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ライラック  作者: 三角四角
第1章  入学初月編
20/28

第19話・・・拉致/決戦の始まり・・・

 前回の投稿より結構空いてしまいましたが、何とか書き上げました。

 

 ムースとバランの激突から何事も無く三日経ち、放課後になった。

 曇りの日。

 相も変わらずゆったり雰囲気の蕨は夕飯の買い物を済ませ、住まいに戻る為元学生寮の階段を上る。

 すぐに蕨は自分の部屋のドアの前に着いた。


 そして、深々と心の溜息をついた。


(はあぁぁ、やっぱりいるよ。なんか中にいるよ。〝絶気法オフ・メソッド〟で隠してる気でいるみたいだけどばればれだよ)


 蕨の予想通り、敵は来た。

 今現在、蕨の家の中にいる。

 しかも二人。

 蕨みたいな『雑魚』一匹誘拐するだけの為にA級を二人も使わすその用心深さ。

『グラード・アス』は基本的にツーマンセルからスリーマンセル行動だと蕨は聞いている。

 不足の事態にも余裕を持って対処できるようにだろう。

 よく考えられている。


 敵は蕨の帰宅に気付いている。

 ドアを開けるのを渋って敵に怪しまれたり、このまま逃げ出してA級レベルの〝絶気法(オフ・

メソッド)〟を見破ったというレッテルを貼られるのも勘弁なので、蕨は覚悟を決めてドアを開けた。


 ドアを閉め、自然な動作で靴を脱ぐ。

 電気の点いていない暗い我が家の中は静かだ。

 どうやら速攻で拉致るというわけでもないらしい。

 蕨は一応買った食品(もう無駄になってしまったが)を置く為にまずは台所へ向かう。

 玄関から続く数メートルの廊下を歩き、その先のドアを開ける。


「やあ、柊蕨くん」


 分かっていたが、そこには『敵』がいた。

 眼鏡を掛けた若い男。

 暗い部屋に飄々と佇んでいる。男の背後の締め切ったカーテンの隙間から覗く光で中途半端な逆光ができ、不気味さに磨きがかかっている。


「初めまして、アワラって言います。そして、」

 アワラと名乗った男は、蕨のリアクションを待たず、黒い笑みで告げた。


「おやすみ」


 そして蕨は『わざと』、捕まった。


 

 ◆ ◆ ◆



 哉瓦、エクレア、ムースの三名のADに蕨からのメールが受信された。

 友達から連絡が来た、とそんな軽い気持ちでメールを開いた瞬間、三人の思考が一瞬吹っ飛んだ。

 

 一番最初に目に入る添付画像。

 そこに映っていたのは、縄で拘束された蕨の姿だった。

 

 ッッッッ!?

 エクレアとムース、遠く離れた場所にいる哉瓦、三人の反応がシンクロする。

 震える手で画面をスクロールすると、当然蕨によるものでない文章が瞳に飛び込んできた。


『こんばんわ。画像は見て頂けましたでしょうか? 一つ心配事を取り除きますが、彼は怪我を負ってはいません。捕まる時も抵抗することができず、あっさり捕縛されてしまったようなので』

 信憑性は皆無だが、真実だと三人とも思った。

 だが安心する暇はない。

『本題に入りますが、龍堂哉瓦、エクレア=エル=ディアーゼス、ムース=リア=グランチェロの三人はもう一つ添付してある画像の地図に示してある場所まで来てもらいます。その際、警察の方々は邪魔なので、撒いてきてください。その策はこちらで用意しましたので、それに従えば問題ありません。…言うまでもないことですが、警察はもちろん、生徒会や他の人にはこのこと内緒ですよ。警察が気付いたかどうかはすぐ分かります。そうなったら貴方達の大事な友達が一人、消えてしまいますから注意することをお勧めします』

 穏やかな文章。

 殺気や闘気のような気配を感じない。

 それがまた恐怖感をなぞる。


『6時半までに入口から来て下さいね。お待ちしています』


 ◆ ◆ ◆



「くそッッッッッ!!」

 哉瓦は怒りに任せて傍にあった椅子を蹴飛ばした。

 派手な音はしたが、このマンションは防音完備なので警察にもばれることはない。

 だがそんな事実は頭から抜け落ちていた。

 それほどまでに動揺を隠せないでいた。

 三日。

 何も無いとこを奇妙に思っていたが、気を抜いた瞬間は一度もない。

 いつ敵が襲って来ようと大丈夫なように、ムースの時のようにどこで〝結界法サークル・メソッド〟が張られていてもすぐ気付けるように、常に〝探知法サーチ・メソッド〟と〝感活法シャープ・メソッドフィール〟で広範囲の警戒を怠らなかった。

 常人離れした〝エナジー〟を保有する哉瓦でも24時間フル使用は無理があるが、それでも一瞬の倦怠も見せなかった。


 それなのに、この様だ。


 いつ敵が真正面から自分を狙ってくると勘違いをした?

