第二十四幕 滅びのドラゴン達。2
2
「もうすぐ、この帝都は滅びるのかもしれんな」
砂塵が舞う。
ヤシの木々が揺れる。
この辺りで、迎撃出来るだろうか。
二人の戦士は、スフィンクスの背から降りた。
「盗賊の長よ。お前はどんな心境だ? 憎み続けた帝都が滅ぼうとしている」
ミノタウロスの勇者は訊ねる。
ガザディスは大剣を担ぎながら、空を眺めていた。
此処は、帝都西にある、公園だった。
見晴らしが良い場所だ。
人々には避難命令が出されている。
オーロラは二人の眼にも見える程、近付いている。
怪物達が集まっているのが、分かる。
四足歩行の獰猛な獣達だ。元は、生きた人間や亜人だった者達。
オーロラによって、変容した者達は、理性なく民家などを襲撃しては、人や亜人達の肉を喰らっている。戦士ギルドや冒険者ギルドのメンバー達が、獣達と戦っているのが見えた。天空樹のエルフの戦士達の姿も見える。
「俺は帝都の貧しき者の為に戦った。だが、俺自身は何の為に戦ったのか分からないな」
ガザディスは剣の柄を強く握り締める。
沢山の部下が死んだ。……沢山の部下を死なせた。
やがて、オーロラの付近より、何体ものドラゴン達が姿を現し、此方へと向かってくる。緑色の鱗の肌をしたドラゴン達だった。
そして、そのうちのドラゴンの何体かが、遠距離射撃の砲弾のように、口腔から炎の球を吐き散らし、二人が佇む公園を焼き払っていく。街が火に包まれ、倒壊していく。
二人はドラゴン目掛けて、走る。
ドラゴンの一体が、地面へと着地する。
背中に乗せた者達が、帝都へと着地していく。
猿人達だった。
彼らは手に得物を持ちながら、略奪出来そうなものを探していた。
そして、猿人の中にいた者の一人が、ハルシャの方を見る。
「ひひっ。俺の名はクルクル。お前がミノタウロスの勇者だなっ!」
身の丈、三メートルは超える猿人だった。
マンドリルの頭部をしている。
ハルシャは少したじろぐ。
マンドリルは、巨大な鉄球を回しながら、ハルシャへと襲い掛かる。
数秒程、ハルシャは戦斧での防御に隙が出た。
空に線が走る。
巨大なマンドリルの首が落とされていた。
ガザディスの剣が、有無を言わさず、猿人の頭を落としたのだった。
「ハルシャ。何をやっている? 雑魚は相手にするな。お前は帝都に踏み込む、ドラゴンを一体でも多く倒せっ!」
ガザディスは叫ぶ。
そして、現れた猿人達の周辺に向かって、森の精霊の力を得た、大地の破壊魔法を撃ち込む。ガレキが崩れて、地割れが出き、猿人達を飲み込んでいく。
ぐしゃり、と。
フルーツを潰すような音が聞こえた。
人間の首無し死体が二つ、横たわっていた。
現れたのは、巨大なリザードマンだった。
いや、その怪物はリザードマンと言えるのだろうか。
身の丈、5メートルを超え、獰猛なティラノサウルスの頭部をしていた。
<俺様の名はグルジーガ。帝都侵略をサウルグロス様より任命された将軍である。お前達はそれぞれ二つのギルドのリーダーだな?>
巨大な尾がふるわれ、民家の一つが破壊される。
「どうする?」
ハルシャは盗賊の長に訊ねる。
ガザディスは恐竜の獣人の顔を見据えながら言った。
「そうだな。俺は森の精霊である、ムスヘルドルム様の代表者だ。化け物、この俺と戦うか?」
グルジーガは吠える。
彼の背中から、何者かが現れる。
そいつは、頭から猫の耳を生やした女だった。
彼女は両手にナイフを持っている。
その女は、ハルシャへ向けてナイフを振るおうとする。
ハルシャは彼女のナイフの斬撃を、斧の柄で受け止めていく。
「おいぃ。あたしの名はグリーシャ。お前ら、メアリーを知らない? 以前、私はあいつに左腕を落とされた。それを返して貰おうってね。利息を含めて、頭部が欲しい。ねえぇ、メアリーを知らない? あのイカれた鬼畜女っ!」
彼女は咆哮するように、ハルシャにナイフを振るっていく。
「おい。ハルシャッ!」
ガザディスは叫ぶ。
グルジーガの背後から、大量の四足歩行で歩く獣達が現れる。
オーロラによって変容した砂漠の生き物達だった。
虎のようでもあり、ライオンのようでもあり、あるいはワニのようでもあった。それらを掛け合わせたような姿をしていた。ひたすらに、生き物を貪る事しか考えない、理性なき怪物達だった。
侵略の指揮を取っている、恐竜の将軍、グルジーガは、配下にしている者達と共に、とても楽しそうに、巨大な棍棒を振り翳していた。
<我らが黒き鱗の王の軍団こそが、この永久凍土の都市を支配するに相応しい。滅ぼしてくれようぞ。ルクレツィアの民共よっ!>
巨大なサンド・ワームが大地から生まれる。
それは、オーロラを浴びて異様な姿へとなった砂イモムシだった。
その怪物は体内に飲み込んだ獲物達と融合して、全身から、指や手足などが生え出している。完全なる奇形の怪物と化していた。
「メアリーなら王宮近くの塔付近にいる筈だっ!」
ハルシャはグリーシャのナイフを弾き飛ばす。
「ひひっ? なら、あんたに興味が無いから。私はそこに行きますわっ!」
そう言うと、グリーシャは跳躍し、建物と建物の屋根に着地していく。
ハルシャは、気付けば、自らの両脚が上手く、動かせずにいる事に気付いた。
…………、グリーシャから何かをされたのだ。
ハルシャは辺りを見渡す。
火を吐くドラゴンの軍団が、迫撃砲のようにハルシャへと口腔を構えていた。
変形したサンド・ワームがのたうち回っている。
ガザディスは、恐竜の頭のリザードマンである、グルジーガに押されつつあった。
極めて、危険な状況に陥っていた。
絶体絶命……。
ハルシャの頭に、そんな言葉が過ぎ去る。
サウルグロス




