
一郎は桟橋から声かける。
「はい?」
訝しがるアルバートに彼は人差し指をくるくる回しながら、
「チェンジ」
「へ?嘘?」
「嘘じゃねーよ、茜とチェンジ。次お前が舟を漕ぐの」
「えっ、無理です!」
両手をブンブンと振って拒否するアルバート。
「あのな、お互いを見なきゃ、切磋琢磨はせんだろ」
一郎は至極当然な事を言った。
「私の力じゃ・・・アカネさんには・・・」
アルバートは完全に恐縮する。
「そんなのはいいんだよ。茜」
「はい」
「アルの舟に乗って思ったこと、感じたこと正直に言ってやれ」
「・・・うん」
「・・・そんな」
アルバートの顔は青ざめる。
茜は笑った。
「アルバートさん、是非見せてください」
アルバートの顔はこわばる。
「はい、私頑張ります」
茜はサムアップし、
「はい」
と、笑って頷いた。
2番舟、船頭アルバートはお客さんと茜を乗せ、桟橋から出発する。
互いを知ろう。