 トンネル内でかち合った時も容赦無く蕨を人質に取ったではないか。

 

 ついこの間、蕨が言っていた。

『教科書通りの頭脳しか持ち合わせてないんだねー』。

 全くもってその通りだ。


 哉瓦も幼少の頃から幾つもの修羅場は潜り抜けてきた猛者だ。

 多種多様の『任務』も熟してきたし、その都度不足の事態にも柔軟な思考で対処してきた。

 つもりだった。

 が、それは大きな間違いだった。

 レベルというよりベクトルが全然違う。

 今回のような二つ三つの街という特大範囲、蕨のような『力に乏しい仲間』、不確定要素が多過ぎて論理的思考では限界があるのだ。


 その事に早く気付くべきだった。


 警察に自分の交友関係を謙遜や自重を入れずに話していれば、蕨が狙われるということに気付いてもらえたかもしれない…。

 そう考え始めると、止まらなくなる。

(…やめろ。悔やむのは後だ)


 だがそれでも今まで培ってきた経験値を無駄にせず、冷静さをすぐに取り戻し、支度を済ませ、警察に気付かれないよう、癪だが合理的な『敵』の策に従って目的地に向かった。


 ◆ ◆ ◆



 敵の警察から目を抜ける策とは簡単なものだった。

 まず警察に見付からないように身を屈めてベランダに出る。ちょうど洗濯物を取り入れる時間帯だったので、取り込んでから窓を閉める。だが哉瓦は部屋に戻らず、ベランダに身を屈めて残る。

