第110話 覚醒進化──1
「麒麟よ……汝に力の祝福を与えん!」
詠唱すると、ベヒーモスの周りの六個の覚醒進化素材は一斉に輝き始め、光がベヒーモスを覆った。
その光が七色に変色したあと、光が収まると……覚醒進化素材は全て消え、そこにはベヒーモスだけが残った。
覚醒進化、成功だ。
「どうだ、ベヒーモス」
『……こ……れは……』
調子を聞くも、ベヒーモスは目をまん丸にしてその場に立ち尽くすばかり。
『……まさか我が身に、こんなことが起きる日が来るとは。まるで別人に変わったみたいだ!』
しばらくして、ベヒーモスは嬉しそうにそう言って辺りを飛び跳ねた。
「力は上がった気はするか?」
『上がったとかそういう次元ではないだろう、これは。生物のヒエラルキーのトップに立ったなんてもんじゃない。ヒエラルキーそのものを嘲笑う立場になったかのようだ!』
……なんか良く分からない比喩だな。
などと思っていると、ベヒーモスはおもむろに空を見上げる。
かと思うと……触覚から、空に向かって強力な光線を放った。
十数秒後、空からは黒焦げのドラゴンの死体のようなものが落ちてくる。
『インフェルノドラゴンも、この通りたった一発の陽電子で消し炭だ! なんと素晴らしいことか!』
……っておい、これインフェルノドラゴンかよ。
存在そのものが炎の化身とまで言われる最強クラスのドラゴンを焼き尽くすって、世界でも類を見ないレベルのゴリ押しだぞ。
というかベヒーモス……触覚から陽電子砲放てるのか。
それって元からなのか?
「ベヒーモス、お前陽電子砲なんて打てたのか」
『そんな訳はない。今までだとせいぜい雷撃を飛ばすのが精一杯だった。陽電子はその……理論として概念だけは知ってたから、撃とうと思ったら撃てるかなーと思ってやってみたら、なんか成功したのだ』
ただの天才だった。
世界最高レベルの高度な魔法を、試運転で軽く成功させたとは。
「でも……なんでインフェルノドラゴンを倒したんだ? さっきはあまり戦いに興味なさげだったのに……」
『まずは力を試したいってのと……それから、奴には恨みがあるからだね。僕は昔、あのドラゴンを観察しようとしたことがあったんだけど……アイツ僕のことを悪趣味だっていって、ブレスを放ってきたんだよ! だからその……意趣返しかな』
「はあ……」
ブレスの意趣返しが陽電子砲だとどう考えてもやり過ぎに聞こえるが、まあ覚醒進化前のベヒーモスにとってはインフェルノドラゴンのブレスだって命とりレベルだったろうしな。
そう考えると、釣り合っていると言えなくもない……のだろうか。
まあ何にせよ、この強さは間違いなく俺の求めていたものだ。
前世には、覚醒進化しただけで陽電子砲が使えるようになる魔物なんていなかったし、間違いなくこれはアルゴリズムの推定結果に嘘偽りがなかったということだろう。
だが……これで終わりではないのだ。
覚醒進化には、まだ続きがある。
「ところで……ベヒーモス。覚醒進化には、実はもう一段階あるんだ。せっかくだし、このままそっちも試してみないか?」
もう一段階とは、もちろんアルテミスによる覚醒進化のことだ。
この間デーモンコアを持っていったこともあるし、追加でもう一体の覚醒進化を頼んでも快く引き受けてくれるだろう。
などと考えつつ、俺はベヒーモスにそう提案した。
『……は?』
すると、ベヒーモスが一瞬固まった。
『あの……流石に冗談だよね?』
しばらくすると……ベヒーモスはおそるおそるといった感じで、俺にそう聞いてきた。
『この反則みたいな強化が……もう一段階ってさあ?』
「いや、本気だ」
どうやらベヒーモスは、覚醒進化がもう一個あるという事実を受け止め切れていないようだ。
「別に信じられないとしたら、それでもいいんだが……これだけは聞かせてくれ。もし本当にそういうものがあるとしたら、やってみたいか?」
『ま、まあ、本当にあるならな……』
「決まりだな」
とりあえず賛同は得られたので、俺はこれから月に向かうことに決めた。
とはいえ、一旦例の湖に戻ってたりしたら、時間がかかってしまう。
まずは、この辺りで如意棒を刺す土台にできそうな場所を聞くとするか。
「この辺にどっか……生物が一切いない湖とかあるか?」
『なんでそんな事を聞くんだ?』
「二段階目の覚醒進化のためには、月に行く必要なあるからな。そのためには如意棒っていう、この伸縮可能な棒を伸ばしていくんだが……そのためには、この棒の端を地面に固定する必要があるからな。湖を凍らせて、土台にするんだ」
するとベヒーモスはきょとんとして、こう返した。
『……なぜそんな手間をかけるんだい? 棒を地面に固定するなら、穴を掘ればいいじゃないか』
次回更新は4/1の予定です。




