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ライラック  作者: 三角四角
第1章  入学初月編
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第11話・・・退出/疑問・・・

 およそ十分間の来仙寺風華からの説明は、蕨、哉瓦が事件直後に聞いた内容とほぼ同じだった。

 エクレア、ムースは内容を理解して、驚愕と納得の表情を浮かべている。

 蕨も、知らないと思われているので、内容に付いていけない体を装う。度々及吾が冷たい視線を送ってくるのが居心地悪い。

 

 説明が終わり、風華が哉瓦を見詰める。

「龍堂くんは既に知ってたみたいだね」

「はい。情報源は言えませんが」

 哉瓦に及吾の睨みが突き刺さる。そんな及吾を隣りの涼一が呆れた横目で眺めている。

 この二人は仲が悪そうだが、生徒会がそれでいいのだろうか?

 風華は気を害した様子もなく、哉瓦に問う。

「確認だけど、敵の狙いは龍堂くんとディアーゼスさんで間違いないのよね?」

「はい。自分達二人で全員かどうかは定かではありませんが、ターゲットの二人であることは確かです」

 エクレア、ムースが同意するように頷く。

 風華は了解するように頷き。

「ここからが本題なのだけど……」

 風華が口籠り、蕨に罪悪感の含まれた視線を向ける。

(あーこれ、俺が出て行かなきゃいけない系だわ)

 蕨が自分から部屋を出ようとした矢先、


「柊蕨、お前はもう出ていけ。邪魔だ」


 ド直球で及吾が告げた。

 哉瓦達三人は驚き、同時に及吾に対して鋭い視線をぶつける。

「秋宮! その言い方は何だ!」

 副会長の結月が怒鳴る。他の生徒会側メンバーも及吾の言い方は酷いと思ったらしく、それぞれ結月の態度に便乗する仕草を取っている。

 及吾は痛くも痒くもないようで。

「言い方を考えたって仕方がないでしょう。結局同じことを言うのですから」

「秋宮先輩……それが後輩に対する先輩の態度ですか?」

 怒りを押し殺した我慢の伝わる声音で、哉瓦が及吾に問う。

「お前が何かを言ったところで何も変わらないのは分かっているだろう。後輩の分際で先輩に綺麗事を押し付けるな。……柊、この際だからお前に一つ言って置く。強者に囲まれ、黒魏から好評を得たからと言って慢心するな。所詮はまだ入学仕立ての一年生。先の襲撃の際、直感で行動して少し役に立ったからと言って、調子に乗っていると、痛い目を見るぞ。結局自分が人質になったんだからな。自分が弱者だということを肝に銘じろ」

 及吾は睨みを強め、

「最低限の事情説明はしてやった。それで充分だろ。…分かったら出ていけ」

「及吾くんっ」

 風華が咎めるように語気を強めに及吾の名を呼ぶ。次いで蕨に謝罪するように視線を向けた。

「ごめんなさい、柊くん。ここから先は危険なことに巻き込むことになるから、貴方はここで退出した方がいいわ。……本当にごめんなさい」

 蕨以外の全員が同じ意見らしく、何も言わない。哉瓦達三人は、目を伏せてこれから自首するような人間のようになっている。

 当の蕨は、きょとんとした顔で、こんな空気にしてしまい申し訳ないなーと思いつつ、

「ああ、はい。分かりました。……それでは、失礼しました」

 そのきょとんとした顔を、他のみんなは強がりだと思ったのか、完全の生徒会室の空気は悪くなっている。

 蕨は頭を下げ、生徒会室の一歩外へ出て、丁寧に扉を閉めようとして、生徒会室全体を一瞬見渡した。

 こんな空気でこの後大丈夫なのかと思ったが、生徒会側メンバーの様子を見るに、この手のことは慣れているような雰囲気がある。

(まあ切り替えできなきゃトップは務まらんよな)

 そして蕨は扉を閉めた。


 蕨は廊下を歩きながら、ポケットに入れていたポッキーを食べている。昼飯を手早く済ませた所為で腹が満たされたわけではないのだ。

 チョコの糖分で脳が癒されるのを感じ、先程の生徒会室での事を思い浮かべながら思った。

(秋宮先輩、『一つだけ』とか言っといて、沢山言ってたなぁ)

 

 ◆ ◆ ◆



「協定、ですか」

「ええ、どうかしら?」

 生徒会からの本題は予想通り結託であった。

 蕨が退出した後、生徒会側メンバーも哉瓦達も頭を切り替え、話し合いを再開した。

「私達としても当校の生徒が狙われている状況を看過するわけにはいかないわ。今回の敵は実質『鬼人組』。舐めて掛かったら只では済まないわ」


『鬼人組』。

 公の場に屋敷を構えていながら『御八家』すらまともに手を出すことができないヤクザ。

 麻薬、裏カジノ、高利貸し、密貿易、殺人、数多の犯罪に手を染め、証拠を一切残さない。国家の重鎮と裏で繋がっているのではとさえ言われている。

 警察があと一歩のところまで追い詰めた重要人物がその直前で死亡することは毎度の事で、この世の未解決事件の三分の一に『鬼人組』が関係していると警察や『御八家』は考えている。

