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僕は僕の書いた小説を知らない  作者: Q7/喜友名トト


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10/22 強くなんてなかった

10/22 日曜日 PM4:33


 引継ぎ、を読み終えた。読み終えたら、やることがなかった。


 俺は、いつから替えてないのかわからないシーツを引いたベッドで、ただ横になっている。


 自分が置かれている状況は理解した。だけどそれだからこそ何もしたくない。


 こんなの、ただ絶望してるしかない。引継ぎの最後の一行を読んでもそれがわかる。


 小説を書き上げたらしいが、出版されることはないらしいし、プロットを読み込む意味ももう、ない。


というか、何をやってもどうせ明日には忘れているのだし、何かする意味があるだろうか。


作家としてはもう終わりだろう。引継ぎには傑作だとか書いてあるけど怪しいもんだ。こんな状態でまともな小説が書けるわけがないし、一作書くのに二年もかかっているようではどのみちプロとしてやっていけるわけがない。案の定、必死こいてやってきたわりに、トラブルで本は出せないわけだし。


「腹、減ったな……」

 

 どんなときでも腹は減る。俺は冷凍庫を開けて保存してあったバーガーを取り出した。残りは二個。レンジで温めて口に放り込む。もちろんたいして旨くはない。


 これを食いつくしたらどうすんだろう。多分、適当に外に出て、コンビニでなにか買って、食べて、寝て。それを忘れてずっと同じことを繰り返すんだろう。そう、破綻するまで。


 今の俺は、ただ酸素を二酸化炭素に変えるだけの、食い物をうんこに変えるだけの存在だ。


 ある日奇跡的にこの症状が治ったりすることがあればいいな、と思う。

 そういえば、俺のこの状態って、なんらかの保障は受けられないんだろうか。


 俺はどうして一人で作家業を続ける、なんて選択肢を選んだんだろうか。バカじゃねぇのか、どんだけカッコつけなんだよ。そんなこと出来るわけがねぇだろ。


 日向には迷惑をかけたくない。でもきっと、かけてしまうだろう。

 修に置いて行かれたくない。でもきっと、追いつけないほど遠くに行ってしまう。


 本当は、なにかをしないといけないのはわかってる。たとえば、役所や病院に行って、保護を受けるとか。それがスムーズにいくかどうかはわからないけど、それでもそれにむけて動くべきなんだろう。あるいは、この半分死人みたいな状態を脱するためにはもう一つの選択肢もある。『半分』じゃなくなってしまえばいい。


 でも、なにもしたくない。少なくとも今日だけは、今日だけでいいからなにもしたくない。まだ大丈夫だ。11月くらいまでこうしていてもいいだろ。まだ数年くらいはなんとか生きていける。まだいい。そうだ。

 

忘れたい。そう思って、棚からジャック・ダニエルのボトルを取り出した、グラスにストレートで注ぎ、飲み干す。焼けつくような熱さが喉を伝わり、腹にたまり、頭がふらつく。


はは。忘れたい。だって? 笑わせるぜ。そんなことしなくてもどうせ覚えてられねぇんだろ?

 二杯目のジャック・ダニエルを飲む。おかしいな。バナナを思わせる香りも、まろやかな口当たりも、感じない。でも、それを不満に思わない。


「……ああ、そうか」


 ぽつりと口に出す。今俺は酒を楽しんでるわけじゃなくて、ただアルコールを摂取したいだけなのか。


「……最低だ」


大体想像はつくんだよな。

きっと、俺のことだから、カッコつけて、タフな自分でいたくて、痛々しい感じで頑張ってたんだと思う。他人に見せたら恥ずかしいくらい気障な言葉で引継ぎを書いて、そんな自分に軽く陶酔して。成し遂げるつもりだったんだ。


でも違った。俺は、強くなんかなかった。


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