十一章、神の舟三幕~史上最大の夫婦喧嘩~ 壱、黄泉からナミの軍勢が迫る
風雲急を告げる。
大神アマテラスより命を受けたサルタヒコは、急ぎ黄泉平坂の入り口へと向かった。
旅の神はふと思う。
(あれ、スサノオ様ってマザコンじゃなかったっけ)
嫌な予感が当たった、平坂が近づくと黄泉の軍勢が大挙していた。
しかも、先頭に立つのはスサノオ、それに両手をあげて制止しているのがツクヨミだった。
(あちゃ~)
最悪な場面に出くわすも、サルタヒコはツクヨミの隣に並ぶ。
「ツクヨミ様」
「サルタヒコ、よう来た。このアホの弟は、はじめっからお母様に加担するつもりだったのよ。といっても、私たちはナギ父から生まれたので・・・なんとも変な感じなんだけどね。なんでアイツは母に情があるのよ」
「父許すまじっ!」
スサノオは拳を掲げ激昂する。
「だから、なんで、アンタ、母に加担するのよ」
「ツクヨミそこをどけっ!母が高天原を統べる時が来たのだ」
「堕天した神が治められる訳なかろう」
「母ならできるっ!」
「このマザコン野郎」
「我がナミの軍勢の先鋒となりて、神々を切り捨てようぞ」
「このバチ当たりが」
「分かったら、そこをのけツクヨミっ!」
「わかるかっ!」
姉弟神は互いを罵りあい、埒が空きそうになかった。
サルタヒコは溜息をつき、間に割って入る。
「お二方、まあまあ」
「サルは引っ込んどれっ!」
スサノオは大喝する。
「と言いましても、あなた様の姉君アマテラス様より、ワシは命を授かっておりますので」
「何だ!」
「ナミ様と和平交渉せよ」
「無理だ。そんなの破棄だ」
スサノオは言い捨てた。
「それを決めるのは、あなた様ではありません」
「なんだと」
弟神は恐ろしい形相で睨む。
「おやめなさい」
背後で声がした。
御輿に鎮座するナミが現れた。
「サルちゃん、こっちに来なさい」
「は」
サルタヒコは、スサノオを一瞥しナミの元へ赴く。
弟神は大きな舌打ちをし不満を露わにする。
「で、我が夫はなんと」
「ナギ様は関与されておりません。ワシはアマテラス様の命により、この危機を回避せよと仰せつかりました」
「ふう。まあ、そんなところでしょうね。サルちゃんも大変ね。しかし、ナギはこの期に及んで、まだ逃げようとするのですね」
ナミは一瞬、寂しそうな顔を見せた。
「ナミ様、ここで矛をおさめなければ、高天原を二分する・・・いや滅亡するような大乱となりますぞ、何卒、自重していただきたい」
「駄目よ」
ナミはぴしゃりと言った。
「・・・ナミ様」
「私は、この時を何千何万と待ったの。もはや後には引けないわ」
「何卒」
サルタヒコは平伏し懇願する。
「そうね、サルちゃん。だったら、ナギをここに連れて来て頂戴」
「・・・は」
「いいわね。それまで待ってあげる。猶予はそうね一時(約2時間)」
「・・・はあ」
「刻限を過ぎたら、ただちに高天原を制圧するわ」
こくりと不承不承で頷いたサルタヒコは踵を返し、全力で駆けだした。
一郎は、いつものように神を乗せて、神世界の舟の遊覧していた。
突然、空に文字が浮かびあがる。
「緊急事態。高天原および神世界でのすべての活動を停止せよ」
一郎はいい知れぬ不安を感じた。
神乃世界。




