表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/151

第二十四幕 滅びのドラゴン達。2


「もうすぐ、この帝都は滅びるのかもしれんな」

 砂塵が舞う。

 ヤシの木々が揺れる。

 この辺りで、迎撃出来るだろうか。

 二人の戦士は、スフィンクスの背から降りた。


「盗賊の長よ。お前はどんな心境だ? 憎み続けた帝都が滅ぼうとしている」

 ミノタウロスの勇者は訊ねる。

 ガザディスは大剣を担ぎながら、空を眺めていた。

 此処は、帝都西にある、公園だった。

 見晴らしが良い場所だ。

 人々には避難命令が出されている。


 オーロラは二人の眼にも見える程、近付いている。

 怪物達が集まっているのが、分かる。

 四足歩行の獰猛な獣達だ。元は、生きた人間や亜人だった者達。

 オーロラによって、変容した者達は、理性なく民家などを襲撃しては、人や亜人達の肉を喰らっている。戦士ギルドや冒険者ギルドのメンバー達が、獣達と戦っているのが見えた。天空樹のエルフの戦士達の姿も見える。


「俺は帝都の貧しき者の為に戦った。だが、俺自身は何の為に戦ったのか分からないな」

 ガザディスは剣の柄を強く握り締める。

 沢山の部下が死んだ。……沢山の部下を死なせた。


 やがて、オーロラの付近より、何体ものドラゴン達が姿を現し、此方へと向かってくる。緑色の鱗の肌をしたドラゴン達だった。

 そして、そのうちのドラゴンの何体かが、遠距離射撃の砲弾のように、口腔から炎の球を吐き散らし、二人が佇む公園を焼き払っていく。街が火に包まれ、倒壊していく。


 二人はドラゴン目掛けて、走る。


 ドラゴンの一体が、地面へと着地する。

 背中に乗せた者達が、帝都へと着地していく。


 猿人達だった。

 彼らは手に得物を持ちながら、略奪出来そうなものを探していた。

 そして、猿人の中にいた者の一人が、ハルシャの方を見る。


「ひひっ。俺の名はクルクル。お前がミノタウロスの勇者だなっ!」

 身の丈、三メートルは超える猿人だった。

 マンドリルの頭部をしている。

 ハルシャは少したじろぐ。

 マンドリルは、巨大な鉄球を回しながら、ハルシャへと襲い掛かる。

 数秒程、ハルシャは戦斧での防御に隙が出た。


 空に線が走る。

 巨大なマンドリルの首が落とされていた。

 ガザディスの剣が、有無を言わさず、猿人の頭を落としたのだった。


「ハルシャ。何をやっている? 雑魚は相手にするな。お前は帝都に踏み込む、ドラゴンを一体でも多く倒せっ!」

 ガザディスは叫ぶ。

 そして、現れた猿人達の周辺に向かって、森の精霊の力を得た、大地の破壊魔法を撃ち込む。ガレキが崩れて、地割れが出き、猿人達を飲み込んでいく。


 ぐしゃり、と。

 フルーツを潰すような音が聞こえた。

 人間の首無し死体が二つ、横たわっていた。


 現れたのは、巨大なリザードマンだった。

 いや、その怪物はリザードマンと言えるのだろうか。

 身の丈、5メートルを超え、獰猛なティラノサウルスの頭部をしていた。


<俺様の名はグルジーガ。帝都侵略をサウルグロス様より任命された将軍である。お前達はそれぞれ二つのギルドのリーダーだな?>

 巨大な尾がふるわれ、民家の一つが破壊される。


「どうする?」

 ハルシャは盗賊の長に訊ねる。


 ガザディスは恐竜の獣人の顔を見据えながら言った。

「そうだな。俺は森の精霊である、ムスヘルドルム様の代表者だ。化け物、この俺と戦うか?」

 グルジーガは吠える。


 彼の背中から、何者かが現れる。

 そいつは、頭から猫の耳を生やした女だった。

 彼女は両手にナイフを持っている。

 その女は、ハルシャへ向けてナイフを振るおうとする。

 ハルシャは彼女のナイフの斬撃を、斧の柄で受け止めていく。


「おいぃ。あたしの名はグリーシャ。お前ら、メアリーを知らない? 以前、私はあいつに左腕を落とされた。それを返して貰おうってね。利息を含めて、頭部が欲しい。ねえぇ、メアリーを知らない? あのイカれた鬼畜女っ!」

 彼女は咆哮するように、ハルシャにナイフを振るっていく。


「おい。ハルシャッ!」

 ガザディスは叫ぶ。


 グルジーガの背後から、大量の四足歩行で歩く獣達が現れる。

 オーロラによって変容した砂漠の生き物達だった。

 虎のようでもあり、ライオンのようでもあり、あるいはワニのようでもあった。それらを掛け合わせたような姿をしていた。ひたすらに、生き物を貪る事しか考えない、理性なき怪物達だった。


 侵略の指揮を取っている、恐竜の将軍、グルジーガは、配下にしている者達と共に、とても楽しそうに、巨大な棍棒を振り翳していた。


<我らが黒き鱗の王の軍団こそが、この永久凍土の都市を支配するに相応しい。滅ぼしてくれようぞ。ルクレツィアの民共よっ!>


 巨大なサンド・ワームが大地から生まれる。

 それは、オーロラを浴びて異様な姿へとなった砂イモムシだった。

 その怪物は体内に飲み込んだ獲物達と融合して、全身から、指や手足などが生え出している。完全なる奇形の怪物と化していた。


「メアリーなら王宮近くの塔付近にいる筈だっ!」

 ハルシャはグリーシャのナイフを弾き飛ばす。


「ひひっ? なら、あんたに興味が無いから。私はそこに行きますわっ!」

 そう言うと、グリーシャは跳躍し、建物と建物の屋根に着地していく。

 ハルシャは、気付けば、自らの両脚が上手く、動かせずにいる事に気付いた。

 …………、グリーシャから何かをされたのだ。


 ハルシャは辺りを見渡す。

 火を吐くドラゴンの軍団が、迫撃砲のようにハルシャへと口腔を構えていた。

 変形したサンド・ワームがのたうち回っている。

 ガザディスは、恐竜の頭のリザードマンである、グルジーガに押されつつあった。

 極めて、危険な状況に陥っていた。

 絶体絶命……。

 ハルシャの頭に、そんな言葉が過ぎ去る。



挿絵(By みてみん)


サウルグロス

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