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ライラック  作者: 三角四角
第1章  入学初月編
15/28

第14話・・・協定再締結/VSバラン・・・

 今回はエクレアが怒ります。はい。

『VSバラン』ということは、来るわけですね、あいつが。

 学校近くのファミレス。

 哉瓦、エクレア、ムースはそこで神妙な様子でいた。

 店内は多数の人々が賑わって騒々しいが、ムースが〝結界法サークル・メソッド〟を用い、音を遮断している。

 そんな中、エクレアは目の前で静かに、まるで(もう友達ではいられないんだろうな)などと考えていそうな愚か者に向かって、力強い声音で告げた。

「哉瓦、顔を上げなさい」

「っ」

 顔を下げていたわけではない。ただ、目線を斜め下に向けていただけだ。だがそれをエクレアは良しとせず、目と目を合わさせた。

「まず言っておくけど、私達は生徒会との協定を保留にさせてもらったわ」

 エクレアの一言に、哉瓦は目を見開いた。

 てっきりあの後協定を結んだものだと思っていたのだ。

「そんな……どうして…」

「黙りなさい。今はそんなことどうだっていいの。ただ今日中にイエスかノーか返事をしなくちゃいけないわ」

「迷うことなんてないだろ。生徒会の人は頼りになるじゃないか」

「だけど貴方は組まなかったじゃない」

「いや、それは…だって…」

 途端に口籠る哉瓦。

「ねえ、哉瓦は自分と生徒会、どっちが強いと思ってるの?」

「………」

「そういうところは譲らないのね。………つまり、哉瓦より弱い私は同じように弱い生徒会の人と組めってこと?」

 皮肉を込めた文章を聞いて哉瓦は下唇を噛んだ。

「違う! そこまでは言ってないだろっ。組めないより組んだ方が良い。もう俺は組めないけど、エクレア達なら組めるって言ってるんだ」

「それで貴方は私達を避けながら一人で戦う、と」

 エクレアの返しに威勢の良かった哉瓦の身体が揺れた。

「べ。別に避けては…」

「避けてるでしょ、どう見ても」

「それとこれとは話しがべ……」

「哉瓦」

 エクレアは言葉の途中でぶった切って哉瓦の名を呼んだ。

 そのまま。

「聞かせて欲しいのだけれど、私達に素性を偽っていたこと、どう思ってるの?」

 エクレアの刺々しい視線と口調に、哉瓦は微かにビクつくも、目を逸らさず、学年主席という肩書きに見合った光を放つ瞳で正直に応えた。

「悪いと思ってる。許してくれなんて無責任なことは言わない。でも、悪人でないということだけは分かって……」


「バカ」


「……へ」

 哉瓦の真剣な台詞を、エクレアはまたも全て聞くことなく途中で一蹴した。

 光彩がほとんど消えたエクレアの瞳が、哉瓦を射貫く。

「哉瓦、私がなんで貴方を侮辱したか、その理由が分かってる?」

「えっと……俺のことを悪人でないという証拠がないのに信じるのは無理ってこ……」


「バカ」


「…っ」

(まあ、これはそうも言いたくなるわよね)

 心中でぼそりと呟き、笑うムース。

 エクレアは怒涛の勢いで告げた。

「アンタ、言ったわよね? 後ろめたいことはないって。悪人じゃないって。だったらそれでいいじゃない。もっと堂々としなさいよ。隠し事の一つや二つがなに? あんたは私やムースや柊くんがその程度のことで友達やめるような人だと思ってたの? それこそ今までの関係が友達だったかそうか怪しくなるわ。たかだか一週間ちょっとの付き合いだけど、そんな薄っぺらさを感じさせない関係だと思ってたのは私達だけ? あんたは違かったの? ………答えなさい。哉瓦はもう私達と友達やめたいの?」

 珍しく気圧される哉瓦は、固唾を呑みながらも芯を太く保ち、真摯な視線で。


「やめたくないに決まってる。でも……」


「でもじゃなない!」


 そこで怒りが頂点に達した。

 身を乗り出し、哉瓦の胸倉を掴み、思いっ切り引いて、顔と顔の距離を詰める。

 いつものエクレアなら恥ずかしさのあまり赤面しそうな距離間だが、今のエクレアは怒りのあまり赤面している。

 ムースは慌てて結界の効力を強め、外部から見た結界内の視覚情報を特有の方法で誤魔化した。

 エクレアは哉瓦を睨みつけ、怒号を放った。


「あんたさっき言ったわよね! 『許してくれなんて言わない』って! 別に怒ってないけど! そっちが勝手に思ってるならそれでもいいけど! それで終わらせようとなんてするんじゃないわよ! 友達やめたくないんでしょ!? だったら許しを請いなさいよ! 別に怒ってないけど! そっちが勝手にそう思ってるなら許してもらうよう努力しなさいよ! 哉瓦ってなんでこういう時だけバカなの!? 学年主席が聞いて呆れるわ! 別に怒ってないけど! 許して欲しいなら許してもらうと努力するところから始めなさい! 簡単に諦めるな! バカ! こういうとこだけ卑屈だから怒りが湧くのよ! バカ!」

