暗部視点
誤字報告、感想をありがとうございます!
この辺りから展開が変わってきます。
よろしくお願いいたします。
〈確認できたか?〉
「ああ、確認した。情報通り貴族どもは固く門を閉ざし見送る姿勢でいるようだ」
〈了解。引き続き見張りを続けて、想定外の大物が出たら報告を〉
「了解した」
驚く程雑音の無い、耳元で話されているかのように鮮明に聞こえる遠距離通信機は、まだ出来てから三ヶ月。性能を確かめる為に今回の作戦にも取り入れられたと聞く。
魔法庁の努力と技術の結晶だと言われたが、俺は知っている。
もう何年も前にケータ様がこれよりも性能の良い超遠距離通信機を作っていたことを。
最近ではあまり思い出す事もなかったのだが、ある日突然この世界に来られたケータ様は、我々の想像を絶する技術を以ってして、国に多大な貢献をされた。
もう何年もお姿を見てはいないが、元気、だろうな。
ケータ様に影響を受けて、尋常じゃない強さを身に付けられたアールスハイン殿下を筆頭に、その他のメンバーも強者揃い。
ケータ様ご本人も見た目は幼児なのに、誰かに倒される姿が想像も出来ない。
「あー、和みたい」
思わず溢れた本音に、
「うんわかる!俺も和みたい!子供部屋の担当になりたいし!子供達と戯れる役職に就きたい!ケータ様をす~は~してみたい!」
「黙れ変態!お前がそんなだから、こんな任務を割り振られたんだろうが!」
「えー?それは俺が変態だからじゃなく、優秀だからだよ~」
「いや、間違いなく変態だからだ!お子様達の護衛と称して何度王子殿下のお顔によだれを垂らした!姫様方には頬擦りしてただろうが!それを隊長に見られて、俺までこんな所に飛ばされたんだぞ!」
「む~、ちょっとチビッ子達を愛でてただけなのに、隊長も心が狭いよね~」
「気持ち悪い変態を処分しなかっただけ、隊長は心が広いだろ」
「そこはほら、俺の優秀さが惜しかったんだよ!」
「は~、そのとばっちりで俺まで城を出されて」
「君はね~、経験が足りないんだよ!外で揉まれてこい、と言う隊長の親心だね!俺と言う優秀な先輩に学べって事だよ!だからもっと俺を敬いたまえ!」
「無理。無駄。嫌」
「俺程優秀な先輩はいないだろ~?」
「あんたが優秀なのは認めるが、変態であることで相殺どころか、負の面が勝る」
「後輩が酷い事言う~」
大袈裟に嘆いているように見えて、面白半分にニヤニヤしてる。
はぁ~何でこんな奴と組まされて、他国にまで飛ばされたのか。
事の起こりは二年前。
貴族婦人や令嬢達が面白可笑しく噂する内容が、ササナスラ王国の王太子殿下と公爵夫人の不貞行為が明らかになり、その息子である王子の出生が疑われているとの噂だった。
不思議なもので、ササナスラ王国に派遣されている密偵よりも早く、貴族婦人や令嬢達の噂と言うのは広がり、陛下や宰相様の耳に入る頃にはより詳しく具体的で下世話な噂が蔓延しきっていた。
その後に届いた密偵からの報告では、噂は本当のようで、王太子殿下と我が国から嫁いで行った元侯爵令嬢の公爵夫人との間に不貞行為があり、しかもその王太子殿下と公爵夫人の間に出来た子供と、王太子殿下と王太子妃殿下の間に出来た子供が入れ替えられて育てられたのでは?との噂が真しやかに広まっており、ササナスラ王国国王も真偽を問い質しているとのこと。
ササナスラ王国の国王は、老齢になっても退位せず、その地位に居続け貴族や王族を相手に、気に入らない貴族や時には身内である王族の者も容赦なく切り捨てる恐怖政治を敷いている。
今回の噂の主である王太子殿下は、リュグナトフ国の陛下よりも歳上で、国王には絶対服従の姿勢を貫いていただけに、冤罪を疑う声は多かったが、それを正確に確かめる術がササナスラ王国にはなかった。
ササナスラ王国の御家騒動と言ってもいい問題は、リュグナトフ国には関係の無いものと思われていたが、ササナスラ王国から、リュグナトフ国から来た侯爵令嬢の不貞行為として言い掛かりのような抗議文と高額な慰謝料の請求が届いたのだとか。
リュグナトフ国の侯爵家から嫁いで、翌年には長男を出産し、その二年後に起こったとされる不貞の責任がリュグナトフ国に有るわけもなく、しかもササナスラ王国に嫁いだ元侯爵家令嬢とは、今はもう御家取り潰しになったルーグリア侯爵家であることからも、リュグナトフ国は一切関係は無しとして返事を送った。
それが気に入らなかったらしいササナスラ王国の国王から一方的に関税の引き上げを宣言され、嫌がらせのような行為が公然と行われた。
当然リュグナトフ国からも報復として、ササナスラ王国への輸出を停止。
国力も上で、輸出品も多いリュグナトフ国から物資が止まってしまった事で、ササナスラ王国は不気味な沈黙の期間に入った。
