パーティー本番
誤字報告ありがとうございます!
王家のパーティーは、招待された身分の低い人から入場していくそうで、主催で王族のこの部屋のメンバーは、当然最後になる。
辺境伯と呼ばれる助の実家は、伯爵家ではあるけど、辺境で他国との境界を守る国の要でもあるので、実質侯爵家と同等の地位と見なされる。
何が言いたいかと言うと、辺境伯以上の地位の貴族は、入場の際には名前を呼ばれてから入るのである。
とても目立つ。
助とシェルは、さっさと先に入場してしまってここにはいない。
何故その時付いて行かなかったのかと、ちょっと後悔している。
別に緊張はしてないけど、無駄に目立つのは好きじゃない。
閉められた大きな両開きのドアの前、中から大きな声で、
「リュグナトフ国第三王子アールスハイン殿下、妖精族ケータ様、ご入場」
ドアが開かれ、多くの人が見守る中、拍手を浴びながら、アールスハインがゆっくりと歩いていく。
そちらこちらから短く令嬢の歓声が上がる。
俺に向けられた好奇の目も多い。
王様椅子の置かれた一段下の段差に立つ。
次にキャベンディッシュ、次にイングリードにエスコートされたクレモアナ姫、王様とリィトリア王妃様は同時に入場。
王様とリィトリア王妃様、クレモアナ姫は一番高い位置の椅子に座り、イングリード、キャベンディッシュ、アールスハインは一段下の段差に立つ。
王族が揃うと、全員揃っての男性は胸に手をあて立礼女性はカーテシー。
更に一段低い場所に、宰相さんと将軍さん。
その一段下がった所にパーティー出席者。
会場中央、王家の前には、着飾った、でもまだぎこちなさの残る若者。
今夜デビュタントを迎える子供達。
「頭を上げてくれ」
王様の善く通る声に、全員が頭を上げる。
続けて王様の挨拶。
「今宵、また新たな貴族の若者を迎えられる事を嬉しく思う。あまり厳しい目ばかり向けずに、未来のこの国を背負う者達の、良き導き手になってもらいたい。宴を楽しんでくれ」
ワアアアと歓声と拍手が鳴り、楽団の音楽が流れ出す。
王様とリィトリア王妃様が、手を取り合って会場中央に、音楽に合わせて踊り出す姿は、映画の一場面のよう。
一曲踊っても二人は離れず、二曲目へ。
二曲目はイングリードとクレモアナ姫様も参加。
二曲目が終わると、王様とリィトリア王妃様は席に戻り、イングリードとクレモアナ姫様も席に戻った。
三曲目は、デビュタントを迎えた子供達が、パートナーと踊り出す。
たまにぶつかる子や、転けてる子もいるが、周りは微笑ましげに見ている。
四曲目からは、大人も参加。
踊らない人は王様達への挨拶の列に並ぶ。
長いよ、挨拶!
中には貴族的な言い回しで嫌味を言ってくる奴とかもいて、面倒臭い事この上ない!
全部笑顔でお礼言ってやったけど。
後ろでシェルが密かに笑ってた。
長い長い挨拶が終わって、解散。
まだ帰れないけど、自由に歩いてて良いって。
ユーグラムは、貴族的なパーティーには参加しない。
ディーグリーは平民なので、参加資格が無い。
なので顔見知りがほぼ居ない。
アールスハインに果敢に挑もうと話し掛けて来る令嬢も数人はいたが、何故か皆自分に自信有ります!系の派手派手な令嬢ばかりで、全く話が弾まない。
何故か最後に俺が睨まれるし。
シェルが持ってきてくれた、炭酸の入った果実水を飲みながら壁際に。
「ハインー、ハインによってくりゅれーじょーって、こーわいにぇー(ハイン、ハインに寄って来る令嬢って、怖いねー) 」
「あー、自分から寄って来んのは肉食系ばっかだからな!」
人目が無いので、助が答えた。
「遠巻きに見ているだけの令嬢は、ハイン王子には中々話し掛けづらそうですしね」
シェルが笑いながら参加。
「悪かったな無愛想で!」
「自覚があるなら、改善してください」
「あー、そうなると、今度は勘違い令嬢を量産しそう」
「…………確かに、それも面倒ですね。なら今のままが良いんですかねー?」
「お前ら、遊び過ぎだ!」
「「ハハハハハハハハ!」」
アールスハインが怒らないのを知ってる二人がふざけていると、
「フフフ、皆さん仲がよろしいのね?」
鈴を転がすような軽やかで可愛らし声をかけてきたのは、宰相さんの娘のイライザ・スライミヤ嬢。
後ろに一人、白い薔薇を胸に刺した少年を連れている。
「イライザ嬢」
アールスハインが頭を掻きながら声をかけると、
「楽しそうな所にお邪魔してごめんなさい。弟を紹介させていただいてよろしいかしら?」
「ああ、紹介を受けよう」
「ありがとうございます。こちらわたくしの弟の」
と、イライザ嬢が半歩よけると、前に出た少年が一礼してから、
