森演習3日目 終わり
最後の一人は、毒と呪いと裂傷と火傷と、骨折と打撲、それも身体中の至るところに及ぶ。
呪いのせいで出血が止まらず、一人しか魔法を掛けられないので、増血して命を繋ぐ事しか出来ないでいる。
体の裂傷を負った場所から黒いうにょうにょが生えている。
「にょりょわれてりゅね!しぇんしぇー、いったんはなりぇて!(呪われてるね!先生、一旦離れて!)」
「馬鹿を言うな!そんな事をしたら、すぐに血が足りなくなるだろう!」
「黙って見てろ!呪いのせいで出血が止まんねーから、まず呪いを解くって言ってんだろ!」
「え?呪い?その赤ん坊が呪いを解けると言うのか?そんな馬鹿な!」
「とにかく!一旦離れろ!こいつが解呪するって言ってんだからよ!」
インテリヤクザな担任が、力ずくで引き剥がし、もう一人の教師が押さえ込んだ、その隙に俺はバリアを張り、その中に目一杯浄化魔法を満たす。
ウニョウニョは動きを鈍くして、徐々に薄くなり次第に消えて行った。
消えた事を確認すると、すぐに浄化魔法を消して、治癒魔法をバリア内に満たす。
止血と同時に増血もして、傷を塞ぎ、骨を繋げ元の通りになる様にイメージする。
毒も消して、そこまでするとやっと呼吸が落ち着いてきて、顔色も白から青に変わって、次第に赤みが差してきた。
後は軽めの打撲を残すのみとなった時、
「「「キャー」」」
「「「おい!逃げろー!」」」」
「バカ!そっちじゃねー!」
テントの外から大勢の悲鳴が聞こえた。
インテリヤクザな担任が、急いで外に駆けて行き、何人かの生徒が怪我人を運んできた。
「先生、こいつらお願いします!」
そう言って怪我人を置いてすぐに外に向かう。
見た所、それ程重傷者はいないので、教師二人で足りるだろう。
俺は治療が終わったので、バリアを解除して、
「しぇんしぇー、おわったーかりゃ、しょとみてくりゅー(先生、終わったから、外見てくる)」
と声を掛けてテントから出た。
テントの外には複数の魔物がおり、そのどれもが毒や呪いを持っていた。
俺は取り敢えず、強めのバリアを自分の周りに張って、呪いを持つ魔物に向かう。
その魔物は、猿の様な体格で顔がオッサンだった。
しかも絵に書いたようなスケベオヤジ。
今にもゲヘヘとか笑いそうな顔で、ご丁寧に頭髪がバーコードだった。
令嬢達は先に馬車に乗せ、殆どが帰された後だったが、まだ数人の令嬢が残っていて、魔物は明らかに令嬢達を狙って攻撃しようとしていた。
攻撃魔法が効かないのか、令嬢を庇って軽い怪我を負った男子生徒がいた。
オッサン猿魔物をバリアで包む。
バリアから出られないオッサン猿魔物は、怒り狂ってバリアを叩くが、バリアが割れる前に、俺は、バリア内に浄化魔法を満たしてやった。
攻撃ではなく苦しみから、のたうち回るオッサン猿魔物は、暫く暴れた後バタンと倒れて、痙攣し、動かなくなった。
その体から黒いウニョウニョが出ていないのを確認後、バリアを解除。
次に向かう。
呪いを使う魔物は、オッサン猿魔物だけのようで、俺が次々倒すと、後は生徒や教師、冒険者達でも倒せる様だった。
なので俺は、またテントに戻り、教師に声を掛けて、呪いを受けた生徒を分けてもらって、一気に浄化してやった。
そこまでやると流石に疲れて、テントの邪魔にならない場所にへたり込んでしまった。
黒猫が心配してか、頻りに顔を舐めてくれるが、ザリザリの舌で同じ所を何度も舐められると痛いので、頭を撫でてやめさせた。
暫くグッタリしていると、外の騒ぎが段々落ち着いてきて、怪我人を運ぶ人達の出入りも、収まって来た。
時々雄叫びが聞こえるのは、魔物を倒して興奮したためか?インテリヤクザな担任も、テント内に入ってきて、生徒の様子を確認しているので、もう安心なのだろう。
隅の方でグッタリしている俺を発見した、インテリヤクザな担任が慌てて駆け寄って来る。
「おい!大丈夫か?どっかやられたか?怪我したのか?」
「だーじょぶー、ちゅかりぇたらけ(大丈夫、疲れただけ)」
「あぁ、そうか、助かったよ、お前さんが呪いを撒く魔物を倒してくれたお陰で、被害が最小限で済んだ。ありがとうな!」
ワシワシと頭を撫でられ、抱き上げられる。
慌てて黒猫も俺の腹に乗って、インテリヤクザな担任を警戒している。
そのまま抱っこされて、アールスハイン達のいる場所に運ばれた。
「ケータ様!どうしたんですか?怪我したんですか?今すぐに教師を連れてきまっ」
「慌てんな!こいつは活躍し過ぎて疲れただけだ、どこも怪我なんかしてねーよ」
グッタリする俺を見て、慌てて教師を拐いに走り出そうとしたユーグラムを、インテリヤクザな担任が止めて、俺をアールスハインにパスする。
いつもよりも扱いが優しいのは、労ってくれているのか?
