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Réglage 【レグラージュ】  作者: じゅん
ザイラー『マエストロ』
315/322

315話

「……」


 あの。無責任でどうしようもなくて。人に迷惑ばかりかけ続ける。それでいて。最高の音を生み出してしまう。あの。最低な男。そんな人物をサロメは確信している。


 心に引っかかる。心臓の鼓動が速くなる。心から嫌悪する『あいつ』。でも。認めたくはないけど。音だけは、あたしにとって最高のもの。だから。間違えない。


 電話でアトリエに確認に行ったハイディが戻ってくる。


「サロメさん、ダメだそうです。そういうのは認められない。あと、終わったら直帰しないでアトリエに寄るように、とのことです」


 社長の言葉をそのまま伝えただけだが、緊張する。別に怒られているわけでもないけど。なにか、今まで動かなかった機械人形がいきなり動き出した、みたいな。そんな厳かでピリピリした雰囲気を感じるから。


 ジロッ、と厳しい目を向けるサロメ。だがこの子は関係ない。むしろ、この子のおかげで見つかったのだから。


「わかった。ありがと」


 心の中で謝罪。口に出せばいいけど、寸前でその言葉を殺してしまった。そうしたらなんか。言い出せなくて。


 重苦しい空気。ハイディはそれを変えようとピアノについて問う。


「それで、このザイラーというのはどういうピアノなんですか?」


 正直、聞いたことはなかったメーカー。もしかしたらここに来なかったら、一生出会わなかったかもしれない。なのでちょっと嬉しさもあったり。


 あー、と気の抜けたサロメは他人にバトンを託す。


「さぁ? それはピアニストに聞いてみたほうがいいんじゃない?」


 ピアニスト、とはもちろんカルメン。出番か、とばかりにささっとイスに座って準備開始。このために来た。


「なんでもいっか。弾くよ。リクエストは? お兄さん?」


「え? 俺? いいの?」


 まさか自分に話がまわってくるとは思わなかったため、店員は驚きを隠せない。混ざっていいの? 話に。

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