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ライラック  作者: 三角四角
第1章  入学初月編
21/28

第20話・・・牢屋/痴女・・・

 ゴールデンウィーク中(ほぼ終盤ですが)なんとか投稿することができました。

 最終更新日から3週間ほど経ってるのに、ブックマークがちょくちょく増えてきてくれて嬉しかったです。

「………ふぁ」

 拉致された柊蕨が眠りから覚めた。

 重い瞼の隙間から光が差し、二度寝を許さない。

 目を擦ろうとして、擦れないことに気付く。

(……手錠か)

 意識もはっきりしてきた蕨は、上体を起こし、自然な動作で辺りを確認し、状況を認識する。

 以前に蕨が発見した『グラード・アス』、現在の拠点。その建物の殺風景で何もなかったような部屋。そこに後から取り付けたような鉄格子だけの簡易牢屋のようなものの中。

 制服姿の蕨は今その牢屋の中に敷かれた布団の上に横たわっている。

 両腕を後ろに回して手錠で拘束されている以外に、体に別状はない。

 手錠にはリミッター機能が付いていて蕨の「今」の〝エナジー〟はもう微々たるもの。

(雑魚相手でも容赦ないねー)

 捕まってから約一時間。

 建物の内に戦闘の気配はない。

 人も少ない。

 ADがない。抜き取られたようだ。

 蕨は天井端の監視カメラの目を気にして「何が起きたか頭が追い付いていない」的な顔をしながら頭を回転させる。

(………一応、想定内だな。今は82%の確率で下水道でムース達がバランやメクウ、……多分俺を捕えたアワラとかいう奴とも戦ってる頃かな。哉瓦は待ちぼうけ。警察や生徒会はまんまと見逃して今ももぬけの殻と化した家を見張ってたり…………いや、生徒会はともかく警察…捜査零課はまだ分からない、か)

「………、」

 その時、この部屋に近付く気配を察知した。

(……一人)


「こんばんわぁ~、蕨くん」


 ドアを開いて色っぽい声を発しながら挨拶してくる女性が一人。

 初対面なのにさっそく下の名前で呼んでくる。

 染めた金髪に白い肌。まだ春の寒い時期の夕暮れ時だというのに布面積が少ない露出の多い服。胸など子供が少し手を掛けるだけで全てが露わになってしまうような状態だ。ギャルと美人を混ぜたような容姿は色気がたんまり。

 そして腰には鞭を備えており、Sっぽさがぴりぴり伝わってくる。

(あー、この人がクライアントか……)

「やっと目が覚めたのねっ、大丈夫?」

(その台詞お前が言うか)

 何も応えない蕨をフリーズしてると思ったのか、その女がテンションを少し落として牢屋の前にある椅子に座る。

 だがその目の光は妖しく、嬉々としている。

「自己紹介がまだだったわね。私の名前は蓮見はすみ鉤奈はりな。『鬼人組』って知ってるわよね? そこの組員やってます。よろしくね~」

「は、はあ……」

(蓮見鉤奈。聞いたことがある。『鬼人組』最高幹部、『七業鬼ななぎょうき』の内一人の直属の部下。確か拷問のスペシャ…リス……ト…………………………まあ俺は人質だから情報なんてないし、拷問なんてする必要ないよね、うん。調教のスペシャリストなんて噂もあった気もするけど、大丈夫大丈夫)

 ちょっと想定外の人物に内心慌てるが、表情には出さず、自分に落ち着きの言葉を言い聞かせる。

 すると、鉤奈が鉄格子を添えるように掴み、無邪気と狂気が混じったような妖艶笑みを浮かべて、蕨を見ながら言った。

「アワラ達が捕まえた時から思ってたんだけど~、蕨くんって顔結構可愛いよね~」

(…………………大丈夫だよね?)

「あの、その…」

 蕨が飾らず本心からの危機感を顔と声に出すと、鉤奈はおかしそうに口に手を当てて笑った。

「ハハ、そんな顔しないで。私職業柄拷問とかやってるけど、今の蕨くんは大事な人質だからね。何もしないわよ」

「そ、そうですか……」

 鉤奈は首を少し傾げ、蕨を見詰めながら。

「ふぅん、意外と落ち着いてるのね。もう少し慌てふためくものだと思ってたのだけど」

「ま、まあ、叫びたい気持ちは山々ですけど、それじゃあどうにもならないことが分かってると言いますか……冷静さには自信があるので」

「なるほどぉ」

 あまり興味無さそうに頷く鉤奈。

 蕨はおずおずと、

「あ、あの……一つ聞いてもよろしいでしょうか……?」

「ん? どうぞ」

「俺って………これからどうなるのでしょうか?」

 聞くと、鉤奈は面白そうな、それでいて邪な笑みを浮かべた。

「気になる?」

「そ、それは…まあ…」

(充分予測がつくけど、実際見聞するに越したことはないからな)

