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僕は僕の書いた小説を知らない  作者: Q7/喜友名トト


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2/14 僕は僕の書いた小説を知らない

2018/2/14


 駅前の広場で待ち合わせしたのは失敗だった。思ったよりも寒いぞ。ニュースで昨日言ってた予報外れてんじゃねぇか。


 俺はコートの襟をたて、風に歯向かう姿勢をとって駅前へと急いだ。こういう態勢というかポーズは好きだ。北風に吹かれながら誰かを待つっていうのは、タフガイだ。

 レザージャケットとブーツ、コート、ストール。この実にハードボイルドな服装が自然にでき、しかも凍えそうな冬は、俺の好きな背景である。


 だから失敗だったっていうのは俺のことじゃない。待ち合わせてる相手が先に来ていたら悪いな、って意味だ。


 待ち合わせ時間より五分早いが、相手はいつも俺よりも早く来ている。さて、今日はどうだろう。


「あ」


 見えた。もう着てんのかよ早いな。彼女は、翼さんは俺に気づいて大きく手を振っていた。


「おーい!」


 いや、わかるから。もう少し落ち着けよもう23歳なんだろ子どもか。

 そう思いつつも、天真爛漫な彼女が嬉しそうに迎えてくれて、俺もまあ、あれだ。


「早いな」

「うん。早いでしょ」


 白いコートを着た翼さんはくそ寒いわりには元気そうだった。よくみると童顔だし、年齢よりも幼く見える。


「よし。じゃあ、行こ」


 行く先を指さし、前を行く彼女。俺が人前で手をつないだり腕を組んだりするのが嫌いなことを、彼女は知っているようだ。


「メシの前に本屋な」

「やだな。わかってるよう」


 軽快な足取りの翼さんに一応言ってみると、ぶーぶー、と不満を垂れてきた。まあ、さすがにこれを忘れてたら衝撃だよな、うん。


 っていうか、あれが発売されるのも衝撃ではある。でも逆に誰もあれが実話をもとにしたフィクションだなんて思わないだろう。なにしろ医者も半信半疑だったくらいだし。


そういえば、増田先生は仮名で出てくるわけだけど、分かる人にはわかるかもしれないし、少ししたら騒ぎになるかもしれない。なにしろ俺は次回作で『悪魔を騙す者』のトリックをさらに発展させた物語をぶちかましてやるからだ。パクリ野郎には絶対に思いつけない、俺にしか作り出せないネタをな。今のうちに盗作の売り上げ伸ばしとけよ、踏み台にしてやる。


「遅いよー」


 翼さんの声。いかんいかん。違うこと考えてたわ。


「はいはい」


 俺は少し歩を速めて翼さんの横に並び、少し歩を緩めて並んで歩きだした。体の左側が、ほのかに暖かくなった気がする。


「本買ったあと、なに食う?」

「んー。お鍋!」

「俺、最近鍋ばっか食ってて飽きた。それはパス」

「じゃあすき焼き?」

「すき焼きは鍋じゃねぇとでもいうのか」


 益体もないことを口にしながら、冬の街を行く。それは当たり前の情景で、よくある関係性の二人だ。俺にこういうことが訪れるとは思っていなかったが、まあ生きているといろいろある。


「そいえばさ。結局、タイトルってなににしたの?」


 ふと、翼さんは俺を見上げて聞いてきた。くしゃっとした笑顔を浮かべていて、もしかして俺より喜んでないかコイツ、って気がする。俺はあの小説、流石にちょっと恥ずかしかったりもするんだけど、この人は違うんだろうか。や、原文ママのとことか弄ると赤くなるから、少しは照れてんだろうなやっぱ。


それはそうとタイトルについては、ギリギリまで考えていたこともあって伝えていなかったことを思い出す。ここまで来たら言わずに本屋で表紙を見てもらってもいいけど、どうしようかな。



 俺は新作とそのタイトルを思い浮かべてみた。


昨日を失った男が、あがいた軌跡。

明日を求めた男に、起こった奇跡。

 

 そんな物語。


「あー、そうだな、タイトルは」

「うんうん」


子どもみたいな目で見つめてくる彼女に、俺はちょっとだけもったいぶってから答えた。


「僕は僕の書いた小説を知らない」
















――さて、俺の新作を最後まで読んでくれた貴方。

どうかな、少しは痺れてくれたかい?――


おしまい。


少しくらいは痺れたぜ、と思って頂けましたら、『ブックマーク』や画面下部にあります『評価』を頂けると励みとなります。感想もありがたいのです。


9/13に発売になる書籍版は色々改稿してるので、よければそっちも読んでやってください。


よろしくお願いしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] 痺れました。 なろうの隠れた名作というサイトの紹介で知ったのですが、本当に読んで良かったです。とても面白かったです‼
[良い点] 上手く言葉にできないけれど、とても面白かった。
[良い点] 感想をかくのは久々です。 言葉に出来ないほど素晴らしかった! 文庫になるならいつも持っていたいくらい。 ありがとう!
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