アールスハインと目が合ったので、
「おちゅかれ!」
と片手を上げると、
「お前がな!」
と頭をポンポンされた。
「そーだよ~!ケータ様活躍し過ぎ!お陰で凄く助かったけど!俺達の活躍が全然目立たなかったよ~」
ディーグリーが愚痴っぽく言ってくるが、顔は笑っているし、頭を撫でる手は優しい。
ユーグラムにも背を撫でられて、俺はそのままスコンと眠りに落ちた。
怒濤の時間が終わった。
目を覚ますと寮部屋のベッドだった。
馬車の揺れをスルー出来たので良しとしよう。
黒猫が起きた俺にスリスリしてくる。
とても可愛い。
シェルが着替えさせてくれたのか、フワフワモコモコの着ぐるみみたいな服を着せられている。
色が黒い、フード部分を被って頭を触ると、案の定三角耳が付いている。
尻には尻尾。
シェルは、昨日の今日でこの服を用意したのだろうか?縫ったの?今日縫ったの?と思ったが、まぁ良いだろう。
黒猫を抱いて寝室を出ると、リビングには、シェルだけでなく、ユーグラムとディーグリーもいた。
俺が起きるまで待っててくれたらしい。
アールスハインに抱っこされて食堂へ。
いつもよりも遅い時間なので、人が少なくて落ち着いた空気。
いつもよりゆっくりご飯を食べて、腹が満たされると、またすぐに眠気が、カックンカックンする頭をどうにも制御出来なくて、ああこれじゃあ寝落ちする?と思ったが、ガクンと頭が後ろに倒れた拍子に目が覚めた。
パチパチ目を瞬くと、皆に微笑まれる。
その微笑ましげな視線は、おっさんの精神にちょっとしたダメージを与えるので、勘弁して欲しい。
食後のお茶も飲み終わり、そろそろ部屋に戻ろうと席を立つと、近付いて来る足音。
俺達の前で立ち止まった人に見覚えは無い?と思う。
「あの、妖精さん!今日は助けてくれてありがとうございました!」
一人一人の顔など見ている暇も無かったので、覚えて無いが、助けたらしい。
「もーらいじょーぶー?」
「はい!念のため学園の救護室でも診察を受けましたが、問題有りませんでした!俺、結構酷い怪我してたのに、全然傷跡も無く治ってて!とにかく、お礼を言いたくて、ありがとうございました!」
「ちゅぎは、けがしないよーにぇ!(次は、怪我しないようにね!)」
「はい、気を付けます!あ、アールスハイン王子、皆さん、突然失礼しました」
最後に深く頭を下げた彼は、素早く仲間の元に戻った。
皆に肩や頭を叩かれて笑っている。
とても元気そうで何よりだ。
「よかったにぇー」
何気なく目で追いながら呟けば、
「あぁ、ケータが頑張ったからな!」
誉められた。
照れ臭くなって、アールスハインの胸にグリグリすれば、頭をポンポンされて、黒猫に鼻の頭を舐められた。
大変な1日だったけど、全員無事で、お礼まで言われたので、頑張って良かったと思えた1日でした!




