捨、ようこそ神の湯へ~就寝~
風雲急。
神の湯に星が降る。
賑やかだった宿は静まり返る深い夜。
暁屋一同は宴会部屋で布団を敷いて寝ている。
大きないびきが響く暗がりの中、のそりと起きあがった一郎は部屋を離れ外の空気を吸いに出た。
フルムーンが頭上にある。
一郎は、肺の中に、夜の空気を吸い込むと、煙管をとりだし、煙草の葉に火をつけた。
紫煙が夜の空に吸い込まれる。
「こらっ!」
彼はその声にびくりとなり振り返る。
「・・・桜か」
「へへ、びっくりした?」
桜は悪戯っぽく笑うと、一郎の左手に両腕をからませる。
「おい」
照れながらも満更でもない一郎だった。
「綺麗な月ね」
彼女は呟く。
「ああ」
彼は頷いた。
2人はしばらく青く輝く満月を眺めた。
その頃、サルタヒコは大々宮と呼ばれる大神アマテラスが住まう大神殿に招かれていた。
旅の神が呟く。
「はじまりましたか、アマテラス様」
「ああ」
「大変なことになりましたな?」
「父は母の逆鱗に触れた。母ナミはヨミの国より、この高天原制すべくこの地にやってくる。布告の詔が今発せられた」
大神アマテラスは、そう言うと嘆息した。
「ナギ様は何と」
「阻止せよだ」
「・・・そうですか、自らは出られまいか・・・いやはや痴話のもつれとは恐ろしいですものな」
「父も困ったものじゃ。母の言う事をしかと聞いておけば・・・ここまでには」
「だが、それであなた様がお生まれになりました」
「言うな。それもまた運命」
「しかし、あの神話より実に長きに渡る時を経ております」
「・・・それが男女の業というものよ。ふつふつと沸き起こる夫への怒りをナミは抑える事が出来なかったのであろう」
「いかがいたしましょうか?」
「このままでは、この世界はナギとナミの夫婦喧嘩で消滅してしまうであろう」
「・・・そうですな」
「それは避けなければならぬ、まずは黄泉平坂の出口を塞ぎ、ヨミの軍勢を足止め時間稼ぎをする。勅使を遣わし出来る限り穏便に事をおさめることに尽力する。その間、神の軍勢を編成し、交渉決裂の場合は、ヨミとの決戦じゃ!」
「はっ」
「サルタヒコよ」
「はっ!」
「其方には、母ナミの説得にあたってもらう」
「は?」
「弟スサノオが平坂の道を塞いでおるので、言うて道を開けて交渉にあたれ」
「ワシは交渉など・・・」
「いけっ!サルタヒコ其方に、高天原の未来がかかっておる」
「いけずう」
サルタヒコは悲しい顔を見せ、アピったが、アマテラスは顎をしゃくって早く行けと流した。
神の国は風雲急を告げる。
さあ、そろそろお話はクライマックスへと・・・いくんかな(笑)。