 それから隣の部屋のベランダとの仕切りを常に帯刀している刀で斬る。警察にばれないように塀に隠れた下の部分だけ。そして隣のベランダに移動。

 セキュリティも、部屋の外では反応はしない。

 斬った仕切りも形だけそれっぽく戻しておけば、住人もまず気付きにくいだろう。

 それを繰り返し、その階の一番端のベランダまで移ったら、そこから逃げればいい。

 マンションを囲むように180度警官が配備されてはいるが、マンションの側面に当たる部分の警官は敵が攻めて来ないかとマンションに背を向けている可能性が高い。

 だから一番端の部屋、マンションの側面部分から哉瓦は警察の目を盗んだのだ。

 6階だが、哉瓦には関係ない。



 指定された場所は街外れの建物。

 哉瓦のマンション、エクレア達の住まい、ついでに蕨の元学生寮からも遠く離れた場所にあり、警察の目も届かないような場所だ。

 廃墟ではないが、それに近い建物だ。都内でも珍しく富の薄い地域に建っている。その地域に人は住んでいるが少なく、建物の周囲は無人と言っても過言では無かった。


 哉瓦は〝感活法シャープ・メソッドサイト〟で場所だけを確認し、先程エクレア、ムースに連絡して決めて置いた合流地点にいた。

 私服のように見えるが実際は特注の戦闘服を着ている。伸縮性や防護性がデパートで売っているような服とは桁違いだ。

 ADのGPS機能は停止しておいたのでばれる心配は無い。


 まだかな、と思っていたその時。


 エクレア、ムースの元では、異変が起きていた。



 ◆ ◆ ◆



 エクレア、ムースの住む家には地下室がある。

 その地下室がどこかと繋がっているわけではないが、その気になれば無理やり穴を空けて近くの下水道に出ることができる。

 そうすれば余裕で警察の目を掻い潜って防衛網の外へ出ることができる。

 二人は装備を整えて家を出ていた。

 暗い下水道の中を上にいるであろう警官にばれない程度の〝加速法アクセル・メソッド〟で走りながら、ムースは隣のエクレアに聞いた。

「エク、本当に大丈夫? まだ指定された時刻までは時間あるし、もう少し心を休めてもいいと思うよ?」

「大丈夫よっ」

 赤い目尻に少し顔色の悪いエクレアは突っ撥ねるように応えた。

 蕨拉致の事実を受け、エクレアも哉瓦と同じく思いっ切り取り乱したのだ。

 期間が短い上に異性であろうと、蕨は大切な友達だ。

 自分の所為で危険が降り掛かったとなれば、自責の念に押し潰されそうになってしまう。

 しかし、意外にもムースは落ち着いていて、取り乱したエクレアの肩を抱いて介抱したのだ。

『なんでムースはそんなに落ち着いてられるのよ! 柊くんが捕まったのよ!?』

『蕨なら大丈夫よ。ああ見えて凄いんだから』

 つい先程のやり取り。

 虚勢じゃないことは小さい頃から一緒にいるエクレアがよく分かった。

 強がりでなく、心から蕨を信頼している。

 人間関係において、蕨が四人の中でも一番頼りになることは明白だ。

 しかし、こと戦闘においてはとてもじゃないが、頼り無い。まだ入学したばかりなのだから当たり前だ。

 ムースが何の意味もなく、冗談以外でここまで断言するはずがない。

 根拠を聞きたかったが、今はそれどころではない。

 エクレアはムースの平静な心に引っ張られるように冷静さを取り戻した。

 

 エクレアは隣を走るムースを横目でチラッと見て。

(何かあったのかしらね)


 と、その時。


 エクレアとムースはハッと目の色を変えて横に跳んだ。

 通路のすぐ横には下水が流れているので、〝歩空法フロート・メソッド〟で宙に浮く。

 すると今さっきまで二人の頭があった位置を二発の弾丸が空気を裂くように通過した。

(この『司力フォース』……)


「やっぱ躱すか。完全に不意突いたと思ったんだけどな」


 二人が走ってきた方角。

 二人と同じように〝歩空法フロート・メソッド〟を使い、流れる水の上を歩くようにして闇の中から姿を現した拳銃を持つ男。

 二人はよく覚えている。

 蕨を直接人質に取った〝具象系雷属性〟の拳銃使い。

「メクウとか言ったかしら」

 エクレアの言葉にメクウは「へー」という顔で。

「直接名乗った覚えはないんだが、よく覚えてんな。相手が皇女様となると嬉しい限りだよ」

 どうでも良さそうに薄ら笑いを浮かべながらメクウは言う。

 ムースはビー玉を30個辺りに分散させながら。

「なるほど。最初からこれが狙いだったのね。指定された場所までおびき出すように見せて、ここで闇討ち」

 その予想の正否を応えたのはメクウではなかった。


「まあ、そんな面倒なことしなくてもいいんだけどね」

「こっちには人質がいるんだからなァ」


 メクウの隣りと反対側からもう一人、男が現れた。

 反対側に表れた眼鏡の男は初見だが、メクウの隣りの大柄な男はよく知っている。

 バラン。

 顔面に包帯をぐるグル巻いて見えるのは目と髪くらいだが、ムースに対して怒りの形相で睨んでいるのはよく分かる。

「三日振りだなァ……ッッ、ムース=リア=グランチェロッ」

「落ち着け、バラン」

 大剣を持つ手にギュッと力を入れるバランに、メクウは冷めた声音で言う。

「俺は初めましてだね。どうも、アワラと言います」

 眼鏡を掛けた男が飄々と自己紹介をする。

 エクレアはムースと背中を合わせながら、嫌な汗をかいた。

(ムースと互角の『フォーサー』が三人…しかも人質を取られてる…。分が悪いにも程があるわ…)


「言っとくが、別にお前らと戦おうなんて考えてないからな」

 メクウが銃を持たない手で携帯を見せびらかせる・。

「ボタン一つで柊蕨くんはあの世行きだぜ?」

 あっそりと恐れていることを告げられ身を竦ませる二人。

「〝結界法サークル・メソッド〟で電波妨害してもいいよ。俺達三人相手に何秒も持つとは思えないけど」

(……確かに。結界を張ったところでこいつら三人同時に〝乱流法クランブル・メソッド〟を使ったら防ぎようがない)

 エクレアが下唇を噛んだ、その時。


「『乱反射玉撃リフレクション・ビード』ッ」


 ムースが、躊躇無く三十個のビー玉を放った。

「「「「!?」」」」

 壁、天井、水面すら〝跳弾法バウンド・メソッド〟で跳ねメクウとバランの二人がいる方向を狙う。

 敵の男達に加えエクレアまでも驚きを隠せないでいる。

(自棄になったか? この程度の技……)

