エピローグ こちら舟屋暁屋~今日も川下り日和~
最終話でございます。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
閉じた瞼に優しい光が溢れる。
(もう少し寝ていたい)
一郎はぼんやりな頭の中、そう思った。
だけど、
(起きなきゃな)
彼はゆっくりと上半身を起こした。
「よう」
見ればサルタヒコが笑みを浮かべている。
ここはアマテラスの神殿、一郎は自分との決着の際、アマテラスの御業によって転移されていたのである。
「・・・サルタヒコ」
「よくやったな」
旅神はぽんぽんと彼の肩を叩き労う。
「なんだかな」
一郎は苦笑して自嘲する。
「一郎よ。事は成したか」
アマテラスは優しい声で言った。
「ああ」
一郎は頷くと、左胸を右拳で2、3度叩く。
「ここにいる」
「そうか、お帰りだな。大儀であった」
「なんだかなあ」
今度、一郎は屈託なく微笑むと、一人と二神は互いに笑い合った。
神の神殿に光が注ぎあたたかい風が舞う。
「さすれば、一郎よ。お主が望むものは」
アマテラスは問う。
「ワシは・・・」
迷いなく思いを伝える。
ここは日本の福岡県柳川市。
掘割に隣接する水辺の散歩道を歩き、袋小路を進んだ先に小さな墓所がある。
今ここは閑散としている。
川田家代々の墓。
そう刻まれている墓石に2人は腰をおろし静かに目を閉じ、そして手を合わせた。
学生制服姿の茜とケンジは祈る。
ケンジはちらりと片目開き茜を見やる。
静かに祈る彼女の姿に彼はどきりとした。
茜は祈りを終え静かに立ち上がる。
ケンジもそれに続く。
「アンタ、アタシの事ずっと見ていたでしょ」
「なっ!」
ケンジは顔を赤らめる。
「気づいていたんだからね」
腰に両手をあて、前かがみでイタズラっぽく茜はケンジの顔を覗き込む。
「ばっ、馬鹿・・・な」
「ふふふ、あたしの勝ーち、ね」
風が吹き、桜の花びらが舞った。
茜はふと寂し気な表情を見せ青空に泳ぐ桜の花を見た。
「じぃじ、ばぁば」
両拳を固めて胸に押さえる。
「・・・・・・」
ケンジは勇気をだして、震える手で茜の右肩に手を置く。
「きっと、元気にやっているよ」
「うん」
茜は頷き、破顔するとケンジの右手を引っ張り走りだす。
「おい、ちょっと」
「ケンジのくせに生意気だぞ」
2人は笑顔で春の道を駆ける。
ヤナガーの町は、ランタンを灯し、夜を消し去るように明かりで彩り染まる。
あれから1年、魔王征伐と真の平和を祝い祈念して「ヤナガー暁祭り」が今年より開催されるのだ。
メインイベントは、夜のヤナガーの掘割を舟で巡るナイトパレードだ。
暁屋の舟がずらりと桟橋に並び、その時を待っている。
夕暮れに沈む時間帯、船頭たちのシルエットが桟橋に見える。
この日を心待ちにしていた客たちは、めいめいに弁当や料理、お酒にジュースを舟へと運びこむ。
ディドとディジーは桟橋を走り回り、お祭り気分を満喫、喜びを爆発させている。
受け付けでは桜とフィーネ、フレアが笑顔でお客の案内をしている。
バリーは割り当てられた舟をチェックしながら、持ち物を運び込むお客を手伝っていた。
係留する舟のロープを持ち、その時を待つ暁屋の船頭たちは、クレイブ、アルバート、ギルモア、李そして・・・。
ぷかり。
紫煙が黄昏の空へと舞い広がる。
「あなた」
桜の声がする。
「ん、ああ」
桟橋に胡坐をかく一郎は微笑んだ。
そして、ゆっくりと立ち上がり、埃を払う。
「さぁ、いくか」
「いってらっしゃい」
一郎は桜の頭をぽんぽんと撫で、皆の元へ歩く。
「社長っ!」
皆の笑顔がそこにある。
彼は胸を張り、先頭の一隻の舟のロープを持ち、一方の手で竿を水底に押し込んだ。
くるり振り返り破顔する。
「ようこそ、暁屋へ」
ヤナガーの掘割に浮かぶ、どんこ舟。
こちら舟屋暁屋は今日も川下り日和。
暁屋はここにあり。
これにて完結でございます。
ここまで読んでいただいた皆様には本当に感謝でございます。
いや~正直、もうちょっと書けたんじゃないかと反省・・・後悔みたいなものがあります。
川下りの風景、船頭の動きや所作、利点になるところを、丁寧に上手に書けなかったです。
だいたい週3の投稿で平均して1000文字ぐらいですか、とにかく途切れることなく書きました。
なんで、えーいっと納得しないまま投稿することも多々・・・(汗)。
しかし途中で止めてしまうと、絶対書かなくなる恐れがあるなと感じていましたので(笑)。
特に拙作は、10万字越えても感想が0という、モチベーション維持にはしんどい状況が続きました。
読んでくれていると実感しますし、励みになりますからね。
つくづく感想ってありがたいものだと実感出来ました。
ま、それでも完結までもってこれたのは、作品の云々はどうであれ、良かったとよくやったと自分を褒めております(笑)。
しかしながら、一郎をはじめ登場キャラたちは、もっとやれただろうという叱咤の声が聞こえてきそうです。
ま、これが今の私の実力と認識し、精進しませう。
ありがとうございます。