「ふぅん……」

 鉤奈は勿体ぶり、応えようとせずに蕨を品定めするように見詰めている。

「…………?」

「ふむふむ」

(顔は合格。やっぱり可愛い)

 一人で頷き、すると鉤奈は牢屋の鍵を開けて中に入ってきた。

「!?」

 蕨が逃げられるなんて思っていないのだろう。鍵を開けっ放しにして座ったままの蕨にじりじり寄ってくる。

「あ、あの……」

「………」

 後ろで手を拘束された蕨はずるずると後退する。

 鉤奈は面白そうな笑みを絶やさず、四つん這いになって大きな胸を揺らしながら迫ってくる。

(……………………なんか、本格的に変な空気になってきたぞ)

 蕨の背が壁に付き、逃げ場が無くなる。

 手を後ろに回した状態で体育座りする蕨の両膝に、鉤奈の巨乳が密着するほどの距離までくる。

 そして蕨の頬に手を撫でるように当て。

(反応も合格。やっぱり相手にするなら年下よね~)

「ねえ、蕨くん」

 鉤奈がやっと声を出す。


「本気で私のものにならない?」


「…………………………」

 フリーズする蕨。

 鉤奈は構わず言い続ける。

「悪い話じゃないと思うわよ? 分かってる? 今貴方の処遇について結構見当されてるのよ? 生かすか、殺すか」

「え、あ……」

(だろうな)

「巻き込んでしまったけど貴方も立派に争いの中心にいるの。このままってわけにもいかないのよね~」

「あ、あの……でも俺何も機密情報的なもの知りませんよ? それにまだ哉瓦達が負けると決まったわけじゃないですし……」

 反抗的な態度、などと大げさに取らない鉤奈。まるで子供をあやすような笑みで蕨に語りかける。

「ふふ、まず貴方の友達が勝つ確率。これはゼロよ。確かに龍堂哉瓦、エクレア=エル=ディアーゼス、ムース=リア=グランチェロは強いわ。龍堂哉瓦に至ってはS級並みの〝エナジー〟量を保有している。経験も積んでるから学生レベルじゃないわ」

(『経験を積んでる』か。同感だが、この女、その詳細も知ってるのかな?)


「でもね、学生レベルでない、というだけで決してS級レベルだというわけじゃないの」


(………それも同感)

「龍堂哉瓦は天才よ。あと5年……いや、2,3年もすれば手が付けられなくなるわ。けど「今」ならまだ何とかできる。…殺せる」

 鉤奈は嘲りの笑顔で。


「龍堂哉瓦の才能は大き過ぎて、まだ制御仕切れていないのよ」


(……同感)

「赤ちゃんに刀を持たせても、まるで怖くない。むしろその赤ちゃんが刃で傷付かないか心配になる。今の龍堂哉瓦はそんな状態なのよ。強大な攻撃をするだけでその反動により死にかねない。守り一辺倒の〝防硬法ハード・メソッド〟でならその大量の〝エナジー〟を注ぎ込むことができるかもしれないけど、やりようはいくらでもある」

(そう。哉瓦の戦闘は傍で見てきたが、あれは紛れもなく天然物の才能。薬剤投与や人体改造なんて人工物じゃない。………故に制御するのに時間がかかる。あの刀も反動を抑える役割を少なからず担っている『士器アイテム』。おそらく哉瓦は、あの刀が無ければ実力の半分も出せないだろうな)

「皇女と侍女も実力は高いけど圧倒的ではない」

「……」

「理解できた?」

「……」


「貴方のお仲間は万が一にも勝てる確率は無いの」


「………」

 蕨はあくまで冷静だ。

 元々演技が得意ではないから下手に怖がってボロを出したら元も子もない。

 だから今の蕨は「聞く耳持たない」という振る舞いで鉤奈から顔をそむける。

 が。

「こっちを向きなさい」

 鉤奈にくいっと両頬を掴まれて対面させられる。

 気の所為か、やけに鉤奈の息が荒い。

「…っ」

「ごめんなさいね。友達を酷い目に合わせて」

 それからぐっと顔を近付ける。唇と唇の距離が5センチほど。息を荒げてるのが気の所為でないことを確信させる。

「で・も、私のものになればそんな悲しみは忘れさせてあげるわ。殺さず生かしてあげれる。この歳で大人になれるのよ? 気持ち良いこと、したいでしょ?」

「それ、大人になると同時に色々終わりますよね?」

「堕ちるだけで終わりはしないわ」

 胸元の服に手を掛け、完全誘惑モードへと突入した鉤奈。

「あいや、でも俺弱いですし……」

「大丈夫よ。貴方が気絶してる間に「ちょっと触らせてもらった」けど、中々良いモノもってたわよ」

「どこ触ってるんですか!?」

(それは想定外だった!)

「大丈夫。私の体も好きなだけ触らしてあげるから」

(そういうことを言ってるんじゃねえよ!)

