第21話・・・動き始め/観察者・・・
2話分完成したので、まず一つ投稿します。
今日中にもう1話書き上げられるように頑張ります。
下水道では、激戦が繰り広げられていた。
《ムース! フォーメーションB! 行くわよ!》
《オッケー!》
〝念話法〟。
協調系特有の中級『法技』。
対象者と自分の『意志』を協調させることで念話を可能とする。本来、協調系は二つのモノの性質しか〝協調〟できないが、対象者の協力や『意志』と一括りにできることなどから、可能にした。
エクレアは念話法によってムースと連絡を取り合い、円滑にコンビネーションを遂げているのだ。
「『水棘!』」
銀髪を優雅に靡かせるエクレアが、剣を大きく振るい、メクウとバランがいる方とアワラがいる方、両方に向かって何本もの水の棘を飛ばす。
更に。
「『乱反射玉撃』!」
ムースが手に突如として出現させたビー玉30個を両側に15個ずつ放る。
メクウは銃を構えながら。
(皇女様の水の棘、威力よりもスピードを重視しているな。侍女は〝炸裂系雷属性〟。……水をこちらの近くに飛ばした上でビー玉を速い段階で〝炸裂〟させて〝雷〟をこちらに伝導させようって魂胆か。……甘いな)
「バラン!」
「分かってるよォ!」
メクウが叫ぶと、バランが叫んで応える。
バランが大剣を縦に振り、増幅した〝火〟が〝水〟を蒸発させていく。
「威力が無きゃ『剣』と〝協調〟してようが関係ねえな!」
一方、アワラの方も。
「甘いね」
呟くと、アワラは〝暗器法〟で隠していたA4サイズの紙を20枚ほど取り出す。その20枚の紙を〝操作法〟によって宙に浮遊させ、『水棘(アクア・スティング』の前に壁のように配置する。
威力の無い水の棘では紙を貫くことはできず、飛び散る。
(私と同じイレギュラーな武器…か。まあただの紙じゃない…何かしら特殊な『士器』だろうけど、それ以前に湿ってる…。アワラとかいう男の属性は取り敢えず〝水〟ね)
エクレアと背中合わせにしてアワラと向き合うムースは考察しながら、ビー玉の気に力を込める。
本来ならメクウの読み通り、『水棘』が敵の元まで届いたところで〝雷〟による〝炸裂〟をするつもりだった。だが、相手が守りに入っているのでビー玉が紙の壁の傍まで到着するのを2秒ほど待つことしたムース。
そして、2秒。
水で湿った紙のすぐ傍でビー玉15個が「大きく」炸裂した。
かと思ったが、そうはならなかった。
〝炸裂〟こそしたが、それは「小さく」。
半径50センチほどの小さな〝炸裂〟だった。
(え?)
目にかかった桃色の髪を分け、そういうのムースの目が見開かれる。
〝炸裂〟する直前、壁のように配置されていた紙が、いきなり動いたのだ。それから、すぐ傍まで飛来してきていたビー玉を15個を、20枚の紙の内半分ほどが全てをまるっと包み込んだ。
ムースはその一部始終を全て目撃した。
(ただ包み込んだたけで〝炸裂〟が小規模なものに…? ……確定)
「〝鎮静系水属性〟。それが貴方の〝質〟だね」
「正解。まあ、あんたら二人相手に隠し通せると思ってはないから、いいよ」
アワラが眼鏡の位置を整えながら失った分の紙を取り出し、浮遊させる。
〝鎮静系〟。
その特色は『対象の衰退』。
対象は〝気〟に限定せず、人の動作や思考、機械の稼働具合など幅広く収める。
無論、『士』のレベルに呼応して、その威力は弱くも強くもなる。
ムースの〝炸裂〟も〝鎮静〟をもろに喰らった所為で威力を抑えられてしまった。
(でも)
《エク!》
《ええ、準備はもう整ったわ》
エクレアは剣を勢いよく真下から真上へと上げた。
「『水刃噴水!』」
「「「!?」」」
突如、メクウとバラン、そしてアワラの足下の下水が間欠泉のように噴出した。
バランとアワラは咄嗟に横へと躱す。
メクウも同じように横へと躱しながら、
(そうかっ! さっきの連携は下水に己の〝気〟を流し込んで馴染ませるための時間稼ぎ! おそらく…いや確実にこの〝水〟は『剣』と〝協調〟している! 喰らったら切り刻まれる!)