「私は、宰相を務めさせて頂いている、リングラード・スライミヤが長男、クリスデール・スライミヤと申します。アールスハイン殿下のご活躍は姉から聞いております。よろしくお願いいたします」
顔はイライザ嬢とそっくりで、少し幼くした感じ。中々の美少年。
「ああ、第三王子のアールスハインだ。デビュタントおめでとう、よろしく」
ほんのり笑うアールスハインは、普段のキツい印象が薄れて、元々持ってるフェロモンが漏れ出る。
それに姉弟がうっすらと頬を染めるが、それだけ。
ただし、こちらに注目してた令嬢の何人かは、顔を真っ赤にさせて、今にも倒れそうにフラフラしてる。
それを見てシェルがサイレント爆笑してる。
軽く挨拶を済ませたが、イライザ嬢が何故か俺を見てモジモジしてる。
「にゃにー?」
「あ、あの、ケータ様が、お嫌でなかったら、その、抱っこさせていただけないでしょうか?」
キツい目元を緩めて、恥ずかしそうにモジモジする姿は、普段とのギャップが!正しいツンデレですね!
「どーじょー」
と、両手を出すと、ハワハワしながらそっと抱き上げられる。
「フフフ、ケータ様は軽いですね!」
「よーしぇーじょくらからにぇ(妖精族だからね)」
「お小さいのに、首は確り据わってますし」
多少ぎこちなさは有るが、落とさないように確りと抱っこされてる。
「隣国に嫁いだ姉が、今度出産の為に帰国するのですが、わたくし、小さい子の相手をしたことが無くて、失礼とは思ったんですが、ケータ様にお会いしてから、一度抱っこしてみたかったんですの!」
キツい印象の美人が、はにかみながら抱っこしてますよ!抱っこされてるの俺だけど!
実に可愛い。
前世の妹を思い出した。
「あかたんたのちみにぇー(赤ちゃん楽しみねー)」
「はい!」
うん、可愛い。
その後、話を聞いてウズウズしたのか、弟にも抱っこされたが、少々力加減が強いぞ弟!
本物の赤ちゃんならギャン泣きされるぞ!と、教育しといた。
スライミヤ姉弟が去った後は、爽やか君とお友達が数人挨拶に来て、イングリードがイライザ嬢と話してるのを、遠目で見てニヤニヤしたり、キャベンディッシュが令嬢を侍らせて、自慢気に目の前を横切って行ったり。
暇なので、飲食コーナーに行ったら、大量の唐揚げの山に、若者が群がっていた。
料理長が、自慢気におかわりの皿を持って来ては、すぐに山が崩されてた。
人気ですね、唐揚げ。
こんな豪華なパーティーで出すには、地味な見た目なのに。
シェルが適当に、でも綺麗に盛り付けてきた皿をつつきながら、ボンヤリと周りを観察。
ふ、と気になる匂いを感じて、鼻がひくつく。
香ばしい、懐かしい匂い。
匂いを辿ってフラフラ飛ぶと、壁にぶつかる。
咄嗟にしがみつくと、変わった民族衣装のような服を着た、恐面のお兄さんだった。
驚いて落ちそうになったが、恐面のお兄さんが尻を支えてくれたので、落ちずにすんだ。
「君は、王子と一緒にいた妖精族の子かな?」
「しょー、よーしぇーじょくのけーたでつ(そー、妖精族のけーたです)」
「私に何か用かね?」
「にゃちゅかちーによいちた(懐かしい匂いがした)」
「んん?」
「こらケータ!」
そんな声と共に首根っこを掴まれ捕獲された。
捕まえたのは助。
「失礼致しました」
と、深々と頭を下げて、後ろのアールスハインに俺をパス。
アールスハインが相手を見て驚いた顔で、
「貴方は、海洋国アマテの王子、スサナ殿でしたね、ケータが失礼を致しました」
アールスハインまで軽く頭を下げた。
「いえ、お気になさらず、幼児のした事です。それよりも、そちらのケータ殿が、何か言ってたのですが、生憎私には理解出来なくて」
と、こっちを見るので、皆にも見られた。
「ケータ、何故スサナ殿に突然張り付いた?」
「にゃちゅかちーによいちた(懐かしい匂いした)」
「懐かしい匂い?」
「しょー、しょーゆにょによい(そう、醤油の匂い)」
「は?けーた、マジか?おいそれって!」
「?どうしたティタクティスまで興奮して?」
「え?あ!し、失礼しました」
助が興奮して、素が出てしまったことを謝ってる。
「いや、構わないが、懐かしい匂いでしょーゆとは、何の事だろうか?」
スサナ王子が、直接助を見るので、
「ええと、しょーゆとは、調味料の一種で、香ばしい香りのする黒い液体です」
「………………香ばしい香りのする、黒い液体?黒くは無いが、これだろうか?」
そう言ってスサナ王子が出したのは、小瓶に入った赤茶色の液体。
その小瓶から微かに醤油の匂いがして、
「しょりぇ!しょーゆ!じゅっとしゃがちてた!(それ!醤油!ずっと探してた!)」
あまりの俺の食い付きに、若干引きながら、小瓶を差し出して、
「そんなに探してたなら、これはケータ殿に差し上げよう」
「いーにょ?ありあとーごしゃましゅ!」
飛びついちゃうよね!