 きょとんと、哉瓦の目が丸くなる。

 予想外の驚愕と、正論過ぎる力説に対する納得で、心が溢れ返って洗われる気分になった。

 気にすることなんてない。

 ここまでして怒ってくれる友達を、簡単に手放そうとしていた自分を笑いたくなった。


(俺が勝手に決めつけてただけなのか……)


 哉瓦がふっと笑みを溢した瞬間、ガバっと、哉瓦がエクレアに抱き着いた。

「え!?」

「あら」

 エクレアの顔が今度こそ恥ずかしさのあまり赤面する。

 ムースがおやおやとジト目で見流す中、哉瓦はエクレアの耳元で呟いた。

「ありがとう、エクレア。ごめんね」

 エクレアのホールドと解き、目前の女子二人を交互に見詰め、イケメンフェイスで無邪気に笑んだ。

「もう大丈夫だから」

 名残惜しそうに赤面するエクレアは顔を引き締め、服装を整えて「ふん」と強がり気味に言い捨てた。

「明日、柊くんにもちゃんと謝りなさいよ……ていうか彼にこそちゃんと謝りなさい。一番の被害者なんだから」

「わ、分かってる」

 申し訳無さ気に顔を引き攣らせて哉瓦が首を縦に振る。


 ムースは〝結界法サークル・メソッド〟を解き、頬杖を付いた。

「なんか呆気無く終わっちゃったわね」

「ちょっとムース、一応これから今後の方針について話そうと思ってるんだけど……。あの程度で疲れたわけじゃないでしょう?」

 ただ哉瓦を説得するだけなら蕨も呼んでいた。呼ばなかった理由はこれから話し合う話題にある。

 ムースは首の横に手を当てながら。

「ちょっとは休憩しようよ。二人の言い争い……ていうか一方的な激昂聞いてるだけでこっちは疲れたっての」

 うっ、と数十秒前まで上半身の上部を密着させていた男女がたじろぐ。

 大人しくなった二人はメニュー表を読み漁った。

 ムースは軽いストレッチで凝りをほぐし、眼下のジュースを取ろうと手を伸ばして…………

「あ」

 つい取り損ねてしまい、右手と少し袖にメロンソーダが掛かってしまった。

 エクレアが咄嗟に〝水〟でカバーしてくれたおかげでそれ以上広がることはなかった。

「ほら、〝水〟で拭きなさい」

 エクレアの〝水〟。

 もちろん嫌というわけではないが、ムースは悪戯っぽい笑みを口元にだけ一瞬出すと、そのまま立ち上がった。

「いいよ、化粧室で洗ってくる。二人は何か頼んでおいて」

「えっ」

 驚くエクレアと瞬きするだけで何も言わない哉瓦にベタベタな手を振ってムースは化粧室に向かった。

(ムース………っっ)

 頬を膨らまし、ムースの背中を忌々し気に見詰めるエクレア。

(いきなり二人っきりは辛いって……っ)

 前を向き直ると、そこには「ムース大丈夫なのか?」とさっきのことなど無かったように話し掛けてくる哉瓦がいた。

 エクレアはほとほと溜息を吐いた。


 ※ ※ ※


「バラン、一人離れた。ターゲットじゃないけど」

『りょーかい』


 ◆ ◆ ◆


 

 ムースはファミレスのトイレで手を洗いながら、鏡に映る自分を見詰めた。

「はあ、エクー、これからちゃんと進展するかなー」

 一国の王家とはいえエクレアは第三皇女。

 相手が誰でも良いというわけではないが、比較的自由な部類だ。

 哉瓦は素性こそ不確かだが、善人ではあるらしい。

 今のところ全然脈無しな上にエクレアも陥落したとは言い難い。

「この一件が終わったら蕨の力でも借りて二人を本格的にくっつけるかね」

 さて、とそろそろ戻ろうと蛇口を絞めた、その時。


 どこからか、覚えのある殺意の混じったエナジーを感じた。


 ムースは咄嗟に振り向き、鏡に背を向けて探知法サーチ・メソッドを全開にした。

(……結界法サークル・メソッド、結界が張られてる。エク達もこれじゃしばらくは気付けない。……にしても、どこよ? 結界の所為かエナジーは感じるのに、場所が分からない……)

 集中力を高め、感活法シャープ・メソッドオーラルも平行して発動するが、見付けられない。

 だが突如として、そのエナジーが膨張し、居場所が分かった。

(そっちか!)