 傘下組織は数知れず、『裏』組織以外にも一流企業などの『表』に身を置くただの会社も確実に何社かは『鬼人組』傘下にある。

 日本に深く根を張り、『鬼人組』は年々肥大していき、組織と『力』の大きさは『御八家』にも匹敵してしまうかもしれない。


「『鬼人組』その物を相手にするつもりはないわ。私も来仙寺家の人員をフル活用できるわけではないしね。でも力になれることは保証するわ」

 黒魏がそこで哉瓦達が抱いているであろう小さな疑問を払拭する発言をした。

「ちなみに生徒会でもない俺が風紀委員長を差し置いてこの場にいるのは『御八家』だからということもあるが、そもそもの決まり事で、もし生徒に危害が加わるような事件起きた場合、それが校外のことであれば生徒会が事に当たり、他の委員会や部活から人員を何人か派遣することになっているんだ。俺は風紀委員から派遣され、派遣メンバーの代表を務めている。と言っても、4、5人程度だがな。生徒会が事案の当たっている間は風紀委員が学園を取り締まってる」

「そうでしたか。ではその席は外部役員の為の席ということですか?」

「ああ、そうだ」

 そこで風華が思い出したように声を発した。

「ちなみに咲音ちゃんの隣りの席は生徒会監査の小倉おぐら香林かりんちゃんっていう三年生の席なの。今はわけ合って席を外してるけど、気にしないで」

「なるほど。では小倉先輩含める六人が生徒会メンバーということですか」

「ええ。……それで、どう? 考える時間が欲しいなら保留でもいいけど、できれば今日中に応えを欲しいわ」

「その前に、幾つか質問してもよろしいでしょうか?」

 昨日、三人は前以て話し合い、協定を結んだ。誰がリーダーなどと決めたわけでは無いが、仮に生徒会から協力を求められた時、三人を代表として哉瓦が話し合うと決めていた。

 まず哉瓦が話し、エクレアやムースが独自に気になる点があれば口を挟むと。

 風華は表情を変えずに。

「ええ、どうぞ。何でも聞いて」

「協定を結んだ場合、自分達の役割はどのようなものになるのでしょう? ターゲットである自分やエクレアは囮となるのでしょうか?」

 疑問点としては鋭い。協定を結ぶものの、ただの道具扱いされて納得するわけがない。

 協定を結ぶこと自体は賛成だが、それは中身次第だ。

 応えたのは結月だった。

「もちろん役割としてはそれが当てはまるが、敵を呼び出したら安全な場所へ移って戦うな、などと言うつもりはない。無論、君達がそれを望むならそれでも構わないが、プライドの高い君達に限ってそんなことはないだろうから、戦いには参加してもらうさ」

 続いて黒魏が。

「まあ、こちらの指示には従ってもらうことになるが、それは勘弁してくれ。上は一つの方が良いんだ」

「分かっています」

 それについては賛成だ。

 異論を唱えるつもりはない。

「作戦概要はどのようになっているのでしょう? 囮ということは四六時中護衛がついているとか? 既に警察にも護衛……と言いますか、見張られているのでそれは勘弁して欲しいのですが」

 ターゲットが判明している。警察がそれで動かないわけがない。

 土曜日、襲撃の後、警察は哉瓦とエクレアにしばらく学校を休むようお願いしたが、即却下した。本人の意志に背くことは警察としては本意ではない。それにこれからも敵が襲ってくるとも限らない。

 なので、何人かを見張りにつけることで手を打った。

 今も学園の敷地内までは入ってこないが、その外から哉瓦とエクレアを交替で見張っている。

 作戦説明は黒魏が語った。

「今の段階じゃ警察と連携を組むことは難しいが、警察とすることはほぼ変わらない。まあ休日はできる限り外出してもらって、敵をおびき出すとかそんな感じだ。おびき出す場所もこちらで罠を仕掛けた特殊地帯を用意してある。他にも色々と、及吾や涼一が考えてくれてる。二人は参謀みたいなものだからな」

 反応のない及吾、涼一。この仲の悪そうな二人が……と、つい思ってしまう。

 哉瓦は「分かりました」と頷き。

「主な質問は以上です」

「そう。それなら……」

「風華」

 協定締結目前で、結月の高い声が遮った。

 結月はそれ以上何も言わず、風華を見詰める。及吾も鋭利な視線を風華に向け、黒魏も鋭くはないが(大事なことを忘れてるぞ)と言いた気な尖った部分がある。涼一は無表情で、咲音は困惑顔で、流れに身を任せている。

(できれば関係が揺らぐようなことは言いたくないのだけど……)

 風華は妥協を隠さない溜息を小さく吐き、哉瓦に向き直った。

「龍堂くん。協定を申し出ておいて失礼なのだけど、私達からも一つ、聞いておきたいことがあるの」

 生徒会側の重くなった空気が伝染して哉瓦達の空気も薄くなったように苦しいものとなった。

「なんでしょう?」

 堂々と姿勢の正しい哉瓦に、風華は覚悟を決めた視線を突き付けて、尋ねた。


「龍堂くん。貴方の個人データを調べさせてもらったのだけど……綺麗に偽装されているわよね?」

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