漆、暁屋みーてぃんぐ
一郎の決意。
暁屋に灯がともる。
フィーネは一郎の話にしばし耳を傾けた。
「真の魔王現る・・・本当の戦いね」
話が終わり、フィーネは呟いた。
「作り物の世界ではなかった・・・この世界を守るための隠れ蓑だったとは、あの時の記憶も本物だったとは・・・なんかすまんかった」
詫びを入れる一郎の言葉に、フィーネは苦笑する。
「まあ、過ぎたことよ。時が来るのを待っていた。それが今というだけ」
「勝算はあるのか」
フィーネは一度目を伏せ、それから力強く彼の瞳を見た。
「あるわ」
「わかった・・・だけど、皆を巻き込むのは忍びないが」
「なにを言っているの。神力宿る暁屋皆の力が無くては、巨大な敵には立ち向かえないわ」
「・・・わかっている・・・その為のニライカナイの日々」
一郎の表情には苦悩がみえる。
「皆を呼びましょう」
「ああ、だが早々病に罹った者達は?」
「ふふふ、あなた達は、神世界で常人を凌ぐ力を授かっているのよ。魔王の遥か彼方より攻撃ぐらいでどうにでもなるものじゃない」
「じゃ、なんで?」
「それは、病は気からよ。自分達が普通の人って思っているから、病をもらって思い込みが発生しているの」
「そんなものなのか」
「そんなものよ」
フィーネは笑った。
暁屋に皆が集まった。
病を押してやってきた皆に、フィーネは一郎に目配せを送る。
「・・・・・・」
うおっほんと咳払いをする。
「みんな、それ(病)、気のせいだ。気合を入れろ」
「はあ?じっちゃん、何言ってんのよ」
ドテラ姿で額に氷嚢を乗せている茜がキレ気味言い放つ。
「・・・いいから、ほれ、ワシを信じろ。3回手を叩くとお前たちは元通り。ほい、1、2、3」
「そんな馬鹿な・・・」
と、ケンジ、クレイブやフレアも頷くが、子どもたちが開口一番、
「なおったー」
「ねっ」
と、飛び跳ねる。
「ホント」
茜は驚きを隠せない。
そして、一郎は皆に事の仔細を伝える。
それはにわかに信じ難いことだった。
病の元凶が魔王であり、それを討伐する者が、自分達暁屋の面々であるということに戸惑いを隠せない。
が、一方で自分達がやらねば明日が無い、そんな使命感も湧きあがる。
また、恐怖を感じるもの、家族が危機に晒されるのを受け入れられない者もいる。
「私たちは行けません。すいません、社長」
クレイブは真っ先に頭をさげ、一郎は首を振る。
「いや、当然だ。ワシだってきっとそうする。家族を守るのは何より尊いことだ」
「この世界が無くなってしまってもか」
ギルモアはきつい言葉を投げかける。
「それは人それぞれじゃ」
李はギルモアを嗜め続ける。
「社長、ワシも降りることにする。もはや、なるようにしかなんでの」
人生を達観する老人は伝える。
「わかった」
一郎は頷く。
「ワシ自身は、こんな戦い・・・人の存亡がかかった戦いだが、巻き込みたくはない。なぜなら・・・」
「なぜなら」
バリーが復唱する。
「ワシ一人でなんとかなると思っているからだ」
「社長、その根拠は」
アルバートが訝し気に尋ねる。
「へのつっぱりはいらんですよ」
「誰が知ってるのよ。とにかく凄い自信があるってこと」
桜がツッコミ補完した。
「とにかくだ。ちょっくら行ってくるわ。留守番の皆は頼んだぞ」
一郎は笑顔をつくり、散歩でも行くような軽いノリで言った。
皆の思い。