 ムースは顔を後ろに向け、鏡に向かって一睨みした直後、横へ跳んだ。

 コンマ一秒後には手洗い場が壁ごと崩れ、その奥から膨大な炎が、ムースの元いた場所を通過した。


「ありゃ、気付かれないように溜めたんだが、〝火〟を放つ直前の一瞬のエナジーに反応できたんだ。やるじゃん」


 瓦礫と化した女子トイレの壁。

 そこから見える外は路地裏で、人目は無い。

 結界法サークル・メソッドのおかげで被害は女子トイレ内に収まり、同時に逃げ場がないとこを意味していた。

 ムースは距離にして五メートル程離れた瓦礫の上を乱雑な足取りで歩く男を見据えると、溜息が出た。

「確か、バランって言ったっけ?」

「せェかい」

 大剣を肩に担ぎ、獰猛な笑みを浮かべるバラン。

「ムース=リア=グランチェロ、だな?」

「ええ、いかにも」

「一応、最初にこれだけは聞いとけって言われてるから、聞くが」

 バランは大剣を構え、今にも殺しそうなピリピリする気配を放ちながら、それとは不相応なことを聞いた。

「命だけは助けてやるから、大人しく投降しろ」

「無理」


「だよな!」


 バランはたった五メートルの距離を加速法アクセル・メソッドで詰め、火で覆われた大剣を横振りする。壁を抉りながらも勢いは増しているようにも見えるその強大さを前にしても、ムースは慌ても怯えも見せず、いつものなら滅多に見せない真剣と殺気に染まった瞳で、『自分の武器』を取り出した。


 それは『ビー玉』だった。


 子供のおもちゃの代表格の一つであり、綺麗な色をしたビー玉を四個、瞬時に取り出し、炎の大剣が迫る左側の軌道上に散布する。


 そして、そのビー玉を〝炸裂〟させた。


「!?」

〝炸裂〟と共に〝雷〟が爆ぜ、意図せず目を瞑るバラン。すぐに目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 炎の大剣をムースは左片手で受け止めていたのだ。

(こいつ……ッ! ビー玉を炸裂させてスピードとパワーの威力を弱め、防硬法ハード・メソッドを左手に集中させて俺の剣を片手で受け止めやがった!)

「〝炸裂系雷属性〟のビー玉使い。聞いてはいたが、ここまでやるたァ驚きだぜ」

「無駄口叩いてる場合?」

 穏やかに笑い、空いた右手で五個のビー玉を掌底の要領でバランの腹になすり付け、〝炸裂〟させた。

 バランは必死の顔付きで加速法アクセル・メソッドを使用し、瞬時に後ずさった。


 ある程度の距離を置いてバランとムースが向かい合う。

「けっ、皇女のお付きだけあってまあまあ強いみたいだな」

「私、褒められてるの? 全然嬉しくないんだけど」

 ムースは憎まれ口を言い捨てながら、計30個のビー玉を己の周囲に拡散した。

 そのビー玉は風船のように浮き、ムースを守護するように待っている。

「それだけの数を操作法オペレート・メソッドで操るとはな。………それに、さっきからビー玉取り出してる法技スキル、〝暗器法ハインド・メソッド〟だな?」

「まあね」


暗器法ハインド・メソッド〟。

 結界法サークル・メソッドに並ぶ上級法技スキルの一つ。

 服やズボンの裏側にエナジーをポケットのように張り、そこに己の武器を収納。そして圧縮することで収納量を倍増させる。また、武器は小型武器であればあるほど効率が良く、ムースのビー玉は最適ともいえる。


「ったく、イレギュラーな武器でよくやるなァ」

「どうも」

 ムースは周囲の30個のビー玉の他に、両手の指の間に幾つものビー玉を出現させる。どこぞのマジシャンがこれからショーでも行うような印象を受けた。

(この結界を張ってるのはこのバランとかいうおっさんじゃない。……おそらく店内にこいつの仲間がいる。つまり私を捕えて人質にしようって魂胆ね。そうなるとエク達は無事。………私がここで勝てば、問題ない)


「なんにしても長期戦は避けるべきだし、行くわよ。本気で」


 ムースが手腕を翳すように突き出した瞬間、30個のビー玉群が一斉に動きを始めた。

 ムースの凄さ伝わりましたでしょうか?

 ビー玉、綺麗ですよね。ついつい目が引かれてしまいます。

 次回も引き続きムースの戦闘を繰り広げさせて頂きます。

『VSバラン』。ムースが戦うって予想できましたか? だますような真似してすみません。

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