 メクウは驚きつつも冷静に、銃を構えた。

(〝感活法シャープ・メソッドサイト〟)

 視力を高め、ビー玉三十個を全て追う。

 そして。

「『増加弾ゲイン・バレット』」

 一発の弾丸を発砲した。

 その弾丸が計三十個の弾丸へと〝具象〟され、ビー玉全てを撃ち砕いた。

増加弾ゲイン・バレット』。

〝具象系〟『フォーサー』の間ではメジャーな技だが……。

(三十個も〝具象〟するとはね)

 ムースが感心するように心中で呟く。


「お前、そんなにお仲間を殺したいのか?」


 そんな涼し気な顔のムースにメクウが問い掛ける。

「柊蕨を殺せないとでも思ってんのか? それは大間違いだぞ。確かにここで柊蕨を殺しちまえば人質の意味は無くなっちまうが、そしたら俺達は出直すだけだ。何も今日片を付ける必要はない。また別の日に策を企ててくればいいだけ。…………もしくは」

 メクウが銃口を二人に向け。

「ここでガチバトルしてお前らをひっ捕らえることもできるんだぞ」

 ムースの余裕さは消えない。自信に満ちた笑みがメクウの不機嫌を煽る。


「まあ、取り敢えず殺すわ」


 エクレアが待てと言う間もないまま、メクウは携帯のボタンをパチと押した。

 この場では何も起きない。だが、確実にボタンを押した。

 暗い下水道の中、流水の音だけが響く。

 奴らのアジトで今蕨がどうなっているのか想像にし、エクレアは息が詰まる思いをした……が、

「………ん?」

 流水音の中メクウの間の抜けた声が下水道に響く。

 バランが大剣を担いだまま横を向き、聞いた。

「どうした?」

 メクウはバランの質問に答えたのか、独り言を呟いたのか分からないが、震えた口調で事態を告げた。

「……圏………外……ッッ!?」

 ムース以外の全員が驚く。

 アワラが眼鏡を整えながら。

(おかしい……地下とはいえここは電波が繋がるはず。結界も張られていない……なのになぜ!?)


「電波妨害装置」


 ムースが手の平サイズの装置を取り出し、からくりを漢字6文字で述べる。

 全員の目を引く中、ムースが続ける。

「今時アナログ装置なんて行き遅れなんて言われるけど、それ故に逆に予測できないのよねー」

 メクウ達敵が狼狽え、重心を後ろに引く。

 そして、キイルの予測を反芻した。


『この策の場合、前時代的な電波妨害装置を使われたらアウトなのですが、彼らはそこまで頭が回らないでしょう』


 ムースの予測は外れているが、結果的には功を奏している。

 そして何より、キイルの予測がここまで大外れしたことに、メクウ達は驚きを禁じ得ない。


 エクレアが小声でムースに話し掛ける。

「む、ムース……貴方、どこでそんなもの……?」

「うん。生徒会の人に頼んだらすぐ用意してくれたよ。協定結んでなくてもこれぐらいの協力はしてくれたんだ」

「いつの間に……」

(まあ、蕨の助言のおかげなんだけどね)

 内心で呟くムース。

 まるでこうなることが分かっていたような、あの助言。

 感謝感激だ。

 その瞬間。

「「!」」

 敵が〝結界法サークル・メソッド〟を施し、結界でこの下水道内を覆ったのだ。


「こうなったら仕方がない。バラン、アワラ。………やるぞ」

 メクウが戦闘態勢に入り、バラン、アワラの表情も変わる。

「ヒャッハアアアアアアアアアアアアアッッ! とんだ役得だぜ!」

「仕方ないな」


「エク……」

「ええ」

 エクレアは西洋剣を横に振り、構える。


「行くわよ。皇女の力を思い知らせてやるわ」

 エクレア・ムースVSバラン・メクウ・アワラ。

 敵が有利なこの状況!

 エクレアとムースはどうやって危機を乗り切るか!?

 そして、拉致された蕨、待ちぼうけの哉瓦はこれからどうなる……!?

 

 

 …………と、少しノッて予告っぽいことをやってみました。

 うざかったらすみません。

 ……次の更新がいつになるかは分かりませんが、ちゃんと投稿しますのでよろしくお願いします。

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