肉日和 2
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一頻りはしゃいだガジルさんが正気に戻り、
「そんで俺はこれを肉にすりゃいいのか?」
と何食わぬ顔で聞いてきた。
シェルが痙攣しっぱなしです。
「かわはいでー、ぶいぎょとにーわけてほちー(皮剥いで、部位毎に分けて欲しい)」
「皮を剥いで、部位ごとに分けて欲しい?」
「しょー、しゅじとけんは、たしゅきゅがやりゅ(そー、筋と腱は、助がやる)」
「俺かよ!」
助の抗議の声に、俺の両手を前に出す。
「あーはいはい、その手じゃ無理だもんな」
諦めたように肩を落とす助。
「しゅじ?けん?」
悪の大物顔で俺の言葉をなぞっております。
シェルの息が絶え絶えです。
「まあ、部位ごとに分けりゃいいんだな?」
そう言って、見た目にそぐわぬ丁寧な手付きで羽根をあっという間に抜いていき、羽根を袋に詰めると、残った産毛のような羽根を火魔法で焼きます。
後は内臓を取り出し部位ごとに分けていくだけ。
血抜きが完璧なので、思ったよりもグロくない。
他の皆は?と見ても特に引いたりはしていない。
この世界の人達は、魔物に日々脅かされているので、子供の頃から魔物の解体などは日常の内に有るらしい。
鼠や兎の魔物くらいなら、庶民の主婦でも解体出来る人は多い。
調理場にも近付いた事の無い貴族令嬢達でさえ、幼年学園では簡単な魔物の解体が、授業で有るらしい。
魔物は脅威だけど、資源でもあるからね。
そんな事を聞いてる内に、解体がほぼすんで、ここからは助の出番です。
大きな作業台に載せられた巨大な肉の塊。
城でもやったので、サクサク筋と腱を取り除いていく。
「おいおい、そんなに切ったら肉が小さくなって売り物になんねーだろー」
「いやいや、これをちゃんとやっとくと、肉が驚く程柔らかくなるんですよ!」
「肉が柔らかく?肉が柔らかくてどうすんだ?」
「柔らかい肉は、旨いんですよ!」
「旨い?本当か?」
「調理場を貸してもらえるならご馳走しますよ?」
「おう、確かめさせてもらおうじゃねーか!」
話が纏まったもよう。
結構な大物だったが、途中からガジルさんも見様見真似で手伝い出して、それに俺が口出して、何とか夕方までには二匹分の処理がすんだ。
夕飯に間に合うように、味見の分だけ肉を焼く。
肉の柔らかさと、臭みを確かめるため、味付けはシンプルに塩だけ。
一口大に切り分けて、各々がパクリ。
ガチンと歯の噛み合う音がして、皆予想外の柔らかさに驚いている。
「「「「……………………………………………」」」」
一同無言。
前世の地鶏くらいの柔らかさにはなったかな?
臭みもほぼ無く、とても良い仕事をしたと一人満足していたら、
「あー、旨いわ~、これこれ!臭く無い肉って良いわ~」
「ウエ~イ!」
助とハイタッチしてると、
「やばっ、なにこれ!これが肉?こんなん生まれて初めて食べたんだけど!!やばっ!」
ディーグリーがやばいやばい大騒ぎ。
「ああ、ケータの言っていた事が理解出来た。これは旨い。家で出された肉もかなり旨いと思ったが、これとは別物だな!旨すぎる!」
アールスハインが絶賛しております。
ユーグラムは無言無表情だが、目を瞑って延々と噛んでいる。
シェルは、なんか含みの有る笑顔でフフフフフって笑ってる。
「オオオオオオ!こりゃ肉の革命だ!!!」
ガジルさんが雄叫びを上げた。
そしてガジルさんが土下座をしております。
「頼む!この技を伝授して下さい!」
「このしぇかいにも、どぎぇじゃあんのにぇ(この世界にも、土下座あんのね)」
「いやいやけーた?今そこじゃないから!」
「しゃっきやっちゃのとー、あとはーがぎゃはりしゃしゅらけよー(さっきやったのと、あとはガガ針刺すだけよ)」
「そうね、ほぼここでやったしね」
「えーと、それはこの処理方法を広めても良いってこと?」
ディーグリーが尋ねるのに、
「どーじょー」
と軽く返してやると、
「いやいやいやチビッ子、これは肉の革命だぞ!こんな処理方法今まで誰も知らなかったんだ、この柔らかい肉を売りに出したら、どれだけ儲けられるか!恐ろしい事になるぞ!」
正座のままガジルさんは訴えてくるが、
「ばんばってーひりょめてにぇ(頑張って広めてね)」
と言えば、ビタンとデコに手を叩きつけ、
「こりゃ参った!儲けより多くの人々へ旨い物を広めろってか?!スゲーなチビッ子、よし分かった俺に任せとけ!この街中にこの柔らけー肉を広めてやるぜ!」
俄然やる気になった。
ガジルさんの言うような高尚な目的は無いが、結果は同じ、柔らかい肉が広まれば、より食える料理が増える!
