肆、パンデミックどうする?
当たり前のことが・・・。
ヤナガーの川下りは絶望的な危機をむかえていた。
暁屋は毎日が開店休業となってしまった。
お客が来ないというか来れないのだ。
店は一郎と桜だけ、他の皆は感染予防対策の為、さしあたっての自宅待機となっている。
その間にも、茜とケンジが早々病に感染した。
暁屋にも得体のしれない脅威に見舞われていた。
ルーン家族が早々病を患って2週間が経った。
依然として、回復に至っていない。
子どもたちは一時期、健康状態を取り戻したが、再び高熱を発した。
長い間、続く流行り病に、桜は恐怖と疑問を感じた。
誰もいない桟橋に一郎と桜がふたり。
ぷかり青空に煙管をふかせる。
桜は俯き溜息をつく、掘割の水面に彼女の顔が映る。
「茜達まで早々病に・・・いつまでも治らない?コロナじゃないの?」
桜は不安気に一郎へ言った。
「だから、早々病だよ」
彼は答え、続けて、
「あっちの世界はあっち、こっちの世界はこっちだ」
「そんな・・・あなた・・・みんな大丈夫かしら」
「ああ、大丈夫だ・・・きっと」
「きっとね」
「ああ」
ぷかりと一服。
紫煙が空に舞う。
「うん、きっと大丈夫だ」
一郎は自分にも言い聞かせる。
根拠のない言葉だが、彼が言うなら・・・・と、こくりと桜は頷いた。
さらに数日が経った。
世界が早々病の脅威に次々と冒されている。
そんな最中、ヤナガー国も早急の対応に追われた。
国王のベルガモットはついに緊急事態王令を発する。
王は他国と自国すべての往来を禁止し、流行病がおさまるまで極力外出を控え、身の安全を確保するよう国民に通達した。
ヤナガーの国は、閉ざされ、それまで賑わっていた街の賑わいや喧騒は消え、外で子どもが遊ぶ姿もなく、ゴーストタウンと化した。
暁屋の入り口に、一郎は休業中の張り紙を貼ると溜息をつく。
いつものように一服しようと桟橋に向かうと、愚直そうな屈強な衛士が現れ彼に恭しく一礼をする。
「イチロー殿、我が陛下がお呼びでございます」
当たり前でなくなる。




