5日目午後
午前中は、自業自得で皆が悲惨な事になったので、午後は何をする?
そーだねー、と相談してたら、数人の令嬢が近寄って来て、
「あの、もしお時間が有りましたら、私達の模擬戦の相手をして頂けませんか?」
とか言って来た。
言って来たのはドリル令嬢イライザ・スライミヤ嬢。
模擬戦って物騒だな!と思ったけど、学園では普通に授業でもやるらしい。
貴族の令嬢なんて、擦り傷ひとつで嫁の貰い手が!みたいに騒ぐ生き物かと思ってたけど、そう言う令嬢がいない訳じゃないけど、貴族令嬢なら、自分の身を守れる位の武術は当然の嗜みらしい。
そう言えば、第一王妃様も顔に傷が有ったな!
オホホホホホとか笑いながら、鞭や鉄扇を振り回す令嬢も多いらしい。
こわっ!
しかもどう言う原理か、男子よりも女子の方がバリアが強力らしい。
とても怖いね!
断る理由も無く、ここ何日か魔法で遊んでばかりいたので、ちゃんとした訓練をしますか、ってなって、イライザ嬢を中心とした5人の令嬢対アールスハイン、ユーグラム、ディーグリーの3人の対決が始まった。
俺?俺は見学です。
令嬢達が、幼い俺を攻撃するのは無理だって言ったからね。
テイルスミヤ長官は審判で、インテリヤクザな担任は見学。
インテリヤクザな担任の胡座の足の間に座らされてます。
訓練所のリモコンを弄ると、大きなバリアが出現して、バリアの外には被害が出ないようになっているんだって。
本格的な?戦闘とは、まるで縁の無い生活を送って来たので、ワクワクしてドキドキして、少しびびるね!
お互いに貴族の礼を取り、向かい合って模擬戦が始まった。
アールスハインは、常にマジックバッグに入れて持ち歩いていたが、手にする所を初めて見る剣を構え前に、ディーグリーはいつ何処から出したのか、両手に短剣を構えアールスハインの隣に。
ユーグラムは魔法を中心とした攻撃をするので後衛。
令嬢側は、後衛に魔法使い二人、真ん中にイライザ嬢が鞭を装備して仁王立ち、前衛に細身の剣を構える令嬢と、何だっけあのトゲトゲの付いた棒?
「しぇんしぇー、あにょとげとげのぼーにゃに?(先生、あのトゲトゲの棒なに?)」
「あー、あれはメイスつって、相手をぶちのめす武器だな」
「こわー」
「よく見てみろ、本当に怖いのは、あの真ん中の鞭だぞ、あの鞭には小さいが鋭い刃が付いていて、相手の首を一撫ででカッ切る恐ろしい代物だ!」
「うえーー!ハインたちだーじょーびゅ?」
「まぁあの3人なら心配無いだろうが、時々令嬢ってのはエゲツねー攻撃をしてくるからなー」
令嬢のイメージがどんどん恐ろしいものに変わっていくんですが?!
メイスをぶん回す令嬢は、どこにそんな力があるのか分からない程華奢に見えるし、細剣の令嬢はとにかく速い。
前衛の令嬢の攻撃を避ければ、避けた先に空気を震わせる音と共に鞭が振るわれ地面を抉る。
その間中魔法が常に飛んでいる。
何これ、令嬢超怖い!
しかも令嬢達ってば、全員制服のまま戦ってるし!
防戦一方に見えた男子班は、ユーグラムが突然グワッと体を仰け反らせた途端に、何かの魔法が発動して、バリア内をグルッと風のような物が通り抜け、その風に触れた後衛の令嬢二人が、急に自分の体を抱える様にして震え出した。
それに構わず風は更に渦巻く様に、後衛から前衛に向けて吹き抜け、衝突している前衛の令嬢を下から撫でる様に上昇し、また後衛の方に向かった。
風に触れた令嬢から、武器を抱え震え出す。
その隙を逃す事無く、アールスハインとディーグリーが、相手の武器を奪い取り、無力化していく。
真ん中にいたイライザ嬢だけは、震えながらも気丈にも仲間を助けようと鞭を振るうが、震えているため手元が狂い、最後は呆気なくアールスハインの剣に鞭を絡め取られ、そこで模擬戦は終了した。
「随分と呆気なく負けてしまいましたわ、不甲斐ない結果をお見せして、誘った甲斐が無くて申し訳ありません」
「いやいや、そんな事は全然無いですよ!前衛のお二人は手数の多さと力強さでバランスが良く、その穴を埋める様に飛んでくるスライミヤ嬢の鞭は正確無比な上に、その威力も申し分無い。後衛の波状攻撃は脅威でした!」
「そう評価頂いて大変嬉しく思います。ですが皆様、まだ本気を出してはおられないでしょう?」
ちょっと拗ねた様に睨んで来るイライザ嬢は、正しくツンデレだった!文句無く可愛かった!