 秒を刻むごとに鉤奈の息は速く、荒くなり、頬を紅く染めながら言った。

「ごめん、蕨くん私の好み過ぎて本気で我慢できなくなってきちゃった…。……やりましょう?」

 瞬間、蕨の身体にスタンガンでも喰らったような痺れが走り、体育座り状態から解かれる。

(〝雷〟……)

 閉じていた足が崩れ、鉤奈がその上に跨る。

「手錠は外せないの、ごめんね。…で・も、安心して。私が全部やってあげるから」

「ちょっ…ま……」

 鉤奈は蕨の頭の後ろに手を回す。唇と唇の距離を1センチほどにして、良い匂いのする吐息をつきながら蕨に聞いた。

「蕨くん、ファーストキスは済ませた?」

「は…はい…」

「へー、どんな関係の子?」

「えっと……妹…」

「家族以外では?」

「…な、何人か…」

「ベロチューとかは?」

「…な、何人か…」

 鉤奈は嬉し可笑しそうににんまりと笑い、

「ほんとかな~?」

「あ……あの」

 自分の唇を舌でぺろっと舐め、鉤奈は言った。


「試してみましょうか」


 その時だった。


『蓮見様。お楽しみのところよろしいでしょうか?』

 監視カメラ付近のマイクからアナウンスのように響く声が蕨の窮地を救った。

 鉤奈は不機嫌そうな顔でカメラに向き、蕨の顔を胸の谷間に埋めながら。

「なに? キイル。本当にお楽しみのところだったんだけど」

『申し訳ありません。ですが、計画に変更が出て来まして。プランBBは失敗。プランABで行きたいと思うので、蓮見様にも御助力をと思いまして』

(こいつが志場章貴か………………にしてもここ良い匂いするなー、悔しいけど)

 鉤奈の谷間の中での蕨の心の呟きを知らず、二人は会話を続ける。

「私がいなくちゃダメ?」

『頼りないからと協力を申し出たのは蓮見様です。それを踏まえて計画を練りましたので、このままでは計画に支障が出るかと』

 鉤奈は舌打ちして。

「……せっかく掘り出し物発見したのに…。キイル、それは良いけど、この子殺すって話はもう無しよ? 私がもらうから」

『はい。この件が終わった後なら我々はもう彼をどうこうするつもりはありません。そちらで面倒を見て下さるのなら願ったり叶ったりです』

「ならいいわ」

 未だ蕨の上に跨る鉤奈は、溜息をつきながら了承する。

(た、助かった………。計画変更ってことはムース達が上手くやってくれてんだろうな。クライアントがこんな女ってのは想定外だが、参戦するってのは想定内。鞭と〝雷〟……凄く嫌な組み合わせだけど、特別厄介ってわけでも無さそうだ)

『では、早めによろしくお願いします』

「はいはい」

 鉤奈は適当に返事をしてキイルの言葉は途絶えた。

 蕨は刺激しないように口を閉じて鉤奈が出て行くのを待つ。


「蕨くん」


「へ?」

 しかし、そうは問屋が下ろさなかった。


 くちゅっと、ディープキスをされたのだ。


「!?」

 眼前で目で笑う鉤奈。腕を首に回し、体を密着させて巨乳を押し付けてくる。蕨は必死に逃れようとするが鉤奈に逃す気はなく、舌が奥まで入ってくる。

(舌が…唾液が……この女………ッッ)

 蕨の目線が鋭くなり、舌の動きが変わった。

 鉤奈は驚愕と歓喜が混ざったような目で見開く。

(この舌使い……)

 鉤奈は糸を引きながら蕨の唇から唇を離す。

 肩で息をする二人。

 馬乗り状態の鉤奈は恍惚とした瞳で蕨を見下ろしながら、


「へー、本当に経験あったんだぁ」


 蕨は気まずそうに目線を逸らす。

 鉤奈は蕨を無理矢理自分の方へ向かせ、おでことおでこをくっつけながら、言った。

「増々欲しくなっちゃった」

(………うぜー)

 鉤奈は立ち上がり、唇に人差し指を当てながら告げる。

「このままだと自制が効かなくなっちゃうから、楽しみはまた後でね。蕨くん」

 ふふと笑い、鉤奈は牢屋の鍵を閉めて出て行った。


 一人牢屋に残された蕨は深く深く、溜息をついて唇を制服の肩口で拭く。

(〝探知法サーチ・メソッド〟。………もう蓮見鉤奈もキイルも建物の外。他に敵は無し。………よし)

 蕨はズボンのポケットから回収されずに済んだヘアピンを取り出し、右手の手錠を外す。前に持ってきて左手の手錠を外す。

(電子錠じゃなくて良かった。これで1%の力は出せる。…………はぁ、にしてもあの女、うざかったなぁ。ああいう痴女はアプリコットだけで充分だっつーの)

 蕨は牢屋の鍵をヘアピンで開け、無事解放された。


「さて、逃げるか」


 拉致されたから取り敢えず酷い目(?)に合わせようと思ったら結構長くなってしまいました。

 蕨の頭の回転の速さが少しでも伝わってくれればありがたいです。

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