第23話・・・正体/哉瓦・・・
活動コメントでも書きましたが、総合ポイント数が凄い増えてきてくれています。
読んでくれている人が多いと、こちらもやる気が出ますね。
忙しい状況でもなんとかやっていけそうです。
柊蕨はまだ『グラード・アス』のアジト内にいた。
廃れた建物内で唯一機械設備が充実した部屋。
蕨が投獄されていた牢屋の映像モニターもあることから、キイルの仕事場だったと見て間違いない。
当然、この部屋にも、ここまでくる通路にも監視カメラはあったが、そこに蕨が映っていることはない。
〝静在法〟
〝鎮静系〟特有の『法技』。
音、気配などを悟らせない技術。〝絶気法〟の極み。この『法技』はB級やA級下位レベルでは〝絶気法〟を数段鋭くしたぐらい。だが、A級上位レベルとなれば電子機器に対しても有効となり、監視カメラや盗聴器も意味を成さなくなる。
(とはいえ、監視カメラに俺の姿が映ってないのも不自然だからパンジーには早く『用意』してもらわないとな)
蕨は椅子に座り、一台のノートパソコンのキーボードを叩いていた。〝静在法〟で指紋も残らない。この部屋の監視カメラも、一つしかない出入り口を映しているので、キーボードの浮き沈みで不審がられることはない。
蕨は常人の速さではないタイピングスピードでPCに第三者が弄った形跡を残さないように、PC内のデータを読み込む。
(……へー)
何重にもプロテクトがかかったファイル。
その中のデータを前に、蕨は目を細める。
(龍堂哉瓦……騎龍城、嵐瓦…か)
◆ ◆ ◆
クウガの焦点が合わなくなってきていた。
(気が……どんどん……吸われる……)
全身からの脱力感。
意識が朦朧とし始め、最悪の気分だ。
(龍堂哉瓦の体内に吸われた僕のエナジーを何度も〝炸裂〟しようとしてるのに……できないッ? 多少の距離離れてしまっていればエナジーも霧散して失われるけど……そうではない。すぐそこの、ボム・クローズドの中にある僕のエナジーを……〝炸裂〟できない。……つまり、塗り替えられているのか? 完全に僕のエナジーを……)
信じられない。
クウガの心からそんな思いがこみ上げてくる。
(このままだと……本格的に、まずい……)
◆ ◆ ◆
哉瓦の気持ちは意外と穏やかなものだった。
切り札の一つを使ったという解放感もあるが、それとは別にまだ要因はあるように思える。
おそらくそれは己の役割の達成感。
今もどこかで戦っているエクレア達に対する感情。
自分は勝った、と仲間に報告できる喜びの現れ。
(……ふっ)
心中で笑う哉瓦であった。
アブソーブ・メソッドで際限なく吸収する哉瓦。
吸収されては炸裂のエナジーが機能しなくなると理解したのか、大まかな位置しか分からない哉瓦の周囲の土を炸裂する。
だがそんな攻撃が哉瓦に通用するはずもなく、ハード・メソッドで容易く防がれる。
どれほど吸収すれば相手に影響を及ぼすか、今の状況ではわからない。だが、砂嵐の大きさも威力も心なしか弱まったように窺える。
完全に優勢になったと見ていいだろうが、哉瓦にはまだ懸念することがあった。
(俺の吸収速度は速くない。酸素は持つが……砂嵐の不安定さから見て、相当エナジーを消耗しているはず。…酸素は持つが、時間が掛かるな…)
そこで哉瓦は一つの策を考えた。
◆ ◆ ◆
クウガの息が荒くなり、手の甲で顎や額の汗を拭う頻度が秒を重ねるたびに多くなる。
(どうする!?『砂爆嵐』だけでも解くか…? でも、それだと龍堂哉瓦の障害がなくなる…。そしたら……一気に……くそ)
唇を噛み、血が滲んだ……
その時。
(……え?)
哉瓦による搾取が止まった。
クウガは目に見えて戸惑った。
疲労は残るが、一方的に吸われていた時に比べれば随分と楽になった。
しかし、クウガの心の靄は晴れなかった。
(なんで、急に……?)
圧倒的優勢を自分の手で切るなど、有り得ないからだ。
アブソーブ・メソッドは使用すること自体にエナジー量は関係ない。ただ、吸収した後の相手のエナジーを塗り替えるのにはそれ相応のエナジーを要する。
(エナジーが切れた…? そんなはずがない。たった今僕から吸ったのが大量にある…。何が起きてる? 何を企んでいる?)
