あれから、
女神が神の座を降ろされ、魔王の脅威もほぼ無くなってから、平和な日々が続いた。
王宮では辺境への視察を増やし、魔物の強化状態を確認。
練度の上がった魔法剣で十分対処可能な事が分かり、更なる戦力の向上の為に魔法剣の訓練により励んだ。
騎士団の精鋭による兵士の訓練も始まり、同時に学園の騎士科の学生にも、実力次第で、兵士との魔法剣の訓練を許された。
キャベンディッシュは、一月程部屋に籠り、一時は正気を疑われたが、何とか日常生活が出来るまでに回復し、学園に戻って来た。
生徒会長も、会長の役職を降ろされ、二週間程の謹慎の後、多少雰囲気が陰気になったものの、日常生活を問題なく送っている。
二股女は、女神の証を失ってから、魅了魔法を使った罪で教会の預りとなり、施設と呼ばれる隔離病棟みたいな所で監禁されている。
魅了魔法は封印されたので、男爵家に帰す案も出たけど、その男爵家に断られてしまったらしい。
お腹の子供は順調に育っているが、キャベンディッシュが父であることを拒否したので、生まれた後は教会の孤児院で育てられるか、それまでに二股女が、正常な精神状態と判断された上に、一般社会で生活出来るだけの常識を身に付けられたら、教会の監視の元、子供と一緒に平民として生活することも許されるらしい。
今の所はかなり難しいらしいけど。
元女神の行方は分からないまま。
何人かの魔力0の子供が教会に保護されたが、その中に元女神はおらず、引き続き捜索を続けるらしい。
その間俺達は演習をこなし、魔法剣の訓練に励み、肉の柔らかい調理法を広め、柔らかいパンを広め、ハンバーグを作り、ソーセージを作り、ベーコンを作り、生クリームを見つけケーキを作り、薬として甘さの全く無い状態のチョコレートを発見し、お菓子としての可能性を示し、爆発的なヒットを起こしたり、アイスを作り、と色々やったけど、ずっとシェルが付きっきりで、隣で作り方をメモしていたのを、片っ端から城の料理人さんに流していたので、それほど問題には成らなかった。
王宮発信の数々の料理は、他国から続々と客を呼び、大変な事になっているらしいが、輸出品としての価値が物凄くて、宰相さんが会うたびに、抱っこして撫で繰り回してくる。
バリア魔法で作っていた調理道具も、料理長が王室御用達の職人さんに紹介してくれたので、思い付く限り片っ端から作ってもらって、その度にシェルと料理長に質問攻めにされたり。
そんな事をしていて、この世界に来て3ヶ月がたった。
今日は演習の結果発表と同時に、その成長具合を多くの人に見せるための、剣術大会の日である。
当然俺は出場出来ないので、見学に回る訳なんだが、なぜ王様の膝の上か?
王妃様達と姫様達は予定が合わずに来られなくて、とても残念そうだったが、イングリードは無理矢理予定を空けたようで、侍従の彼が胃を押さえていた。
双子王子には刺激が強いので、もう少し大きくなってからだって。
参加不参加は任意なんだけど、ほぼ全ての生徒が参加する。
不参加は何人かの令嬢だけで、皆のやる気が半端無くて驚いた。
予選は既に済んでいて、今日は本選。
それでも100人以上の生徒が、まずは20人ずつに分けられた5組が、一同に闘い、残った二人だけが決勝に進む。
協力するのもよし、個人技で勝ち残るのもよし、ただ、明らかに身分を笠にきた行為は、貴族的に軽蔑されるので、本選では見られない。
予選では結構あるらしいけどね!
第一組は、知ってる顔は無かった。
20人の生徒が円形の舞台に上がる。
円形に外側に向いて一礼すると、
ーーーガガーンガーンガーンーーー
と銅鑼のような音がして試合が始まる。
剣術大会とは言っても、得意の武器で戦って良いそうなので、舞台上の生徒達は様々な武器を手に戦ってる。
一番目立つのは、通常よりも長い槍を持った生徒。刃を潰した模造剣や槍とは言え、真面に当たれば普通に骨折もするのに、皆さん容赦なく戦ってますね!
