第九十二話 マオ、「それで突撃すれば一網打尽です!」という
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レインさんが西に出現するアンデット軍団に向かった後、ボクたちとユウキたちのメンバーは何処に向かうのかを話し合っていました。
「北がゴーレム系、南が亜人系、東が魔獣系か……」
「ゴーレム系は硬いから回避しない?」
「ゴーレム系のモンスターだと、鉱物関係のドロップが多くなるんですよね?
装備を整えると考えれば、お得ではないでしょうか?」
──のですが、現時点で話に参加しているのはボクとユウキとサキの3人だけで、残りのメンバーは装備について話し合っています。
「たしかにそうだが、イベントでドロップするアイテムは大抵が限定仕様の装備の素材がメインなんだ」
「それで作れる装備が強いか? って聞かれたら、ちょっと微妙なのよね……」
「──スキル効果に"価値あり"というわけですか?」
「基本的にはその通りなんだが、このゲームに関しては一概に言い切れない気がするんだよな……」
ユウキの口調からは"ゲーマー的"な勘からきているようです。
限定装備というものが気になりますが──
ボクが作っている装備の大半が専用装備なので、『欲しい』とは言い切れないところですね……
アナウンスで知らされた場所毎の出現モンスターについて話していると、戦ってきた経験上から『魔獣➡️亜人➡️ゴーレム』の順が戦い易いと考えました。
戦闘時間で判断するとそんな感じでしょう。
戦闘難易度でいうならゴーレムは"楽な部類"に入るのですけど、動きが遅いだけで与えられるダメージが微々たるモノで時間がかかるのですよね。
そんな諸々の事情と、自分たちの戦闘スタイルから、狩り場が重ならないように話し合います。
重なった場合、20~30%くらい効率が落ちそうです。
「──よし、俺たちは南側にむかう。マオはどうする?」
ユウキたちは亜人と戦うようです。
そうなるとボクたちは──
「東側が無難でしょうか……」
「聞いてなんだが、マオの場合は効率云々は関係ない気がするんだが??」
ボクの言葉に意識せず、酷い事を言うユウキ。
ちょっとばかり切なくなってきたので、あるアイテムをプレゼントする事にしました。
そのアイテムを見て「悪意を感じるんだが……」と言われた場合、目を逸らして「気のせいです」と言い切りしょう。
「そんな事を言うユウキには、これをプレゼントします」
ボクがポーチから取り出したのは、筒が連なって腹巻き状態のアイテムです。
威力も性能もそこそこあります。
「何だ、これは? ……まさか──」
それを見て何かを感じ取ったユウキ。
見たことがあっても不思議ではない、任侠映画の伝説的アイテムなのですから……
ニヤリと笑いながらその名を告げます。
「──ズバリ、【腹マイト】です」
特攻野郎がお腹に括り着けて目標に突撃する、己の命を賭けた漢アイテムです。
性能はこの通り"そこそこ"なのですけどね……
【腹マイト・烈 魔王式】
ヤ◯ザ映画の鉄砲玉が装備する、己の忠義を示すアイテム。
周囲を複数の敵に囲まれ困れた場合、起動すると3カウントで爆発する。
だが、安心して欲しい。
爆発したと言っても、自身がリスポーンする事はなく、瀕死状態になるだけである。
ただ、その対価として〈戦意暴走〉〈武器消耗速度加速〉〈防具半壊〉のバッドスキルが付いてくる。
爆発の範囲は装備者から5M。
爆風は10Mの範囲まで届き、確率で『状態異常:マヒ』を与える。
爆発後、HP1となるが10分間は無敵状態となり、さらに状態異常の無効化も付与される。
追伸:無敵状態異常中は回復魔法、補助魔法も無効化される。
フフ──唖然……と言ったところでしょうか。
口が開いたままの2人を横目に、気配を消してユウキの腹部に装着します。
──正直な感想、鎧との相性は最悪ですね!
巻き付けられた腹マイトに気付いたユウキが「ちょっ……何やってんの!?」と外そうとしましたが、そこは腐っても魔王印の品です。
ご丁寧に小さな、本当に小さな文字で『装着者以外、外すことができません』と書いてある当たり魔王級です。
そんな風に気を利かせるので、ゲームとは思えないくらいに芸が細かいと感心します。
ちなみに、本来は手動で点火する漢アイテムなのですが『遠隔操作』で爆発のカウントダウンを発動できる仕様を組み込んであります!