それを証明するようにかすったメクウの服の袖がビリビリと切られる。
「くっ…」
(まだだよ?)
気付くと、メクウ、バラン、アワラの目先に、一人10個のビー玉が飛来してきていた。
(躱した状態の不安定な態勢を狙って…!? ヤバい!)
次の瞬間、ビー玉が〝雷〟を発して〝炸裂〟した。
◆ ◆ ◆
ちょっとチャラけた感じの少年、尾桑邦汰は〝歩空法〟で空中を歩いていた。
片手に持つ携帯端末を耳に当て、下を見下ろしながら誰かと話している。
「ええ、エクレア皇女とムース侍女は善戦してるみたいっすよ。さり気なく手を貸す必要もなかったみたいっす。………『グラード・アス』のアジトはついさっき見付けました。キイル…志場章貴と、灯生郭直属の部下、蓮見鉤奈もアジトから出て来ました。二人とも周囲の森に紛れて〝絶気法〟使ったのでこの距離じゃ見失いました。すみません。………ええ、そうなんですよ。あの蓮見鉤奈だったんですよ。クライアント。拷問や調教のスペシャリストなんですよねー…俺の友達、大丈夫でしょうか…? ………いや、情報持ってない奴拷問しても仕方ないって…それ以前に今捕まってる蕨くんって蓮見鉤奈が好みそうな子なんですよっ。……あの、何か言って下さい。何でもいいから言って下さい。……はい。分かりました。取り敢えずそれは置いておきますよっ。………ああ、はい。その二人以外は建物からでてきてないので、まだ蕨くんは中にいるでしょうね。大丈夫かなぁ。………分かってますよ。見に行きませんって。で、どうするんすか? これから。………龍堂哉瓦は相変わらず待ちぼうけですね。そろそろエクレア皇女とムース侍女の異変に気付いてもいいころだと………あ」
邦汰の目が、点になった。
「どうやらそうも言ってられない状況になったみたいです」
◆ ◆ ◆
龍堂哉瓦は一人エクレア達との待ち合わせ場所である公園の近くの森の中にいた。
公園では見晴が良く一目についてしまう可能性があるので、森の中を待ち合わせ場所に指定したのだ。
哉瓦は時間を確認しながら。
(遅いな…。警察の監視を掻い潜るのに時間が掛かっているのか?)
待ち合わせ時刻までもう10分を切った。
数分遅れてもキイルに指定された時刻には間に合うだろうが……
なんだ? この胸騒ぎは?
哉瓦は自分が感情を上手くコントロールできないことは理解している。こればっかりはどうしようもない。戦闘の前であり、友達を人質に取られてる。落ち着けと言われても落ち着けない。
だが、それとは別に何か大事なことを見落としているような違和感がある。
(どうする……?)
次の瞬間、哉瓦の周囲で〝炸裂〟が起きた。
「なっ…!?」
正しくは、周囲360度の〝土〟が隆起するように爆発し、哉瓦の視界を〝土〟で埋めたのだ。夕暮れの景色など見えず、木々諸共引っ張り上げるように〝炸裂〟した〝土〟が、ドーム状に哉瓦を囲う。〝加速法〟で上へ逃げようと試みたが、足元の〝土〟が〝炸裂〟して足場を取られてバランスを崩してしまった。その隙に哉瓦は完全に囲まれてしまったのだ。
哉瓦は瞬時に刀を構え、〝感活法・視〟で暗闇に対応し、冷静に臨戦態勢に入る。
(〝炸裂系土属性〟、クウガか…。いや、そんなことよりも、これで確信した……。エクレア達も今襲撃を受けている最中だ…ッ)
ムースが襲われた時の一件で哉瓦は2人に関して「助けなきゃ!」などという浅はかな考えは持つことはない。
心配であることに変わりはないが、今は自分の心配をするべきだ。
(〝土〟に触ているのは危険だな)
〝歩空法〟で宙に移動し、佇む。
(半径50メートル…高さは150メートルってところか?)