中央に立ちブンブン音がする程の勢いで、槍を振り回している。
誰も近付けない。
周りを囲む生徒は、槍の生徒を無視して、舞台端で闘い始め、次々舞台から落とされる。
戦闘不能になるか、舞台から落ちるかが敗北の条件なので、落ちたら終わり。
半数程になった時、体勢を低くした一人が槍持つ生徒の背後から、間合いに入り蹴りを一発、槍の回転が止まると同時にそのまま背後から切りつけて、戦闘不能にした。
戦闘終了と同時に、倒れた生徒から人が離れ、救護教師が速やかに倒れた生徒を舞台から離脱させる。
そうして更に半数、残り5人になった。
互いに間合いを空けて睨み合うも、中々攻撃に出ない。
暫くその様子が続くと、観客席からヤジが飛ぶ。
その声に押されるように二人の生徒が動きだし、一人は短剣、一人は槍で近くの生徒に切りかかる。
短剣の生徒は間合いが狭いので、相手の長剣に近付く前に切られて倒れ、槍の生徒は反対側、死角からの攻撃を受け敗北した。
二人が運び出され、残り3人。
うち二人は知り合いなのか、共闘の体勢を取り、残る一人に二人ががりで挑んだ。
3人共に長剣を使い激しい剣戟の音が響く、隣に座るイングリードと将軍さんが、興奮して立ち上がり檄を飛ばす。
勝ったのは一人で闘っていた生徒。
この組は勝者一人となった。
10分休憩の後、次の組にはアールスハインと、キャベンディッシュが出場していた。
キャベンディッシュが本選に出場出来た事に驚くが、それはよくあることらしい。
王族への忖度ってヤツね、と納得。
一応本選に出場出来れば、面目は立つらしい。
鐘がなり試合が始まる。
開始と同時にアールスハインとキャベンディッシュの周りから人が離れ、二人だけがそれぞれに孤立する。
周りが潰し合う中、仁王立つ二人。
続々と脱落者が出るなか、キャベンディッシュが動きだし、アールスハインに切りかかった。
アールスハインは軽く払い、キャベンディッシュが何かを喚いているが、ここまでは聞こえない。
何回か打ち合うだけで、キャベンディッシュの剣は飛ばされ、キャベンディッシュが戦闘不能、のはずなのに近くにいた生徒の剣を奪い、更にアールスハインに切りかかった。
ルール上は違反では無いが、貴族的にはアウトな行為に、王様が頭を抱えて、将軍さんとイングリードがキャベンディッシュを怒鳴っているが、聞こえる距離では無い。
アールスハインは始終受け流すだけで、何かを言う様子でも無く、キャベンディッシュが一方的に喚き、突っ込むだけで、まるで相手になっていない。
周りの生徒も、二人の王子対決は気になるのか、チラチラ見ながらも戦闘は続き、残り三分の一になったところで、アールスハインがキャベンディッシュの剣を、再び撥ね飛ばしその腹に蹴りをいれると、キャベンディッシュはヨロヨロと後退し場外に落ちた。
王子対決に決着がつくと、アールスハインはキャベンディッシュに受けたストレスを発散するかのように、猛然と周りの生徒を蹴散らし始めた。
魔法剣は無くとも、剣一本で騎士団入団確実と言われる実力のアールスハインに敵う者は無く、無双状態で戦闘は終了された。
舞台に立っているのはアールスハインと知らない生徒の二人。
会場から大きな喚声が上がる。
二人は握手した後王族席へ軽く頭を下げて、さっさと舞台を降りた。
その後の休憩を挟んで次の組。
三組目の舞台に上がった生徒の中で、一際目を引いたのは、動きやすく加工はされているだろうが、ドレス姿のイライザ嬢。
前二組に出場した令嬢は、男子生徒と見分けのつかないような服装と装備をしていたのに、イライザ嬢は、堂々としたドレス姿で舞台に上がった。
手には鞭を持ち、紫髪をドリルに巻いて仁王立ちする姿は、
「おおお、じょーおーしゃまらー!(おおお、女王様だー!)」
と思わず拍手してしまう程。
宰相さんが苦笑して、王様と将軍さんが爆笑している。
なぜかイングリードが目をキラキラさせて見ているが、それはまぁおいといて。
開始の鐘と同時に、舞台端に陣取ったイライザ嬢は、緩く鞭を構え、自分の周囲にバリアを張った。
中々優秀なバリアで、敵の攻撃は防ぐのに、自分の攻撃は自在に操れる優れもの。
ドレス姿の令嬢が弱いと判断したのか、数人の男子生徒がイライザ嬢に向かうが、呆気なく場外に出される。
俺なら本選に残った、ドレス姿の令嬢なんて怖くて近付けないけどな!