◆ ◆ ◆
モニター画面を前にした蕨は怪しく笑った。
(騎龍城嵐瓦。元御八家総括長にして、『神制十二座』の一角……。哉瓦……お前結構な大物だったんだなー)
騎龍城嵐瓦。
月詠玖里亜に並ぶ化け物の一人にして「士協会」の柱の一人。
(哉瓦はその息子……と)
なぜ隠してる? などという疑問が蕨の中でよぎることはなかった。
隠すことには多くのメリットが生まれる。
だが、騎龍城嵐瓦たる人物が「隠した方がメリットあるし、そうしよう」などと思い付きのような考えで実行するとは思えない。
そこには確かな真意があるはずだ。
その真意までは分からない。目の前のデータにはそこまで書かれていない。
そして、
(蓮見鉤奈「如き」がなぜここまでの情報を知っている? 自力で手に入れたとは考え難い………となると)
誰かが蓮見鉤奈に情報を提供をした。
(一介の情報屋や権力者に手に入れられる情報じゃない。『俺達』ですら、切り札の『カーキー』を使わなきゃ無理そうな情報だ。S級の巫女様や謎の情報屋集団『ガーネット』なんかを除けば……騎龍城家に裏切り者がいるのか……、それとも……)
一泊おいて、蕨の脳裏にとある組織の単語が浮かぶ。
(『屍』…………………………………っ)
蕨はすぐに頭を振った。
(早計だな。『あいつら』以外でも、ヤバい連中なら本気を出せばこのぐらい知ることはできる)
黄泉の『カーキー』のように。
(『鬼人組』の『七業鬼』ならともかく、その他の幹部や…準幹部程度じゃまず不可能。……情報提供者がいることは間違いない。情報網は蓮見鉤奈のコネクション? 考えにくい。蓮見鉤奈単体ではそんな強者と繋がりがある、というのは少し無理がある。痴女らしく体で? 相手がバカならそれで手に入れられるだろうが、そんなバカが『これほど』の情報を入手できるのか。……だったら? 答えは簡単)
蕨はため息をついた。
(蓮見鉤奈は利用されている)
そう確信した。
(エクレアの件はおそらく蓮見鉤奈の独断。『血』のことは自分の情報網で入手したんだろうが、哉瓦殺害は別。つまり情報提供者は同時にクライアントでもあったってわけだ。哉瓦の殺害自体が目的かどうかは分からないが、断言できるのは『この戦闘が監視されている』こと)
蕨はキーボードの前に肘をついて顎に手を当てながら思考を続ける。
(情報提供者も蓮見鉤奈「如き」で哉瓦を殺せると判断して、依頼したとなると勝算は五分五分。蓮見鉤奈は結構自信満々だったが、それ以前に「確実に」殺したいのであれば蓮見鉤奈「如き」には依頼しないだろ。…監視されてるのは哉瓦一人の戦闘か? ついでにエクレア達も? まあ、少なくとも俺はないだろうな。単なる人質に過ぎない俺を。…んー、パンジーのフォースなら取りあえず見つかることはないかもしれないけど、敵は未知数。もうこっちに『土塊人形』を送り込んでるだろうから遅いけど、警戒は必要だな)
蕨はポケットに手を突っ込み、そのまま携帯端末のボタンを一つ押す。警戒を伝達したのだ。
(にしても、)
と、蕨は思う。
(俺の予測通りなら、哉瓦は今クウガと戦ってる最中……)
蕨は笑う。
(蓮見鉤奈はあんなこと言ってたけど、これなら心配は無さそうだな)
一泊置いて。
(キイル相手じゃ分からないけど)
◆ ◆ ◆
クウガの瞳が絶望に染まる。
目の前の光景が信じられなかったからだ。
『全方位土爆壁』が崩壊した、そのさまを。
「危なかった。頭の良い戦い方だったよ。…俺が自分の力を完全に制御できていない未熟者だと知った上での効率的な戦いだったと言える」
そして、目の前に悠々と佇む男、龍堂哉瓦。
周囲にはもう『全方位土爆壁』も『砂爆嵐』も無い。
数秒前のこと。哉瓦による吸収法が途絶えた次の瞬間、『全方位土爆壁』に今度は大量の気が注ぎ込まれたのだ。
〝授気法〟
放発系特有の上級『法技』であり、効果は吸収法の正に逆。
自分の気に他の気を吸い寄せられるのであれば、逆もまた然り。ただ、吸収する場合はほぼ自動で行われるのに対し、授与する場合は手動、つまり自分の力に振り回されることなく完全操作しなければならない。
吸収法より授気法〟の方が難易度は上。
大量の〝気〟を与えられ、クウガは力がみるみる回復していくのを感じながらも戸惑いを隠せなかった。
そして、数十秒するうちに哉瓦の狙いに気付いた。
しかし気付いた時にはもう遅かった。
『全方位土爆壁』が暴走を始めたのだ。〝気〟の保有容量が多いクウガでさえ、あっという間にキャパシティを越え、『全方位土爆壁』の制御がきかなくなってしまった。
クウガが技を解くよりも早く瓦解が始まり、脆くなった土壁を哉瓦は容易く炎の斬撃で振り払い、道を切り開いたのだ。
『全方位土爆壁』が崩れた以上、大量に授与された〝気〟も消え失せてしまい、ガス欠寸前のクウガ。
しりもちをつき、立つのも困難な彼が見上げる。
そこには、大量の〝気〟を注いだしも関わらず、疲労の色が全くない哉瓦の姿があった。
日も暮れた空。『全方位土爆壁』の外側にいたクウガの元で向かい合っているため、景色は哉瓦の背景とクウガの背景で大きく違う。
哉瓦の側は瓦礫の山と化した〝土〟。そこはまるで海辺近くの広大なゴミ捨て場に土を被せたようだ。
クウガの側は林が続き、日が暮れた今となっては緑と焦げ茶色で染まっている。数十メートル先は結界を通しての景色だ。
クウガは立ち上がろうとするが、そこに逃走の意はない。ただの反射的な行動だ。
そこへ。
「考えてみれば」
哉瓦がおもむろに口を開く。今なんとか立ち上がったクウガに剣先を向けながら。
「お前と直接対峙するのは初めてだな」
「……なぜだ」
哉瓦の言葉など聞こえてない様子で、クウガが呟くように聞く。
「お前は〝気〟量こそS級。…化け物だ。テクニックもあることは確か………でも、〝吸収法〟も〝授気法〟も上級『法技』の中でもランクは上位……「今の」お前が使える程度とは到底思えない………」
哉瓦は小さく、口角をつりあげた。
嘲笑ったわけじゃない。それは、当然の疑問を抱かれたことへの相槌でもあり、哉瓦が血の滲むような努力をした部分だからだった。
「悪いが」
哉瓦は刀に〝火〟を纏い、片手で持ったまま振り上げる。
「その質問に答える義理はない」
そして、振り下ろした。
どうでしょう。
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極力返信しますので、無視はないと思います。




