表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Réglage 【レグラージュ】  作者: じゅん
シンメル『グラスホワイト』
176/322

176話

 とはいえ、ひとつでも持っていれば充分に誇れる。お金を用意するだけでは手に入らない。譲ってもらうにしても、もとから富豪の人物が持っているわけで、金額では揺れない。


「いやはや。ここにあるのだけでも。ピアノに関わる仕事をしている人間であれば、興奮は冷めやらないですね」


 それ以外にも下のフロアには、その他珍しいアップライトピアノやレトロなキックカーなど、価値のありそうなものものが多数展示されていた。それをレダは思い出した。ついでに聞く。


「しかしなぜピアノのコレクターになろうと思ったんですか? 好きなクラシック曲がある、とかそう言ったところから?」


 例えばレトロなピアノを保持する人の中には、好きな作曲家のその時代のピアノ、という同じ条件で弾きたがる場合がある。そこからしか見えないもの、聴こえないものがあるという信念で収集する。だが、リュカは弾くわけではないし、知識があるわけでもない。


 その理由を、少し間を置いてからリュカが口にし始める。


「そうではないんだけどね。学生時代にソフトが当たった、と言ったでしょ? 実はね、俺以外に中心となったヤツがいたんだよ。そいつがクラシックが好きだった、ってところだね」


 そして目線は窓の外へ。遠い目で見つめる。


 なんとなく事情は察した。が、ここまできたらレダは探りを入れてみる。


「……今はその方は」


 聞きにくいことだとは思うが。その遠慮をリュカも感じ取り、むしろ笑みを浮かべて返す。


「……もういない。ヤツの希望でペール・ラシェーズに眠っている。ショパンと同じ墓地がいいんだとさ」


 その方角。今も魂だけでもあるのだろうか。それはわからない。


「……そう、だったのですか」


 つい先日、ブランシュも訪れていた場所。なんとなく、感慨深い。ヨーロッパでは一一月の万聖節は、墓地にカラフルな菊を供える風習がある。そのため、パリにある三大墓地に眠る著名人などの墓は、たくさんの観光客が集う。


「まぁ、そいつのためってわけでもないけど。俺もクラシックは聴くのは好きだし。だからこうして定期的に仲間を呼んでピアノを楽しんでいるわけ」


 時にはパーティー会場のようにもなるこのフロア。そのためのバー。そのためのピアノ。こだわりを詰め込んだリュカとしては、最大限に楽しんでいる。


 とはいえ、ピアノは百年はもつもの。もっと弾き込んだほうが音も良くなる。調律師としてレダがアドバイスを送る。


「なるほど。まぁ、ピアノに携わるものとしては、インテリアとしてよりも弾いたほうが長持ちしますから、オススメしたいですね。使い続けることで、音質が変わっていきますし」


 どうしても音の硬さはなんともしがたい。これはこれで硬質な音を好む場合と作曲家の曲もあるが、無理やり柔らかくしすぎるとクリアさが失われてしまう。特にクリスタルはそこが長所。わざわざそれを打ち消す必要もない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