近付く男子生徒を次々場外に弾き出すイライザ嬢に、イングリードの目は輝きを増す。
俺がイングリードとイライザ嬢を交互に見ているのに気付いた、王様と将軍さん、宰相さんが揃って、ほう?と呟いた。
イライザ嬢が筋肉嫌いじゃ無いことを祈ろう。
そして舞台に残ったのは、あんなに目立つのに最後まで存在に気付かなかった、書記先輩とイライザ嬢。
書記先輩の名前は………忘れた。
二人は握手を交わし、王族席へ軽く頭を下げて、並んで舞台を降りた。
イングリードの目がギラギラしてた。
休憩の後第四組。
この組にはユーグラム、助、元生徒会長が出場。
剣術苦手なのに出場したユーグラムが、手に持つ武器は鉄パイプ。
剣術大会なので、飛ばす系の魔法は禁止なのに、どうやって闘うのだろうかと注目する。
開始の鐘でそれぞれが動きだし、ユーグラムは強力なバリアを張った。
先程のイライザ嬢と同じようなバリアだが、常に俺と一緒に行動していたユーグラムは、弱くはあるが反撃バリアを完成させていて、バリアの自動反撃は、攻撃にカウントされないので、ルール違反にはならなかった。
それでも攻撃が弾かれれば、バランスを崩し、そこを鉄パイプで突かれれば場外に落ちる。
絶妙な位置を歩くユーグラム。
助は剣で普通に闘って、相手を場外に落としていき、派手さは無いけど堅実で危なげが無く、安定していた。
勝ったのはユーグラムと助。
元生徒会長はいつの間にか消えてた。
最終組は、ディーグリーが出場。
ちょっと離れた席でディーグリーに声援を送るのは、ディーグリーの家族一同だろうか、皆雰囲気と髪色が似てる。
気付いたディーグリーが、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに手を振ってた。
開始の鐘がなり、それぞれが動きだす。
この三ヶ月ディーグリーが鍛え上げたのは、主にスピードとコントロール。
片手剣は長剣よりも間合いが狭いので、スピードを活かして懐に潜り込む方法と、牽制に袖に仕込んだ暗器での急所攻撃を自在に使えるように訓練した。
流石にこの大会で急所は狙わないが。
ちなみに、ディーグリーが使っている暗器は、苦無である。
俺が土魔法の練習中に色々試して、土の中から鉄や銅等を抽出して、遊び心で作ったのが、手裏剣と苦無。
忍者の持ってる武器を作ったら、面白そう!とディーグリーが食いついた。
尻の丸い輪に丈夫な糸を通し、回収も出来るようにしてあり、子供の頃に忍者村に遠足に行って見た、苦無より小振りに作ったそれは、この世界でディーグリーによって、立派な武器になった。
王宮の訓練所で披露した時は、普段は影から王族を守る人達が、ディーグリーにその武器は何だ!って迫って来て、大変な騒ぎになった。
そんな事を思い出していると、ディーグリーが勝ち残っていた。
もう一人は知らない生徒。
二人は握手を交わし、挨拶をして舞台を降りた。
ディーグリーの家族は、踊ってた。