その沈黙の期間中、リュグナトフ国出身の商人達はササナスラ王国から追い出され、情報も一切遮断された。
表向きは。
元々評判の良くなかったササナスラ王国には、リュグナトフ国からかなりの数の密偵が派遣されており、その報告は恙無くされていて、その動向は逐一報告されていた。
リュグナトフ国の元侯爵家令嬢は、王族との不貞行為により処刑。
王太子は継承権を剥奪され王族専用の牢に入れられたとか。
疑惑の王子は王族籍から除籍され、国外追放になったそうだ。
その元王子が追放された国は隣国のミルリング国。
手足を縛られ魔物の徘徊する魔の森に放置されていた所を、たまたま依頼帰りの冒険者に拾われたのだそうで、事情を聞かれた元王子は、ミルリング国の王家に助命を嘆願したそうで、そのミルリング国が元王子から聞き出した情報がリュグナトフ国に伝わった。
ササナスラ王国国王は、ササナスラ王国最大のダンジョンで、もう何年も前から通常よりも凶悪な魔物を人工的に作る実験を行っていて、その魔物を操る術も見つけ出し、魔物を操って近隣国を蹂躙する計画を立てていたそうだ。
スタンピードを人為的に行う。
もしそれが成功してしまえば、予期出来ぬ災害として扱われているスタンピードを目的の為に使えると言うこと。
スタンピードで疲弊した所に軍を以て攻め入る事も容易い。
そうなれば他国への侵攻も容易い。
それを聞いたミルリング国は、すぐさまリュグナトフ国に連絡し、情報の共有を行った。
ミルリング国自体は山岳地帯が多く攻め難い立地だが、リュグナトフ国は農耕地が多く、間に魔の森があるとは言え攻め入られれば被害は甚大となるだろう。
ササナスラ王国の西より、リュグナトフ国に近い位置にダンジョンがあるとは言え、その間にはササナスラ王国の街や村も多くある。
それらを全て襲わせないように操れるのかとの疑問があるが、兎に角早急に調査が必要とあって、俺達暗部の一部隊もササナスラ王国潜入組として派遣された。
実際にササナスラ王国に来てみれば、町や村の住民は近隣の大きな街に避難を済ませ、一応の予防策として木や石垣等が組まれ魔物の侵入を防ごうとはされている。
街には元々あった堅牢な街壁の外にさらに先端を尖らせた柵や簡易防壁が組まれている。
そして件のダンジョンからは、パラパラとではあるが、魔物が出てきている。
通常ならば、ダンジョンから弱いとは言え魔物が出てくることは非常事態と考えられるが、ダンジョンのある街はどの家々も固く閉ざされ人の気配は感じられない。
ササナスラ王国国王の企みは本格的に動き出していると見られ、報告を済ませたところだ。
防御柵で備えられた街や村を見れば、その目的ははっきりとしていて、目指す場所は明らかにリュグナトフ国を向いているのが分かる。
これは戦争ではない。
ササナスラ王国国王による蹂躙だ。
放逐された元王子からの情報がなければ、リュグナトフ国には甚大な被害が出た事だろう。
だが情報はすぐさまリュグナトフ国に伝わり、今も万全の備えをすべく続々と国境付近に軍だけでなく各貴族の私兵団や有志の冒険者が陣容を整えている。
ところでミルリング国の王太子妃殿下に遠距離通信機を贈った我が国の宰相様は、この事態をどこまで読んでいたのだろうか?
孫の顔を見たさに陛下から許可をもぎ取ったと噂になっていたが、結果として国の危機を事前に察知出来た。
元々能力の高い方だったが、密偵を複数派遣する程警戒していたササナスラ王国の動きを見越してミルリング国へと遠距離通信機を贈っていたのなら、それは恐ろしい程の先見の明ではないか?とさらに恐れられるようになっていたが。
「まあ、何はともあれ、俺のやることは変わり無いんだが」
「え~何?また難しいこと考えてグヌグヌしてんの~?」
「うるさい!」
「お前はあれだよね~、無駄に裏とか考えすぎて事態をややこしくしたがるよね~。現実はそんなに複雑でも難しくもなかったりするのにね~?」
「色々な可能性を考えて不測の事態に備えなくてどうする」
「考えすぎて咄嗟に動けなくちゃ意味無いんだけどね~?」
「あんたは何にも考えてないだろう」
「そう!見てすぐに動ける俺って天才だから~!」
能天気にアハハハハと笑うこいつは、確かに誰よりも早く事態を把握し、誰よりも早く動ける。ある意味天才ではあるのだろうが、ムカつく。いちいち癪に触る言い方ばかりするし、いつだってヘラヘラと笑う姿が非常に腹が立つ。
いつかこいつを超えてやろうと気を引き締める。
「ほらほら~、また無駄に力んでる~、もっと視野を広く持って~。お!動いた!あれは十階層辺りの魔物かな?でもなんか違うな~?操られてるってより逃げてる?これはこの後大物が出てくる感じかな~?」
ダンジョンからはオークや大型のボアが続々と走り出てくる。




