289話
が、なんだかその精神性。自分の同い年の頃と比べても、サロメには異質に映る。
「あんた本当に初等部? 趣味がオッサンなのよ。移動に楽しみなんかないわよ。どこでもドアが開発されたらいくら払ってでも買うわ」
青い猫がポケットから出すやつ。そうすれば授業の始まる一分前まで寝ていられる。買い物も手間なく終えられる。宇宙とか目指さないで、こっちの研究をやってくれないかしら、と本気で考える。無理? 作れたらいくらくらいする?
ある程度ハイディも同意見ではあるが、それはそれで味気ない世界になってしまいそうで。
「そこまでの景色の変化や食事を楽しむのがいいんじゃないですか。そう思いません?」
「だから思わないっての。さっさとピアノ選んで。さっさと帰るわよ。あーもう、なんであたしが子守りしなきゃなんないのよ」
寒い中動き回るのは好きじゃない。冬より夏派のサロメからすれば、現在悪条件が揃いも揃っている。故郷からアトリエに初めてやってきた時は夏だった。そう考えると、なんだか時間も距離もだいぶ離れたとしみじみ。するわけない。なる早で帰りたい。
自分の足取りもどこかステップ気味になっていることにハイディは気づいた。楽しい。かもしれない今の状況。
「それが調律師のお仕事です。そして選んでいただいたピアノを管理してレンタルするのが私の仕事。それを全うしているだけの話です」
なんだかんだでピアノに関わることは好き。いずれは継ぐスタジオ。それに今から携われること。大人になった時、そのピアノに触れて今日を思い出すかもしれない。それはとても素敵なこと。
なんだかウキウキなのはサロメにもわかる。自分のやる気と反比例している。の、前に確認。
「ところで、どんなピアノにするとかあんの? 目的とか」
スタジオには行ったこともないし場所も知らない。どういった人達が利用しているのかも。なにを基準に選ぶのか。購入するのであれば、大事な部分でもある。