視界の閉ざされた空間でも〝火〟を飛ばして照らし、〝感活法・視〟である程度の距離は把握することができた。
(〝土〟の壁が厚過ぎて〝探知法〟がうまく機能しないな。…まあ、外には〝結界法〟が張られていると見て間違いないだろうが)
先のトンネルでの襲撃の時のように結界と対象者との間に物を挟むことで〝乱流法〟を物理的に封じている。
(これだけ大容量の〝土〟を操るのはA級と言えど困難なはず…。このままじゃ俺自身の〝火〟の助けもあってこの密閉空間内の酸素がすぐ無くなる…。やるなら速めがいいか)
哉瓦は〝気〟を全身に込め、〝防硬法〟を全開する。
そして、居合切りの構えを取り、〝歩空法〟状態で〝加速法〟を発動。50メートル先の土壁に突進した。身体への負担も、今ならそれほど無い。
哉瓦は、多少の〝炸裂〟は覚悟で分厚い〝土〟の壁の一点突破を図ったのだ。
「アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!」
雄叫びで喝を入れながら大量の〝火〟を纏う刀で居合抜きを放つ哉瓦。
激音が響き、〝火〟と〝土〟が激突する。
土までもが哉瓦の圧倒的火力を前に蒸発し、分厚い壁が徐々に削れていく。
〝土〟が〝炸裂〟し、剣を押し返そうとするが、哉瓦の勢いは止まらない。無論、〝炸裂〟は命も狙っているが、哉瓦の〝防硬法〟をそう易々とは打ち破らせない。
(このまま突っ切る!)
哉瓦は更に、強く握る刀へ、力を込めた。
◆ ◆ ◆
「はあ、なんで僕がこんなことを…」
黒髪に半眼の怠気な男性、クウガはため息をもらしていた。
今哉瓦をドーム状に囲む大規模な〝土〟の技名は『全方位土爆壁』。
クウガの切り札の一つ。
己の〝土〟だけでなく、自然の土も利用しないとできない『司力』。
5つの〝属性〟は自分で生成したものを自在に操る能力であつて、自然そのものは操ることはできない。操る場合、多量の〝気〟を流し込み、ある程度の時間、馴染ませないと不可能だ。
クウガはキイルが予測した地点に逸早く先回り、その周辺の土に自分の〝気〟を流し込んでいたのだ。そしてつい先ほど、十分馴染ませ、操ることを可能としたのだ。
あとは〝炸裂〟の勢いも利用して瞬時に『全方位土爆壁』を完成。
この『司力』は縦横無尽に〝炸裂〟の〝土〟で囲い、抜け出そうと攻撃を加えれば〝炸裂〟が発動し、動かなければ酸素不足で戦闘不能と化す技。
少し頭が良い相手なら地面が〝土〟という時点で接触は危険と判断し、〝歩空法〟で宙に逃げる。宙に浮いた状態で満足に動ける『士』はA級と言えど限られるので、反撃手段も遠距離タイプに限られる。
それでも〝土〟の壁を崩さなければ終わらない。
地形が土であり、〝気〟を大量に注入するだけの時間がないとできない技だが、それだけに強力な技でもある。
哉瓦のように近距離タイプであり、一人となれば周囲を〝結界法〟で覆っているので助けも呼べず、有効的な技なのだが、少々部が悪いようだ。
クウガは『全方位土爆壁』と結界の間、巨大な〝土〟の上で技の維持に専念していたが、早速破られそうになり、自身が立てた高大な〝土〟から降り立つ。
そして、今哉瓦が一点突破で攻撃をする『全方位土爆壁』の反対側に到着した。
クウガの目の前には巨大な〝土〟の壁。自分の〝土〟に加えて、森一体の土も使ったので、所々から木々の草や根っ子が出っ張っている。
クウガはその壁に両手を触れ、己の〝気〟を伝って状態を診る。
(……まだ破られることはないだろうけど、時間の問題だな…。キイルや蓮見の話だとS級なのは〝気〟量だけとか言ってたけど…十分A級とは一線を画してるね…。まともにやって敵うとは思えない)
中の様子はクウガには見えない。だが『全方位土爆壁』に加えられる衝撃の大きさは把握でき、現状がいずれ悪い方向に進むと確信した。
クウガは両手を土壁に当て、〝気〟を込めた。
尾桑邦汰、覚えているでしょうか?
以前に蕨にホモ疑惑をかけられた人です。