いやそうじゃなく。
確かにユーグラム以外は魔法を全く使って無いし、ユーグラムの魔法も、攻撃と言うよりは相手を無力化するのを目的としていた様に思う。
「アッセンブル様の魔法の威力に為す術も無く無力化されましたし、アールスハイン殿下とラバー様の迅速で的確な制圧方法はとても勉強になりました。ありがとうございました」
「うんうん、お互いの長所を的確に指摘出来るのはちゃんと見る目が有るからだね!これなら自分達の弱点も分かっているかな?」
テイルスミヤ長官が、教師の顔で混じって行く。
それぞれに自分の弱点を話合い、テイルスミヤ長官が魔法についてのアドバイスをしていく。
「ねーしぇんしぇー、がきゅしぇーぽいねー(ねー先生、学生っぽいねー)」
「いや、間違いなく学生だろうが」
「えー?じゅぎょーちないしー、べんきょーないしー、くんりぇんじょーちかきてないよー?(えー?授業しないし、勉強ないし、訓練所しか来てないよ?)」
「まーなー、今年は異常に早く組分けも班長決めも終わったからなー、普通はもっとめんどくせーし、時間かかるぞ?」
「ふぇー」
「来週からは、学園からも離れての演習になるからな、退屈する暇も無くなるぞ」
「ふぇー」
「お前さんの生きてた世界とは違うだろうしな」
ワシワシと頭を撫でられる。
話合いも終わったのか、令嬢達が離れ、アールスハイン達がこっちに来る。
俺を小脇に抱えインテリヤクザな担任が立ち上がる。
ホイ、とアールスハインに渡される俺。
「おちゅかりぇー」
と声を掛けると3人に頭を撫でられた。
「ケータ様との訓練で、魔法の威力が上がり、お陰様で勝てました!」
ユーグラムが言うけど、元々さっき位の魔法は、実力の内だったと思う。
「ゆーぐりゃむ、もともとちゅよかったれしょー?(ユーグラム元々強かったでしょ?)」
「ですが、発動時間や風魔法のコントロールが以前よりも格段に良くなりましたよ!」
「ふぇー、ゆーぐりゃむばんばったにぇー」
「はい、ありがとうございます」
俺とユーグラムのほのぼのしたやり取りに、ディーグリーが乱入してきた。
「えー、俺だって頑張ってたのにー、今回はユーグラムに良いとこ持ってかれたけどさー」
「でぃーぐーでぃー、たんけんかっこよかったじょ」
「ええ!そう?そうかなー、本当はもっと格好いいんだけど、令嬢相手に本気は出せないからね!」
誉められて浮かれるディーグリーはほっといて、俺を抱っこする腕をペシペシしながら、
「ハインもしゃいご、かっこよかったにぇー、むちがびゅーてちたのを、けんががぎんちぇー(ハインも最後、格好良かったね、鞭がビューって来たのを、剣がガギンて)」
「あぁ、ケータの前では剣を使った事がなかったからな」
「まほーちゅかわにゃいにょー?(魔法使わないの?)」
「あぁ、一応この班での基本的な立回りは剣を中心に考えている」
「?けんにー、まほーかけたりちないにょ?(剣に魔法掛けたりしないの?)」
「剣に魔法?聞いたこと無いが?」
「まほーけんとかにゃいの?(魔法剣とか無いの?)」
「?魔剣なら城に有るが?」
剣に魔法を纏わせ、戦う方法は無いらしい。
四男秀太よ、お前の憧れた魔法剣は、この世界には無いらしいよ?
兄ちゃんが作ってよ!
何処からか四男秀太の声がした気がする。
末っ子に頼まれたら、兄ちゃん頑張るしかないだろうが!
「しぇりゅー、にゃいふほちー」
「こらケータ、お前にナイフはまだ早いだろう!玩具じゃ無いんだぞ!」
アールスハインに怒られた。
が、べつに武器のナイフは求めていない。
シェルに頼んだ時点で気付かないとは、アールスハインもさっきの模擬戦で、多少は高揚しているのかも?
シェルが常に持っているのは、ペーパーナイフか食事用のナイフである。
今回は、より安全なペーパーナイフを、俺に差し出して来た。
受け取った俺は、アールスハインを見る。
頭を掻くアールスハイン。
アールスハインの腕から飛び降りて、ペーパーナイフを手に、ナイフに魔法を掛ける。
ナイフの素材は銀らしい。
魔力をナイフに流す、中々スムーズに流れてくれないが、ゆっくりと浸透させる様に流して行くと、ナイフが次第に薄っすらとひかり、魔力が流れているのが分かる。
ここは安全な水魔法で試して見ましょう!
魔力の流れるナイフに、水魔法を掛ける、とナイフ全体が濡れたように潤み、ついでに温度を下げてやると、表面が薄く凍りついた。
氷の形を刃の様に、切れ味鋭く触れれば相手を凍らせる様な、魔法剣をイメージする。
フワッとナイフがひかり完成!
「しぇりゅー、にゃにかきりゅものありゅー?」
「切る物ですか?」
マジックバッグをゴソゴソして出してくれたのは木切れ、なぜそんな物入れたし?
と思ったが、都合が良いのでスルー。
目の前に置いてくれた丸太型の木切れに、魔法剣を当てる。
ゆっくりと切れて行く側から、切った断面が凍りついて行く。
大して力も入れずに切断された丸太。
言葉もなく、唖然とする面々。
ドヤ顔で腰に手を当てる俺。