俺に困る要素は無いので黙ってニッコリするのみである。
ディーグリーの実家はこの国一番の大商会だ。
その商会の傘下であるこの肉屋が、柔らかい肉を広めてくれる。
素晴らしい事である。
ディーグリーに、ニヤリと笑って見せれば、ニヤリと返される。
ガジルさんに残りの獲物を練習用にと置いて学園に帰る。
解体後の二匹分は確保しました!
途中にあったディーグリーの家の店によって、ディーグリーが兄宛に手紙を書いて至急届けるように頼んでいた。
柔らか肉が広がるのは近い内かもしれない。
学園に戻り寮の食堂へ。
シェルが頼んでくれて、今日手に入れた柔らか肉を調理してもらって夕飯に。
「あああ~うまぁ~!この肉食ったら他の肉食えないかも~。明日からどうやって生きていけばいいの~」
ディーグリーが幸せそうに愚痴を溢す。
ユーグラムは無言無表情でずっと噛んでる。
アールスハインも無心に食ってるし、シェルは怪しい笑顔で食ってるし。
「なーなーけーたよ、なんか大事になる予感がすんだけど?」
「おいちーものふえりゅよかんれしょ?(美味しいものが増える予感でしょ?)」
「まぁ、確かここの食堂の肉はディーグリーの商会から仕入れてるから、その内柔らかい肉が出てくるかもしんねーけど」
「勿論そこは抜かり無く手紙に書いてるよ~」
パチンと音がするようなウィンクをディーグリーからいただきました。
後ろの方で見ていた令嬢達の悲鳴が聞こえるが気にしない。
「まぁ俺も旨い物は嬉しいけどよ」
「にゃにがちんぱいよ?(何が心配よ?)」
「んー、そもそも獲物をすぐに血抜き出来ないのは、危険地帯で呑気に血の匂いをさせてられないからだろ?いくら肉屋のガジルさんが広める気満々でも、獲物を持ってくる冒険者には、面倒事を増やされただけって解釈になんねー?」
「あーそっかー、食べた事無い人には理解出来ないかもね~」
「それに、普通の冒険者はあんなにアッサリ獲物は狩れないからな?」
「そー言われればそーかもー」
「そしたらこの柔らかい肉が広まるのはかなり無理じゃね?」
「んー、でもこの肉を食べちゃうと、他の肉を食べる気にならないしな~。なんか肉以外にもう一個分かりやすい得がないとダメかなー?」
「得って例えば?」
「え?う~ん、駆け出しの子達は、平民のしかも貧しい家計の子とかが多いって聞くし、手っ取り早く買い取り金額が倍になるとか?」
「いや、それじゃ大物の肉はずっと固いままだぞ?大物の肉こそ柔らかくして食うべきじゃねー?」
「確かにー!ベア系とかリザード系とかの柔らかい肉は食べてみたいかも~!」
ディーグリーの言葉に、それまでただ食うことに集中して話を聞き流していたアールスハイン、ユーグラム、シェルの目がグワッと大きくなった。
「それは是非味わってみたいですね!」
「ああ興味深い!」
「狩りに行く時は是非お供させて下さい!」
やる気満々になった。
「いや、まだ行くって言ってませんけど」
助がおずおずと言っても、誰も聞いちゃいない。
各々の予定の擦り合わせなどを始めてらっさる。
次の狩りは、思ったよりも早目になりそうです。
部屋に戻ってシェルが一言。
「そう言えばケータ様のマジックバッグは、時間が止まるんでしたね?」
アールスハインの目がキラーンと光った気がした。
近々遠くの森で、ベア系とリザード系の大量虐殺が起こりそうです。




