肆、開戦
戦。
祖神ナミは目を閉じ、腕組みをしたままじっとその時を待った。
そして、刻限を過ぎた。
ため息にも似た、吐息を吐くと、一瞬だけ口角が歪み黄泉の軍勢に告げた。
「刻限じゃ!進撃開始っ!」
「おおおっ!」
いきり立つスサノオは拳を突き上げ、軍膳は粛々と高天原へと進む。
「ちょっ!もう!なにやってんのよ。サルっ!」
ツクヨミは迫りくる軍に踵を返し退いた。
(転送!)
月の神は御業で、姉のアマテラス大神殿へと自らを転送する。
「姉上、開戦です」
ツクヨミは単刀直入に伝えた。
「左様か」
アマテラスは頷き、すぐさま大号令をかける。
「すべての神々に告ぐ。これより高天原は黄泉神ナミ率いる軍勢との戦とあいなった。私怨にかられた祖神を早急に討つべし。すぐさま戦地に赴きこの地を亡神より死守せよ」
高天原の空にアマテラスの姿が映し出され、女神は火急を伝えた。
「・・・姉様」
ツクヨミは無念を滲ませる。
「こうなる事は運命だった。かように思うしかあるまい・・・」
(・・・サルタヒコ)
アマテラスは念を使い旅神に話しかける。
(ただちに、こちらに赴け。それと、人の子一郎も連れてな)
(はっ)
トボトボと帰路につこうと舟に乗り込む2人にアマテラスの声が語りかける。
「という事じゃ、一郎」
「という事って、なんだよ」
一郎は不服そうに言った。
「聴こえておったろ」
「・・・・・・」
「お主は、隔世を経て最も神に近い存在じゃ。アマテラス様の声も届いておるて」
「・・・・・・」
「では、行こうかの。そっちじゃ」
サルタヒコは彼方の海原を指し示す。
「しんどいよ」
一郎は呟いた。
「つべこべ言わずに行けいっ!」
サルタヒコは叱咤する。
一郎は竿を海面にさし、舟を進めた。
はじまる。