「しゅしゃにゃおーじにょくににいきぇば、しょーゆうっちぇましゅか?」
「……………悪いが、ケータ殿の言葉は、私には難しい」
「すみません、けーたは、スサナ王子の国に行けば、しょうゆが買えますか、と聞きました」
「ふむ、今まで我が国は絹くらいしか売れる物が無いと思っていたが、しょーゆは売れるかね?」
「かいましゅ!」
「そうか、こちらではあまり馴染みの無い味だと思うが、検討してみようか」
スサナ王子が考えに沈んでしまったので、その隙にと、アールスハインが話かけてきた。
「ケータ、そんな簡単に言って良いのか?国の貿易の話だぞ?」
「けーたおかにぇもってりゅよ?(けーたお金持ってるよ?)」
「確かに持ってるが、輸入品として、国に流通させるのは、簡単な事じゃ無いぞ?」
「かりゃあげもっとーおーちくなりゅよ?(唐揚げもっと美味しくなるよ?)」
「なに!それは本当かね?」
唐揚げに食い付いたのはスサナ王子。
「先程食べたこの唐揚げとやらが、更に旨くなると?」
スサナ王子が持つ皿には、唐揚げがこんもり盛ってある。お気に召したのね。
「しょーゆあじのーかりゃあげおいちーよ!(醤油味の唐揚げ美味しいよ) 」
「ソイユ味の唐揚げか、旨そうな予感はするな!是非食べてみたい!」
凶悪な顔しといて、とんだ食いしん坊である。
だが今はパーティーの最中なので、ご馳走することは出来ない。
とても残念そうな食いしん坊王子。
醤油の輸出は前向きに検討してくれるそうです!
「しゅしゃにゃおーじにょくにに、こみぇありゅ?(スサナ王子の国に米ある?)」
「スサナ王子の国には、米は有るかと聞いてます」
助がすかさず通訳する。
「米とは何かね?」
「しりょいちゅぶちゅぶのー、もちもちのしゅしょきゅににゃりゅやちゅ!(白い粒々の、モチモチの主食になるやつ!)」
「白い粒の、火を通すともちもちした食感になる穀物?」
この世界ではまだ会ったことの無い米なので、説明が曖昧になる助。
「白い粒の穀物?穀物では無いが、もちもちとした食感と言うなら、野菜の一種として食されているライスが似た感じだろうか?」
「しょりぇだ!」
俺が叫ぶと、ビクッと体を揺らし、
「だがライスは穀物では無く、茹でてサラダ等にかける野菜だろう?」
「たべかたぎゃちなうけろ、たびゅんほちかったやちゅ!(食べ方違うけど、たぶん欲しかったやつ!)」
「そ、そうか。今回の荷物に多少は積んであるから、分けることはできるぞ」
「ありあとーごしゃましゅ!」
後日受け渡しをする約束をして、そこでスサナ王子とは別れた。
一人ホクホク顔をしていると、クレモアナ姫に捕まって、可愛い!と頬っぺたにブチュッとされた。
疲れたけど、大収穫のパーティーでした!
途中眠気に負けた俺を言い訳に、アールスハインが、早めにパーティーを抜けたので、そのまま部屋に帰って寝ました。