遠隔操作を行う『子機』をサキに渡し、注意事項を伝えます。
押したら最後、待っているのは爆発ですからね。
「よくこんな物騒なアイテムを作ったわね?」
化粧箱型のスイッチを見た感想です。
蓋を開けると『押すな危険!』のプレートが目立ちますね。
「戦うだけで精一杯の事態を想定していますから」
胸をはるボクを見るサキの顔には呆れが浮かんでいますが、その瞳には『押してみたい』という気持ちが宿っています。
それを敏感に感じ取ったユウキは『押すなよ! 押すんじゃないぞ!?』と言っていますが、それは『押せ』と言っている様なモノです。
そんな2人を尻目に、ポーチからあるモノを取り出します。
それは綺麗な網目の1cmくらいの幅がある編み紐、一時期はブームになった【ミサンガ】です。
ボクの作ったアイテムなので、願掛け程度の効果ではすまないですが……
【同調の編み紐】
同じ編み模様をした親ミサンガの効果を(強制的に)共有する呪い系のアイテム。
基本的に使い捨て。
バフもデバフも共有する為、使用する際は注意が必要。
効果時間は親ミサンガに設定された効果が発動している間に限定されるので、よく考えないと数秒でロストする可能性もある。
追記:現在は【腹マイト】の効果とリンク(設定変更:不可)
使い方によっては凶悪なアイテムになるのでしょうが、これ自体の作製難易度がすごく高いので、複製・量産は不可能と考えられます。
加えて、素材も稀少性が高いのが輪をかけて難易度を上げてますし……
「【魔王印】じゃないけど、壊れ性能っぽいわね?」
ボクの差し出したミサンガを見たサキはそう言いましたが、どちらかとい言うと3人に渡すミサンガの方が失敗作に近いので少々心苦しいです。
──完成品の詳細はまた後で。
「ユウキはこの"親"ミサンガを着けてください。
腹マイトの効果発動を引き金として、ミサンガの効果が発動しますので」
「それって、10分間とはいえ『無敵』で『状態異常無効』が共有されるって事だよな??
量産できたら!大儲けできないか??」
思った以上にミサンガの評価が高いのが辛いです。
「残念ながら、ジャングルの奥地に生息する【イエニ・カエッタ】という半レイド級モンスターのレアドロップが必要なので、量産は"ほぼ"不可能です。
今後、新規で出るモンスターの素材次第で変わってくるでしょうが、作製難易度が高い事は変わらないでしょうね……」
「あの"ジャングル"のか!?」
軽くどころか、後退るレベルで引くユウキ。
鬼畜仕様を通り越したジャングル産と考えると、効果とリスクが釣り合わないと思います。(あくまで"ユウキたち"に渡した分が……ですが)
「それに『使い捨てアイテム』なので、販売したとしても超高額商品になるのは分かっていますから」
「私……いえ、ユウキの全装備の購入金額と、ミサンガ1本の値段が一緒でも不思議じゃないわね」
ミサンガについて話し合っていると、今までミイたちと話していたリオが話に入ってきました。
「ねえねえ、ユウキには腹マイト(笑)をプレゼントしてるじゃない?
私も何かちょうだい?」
リオの言葉にサキも『何か寄越せオーラ』を纏いはじめた気がします。
──実験をしたいアイテムがありましたね(笑)
「──では、使い捨てになりますが、これはどうでしょう?」
実験品であることは伏せ、リオには『細いブレスレット』、サキには『片方だけのイヤリング』を差し出しました。
「マオが作ったにしては質素ね……」
受け取ったブレスレットを光に当て、飾りっけのない細い輪を見上げたリオはそう感想を述べました。
「……けど、効果は飛び抜けているわよ?」
サキはガラス玉が下がっているだけに見える、イヤリングの説明を見ながらそう言いました。
正直、実験の意味合いが大きいので、デザイン性は皆無に近いです。
──発動する効果には自信を持っていますが。
【最後の一撃リング】
キーワード【ファイナル】で効果を発動する、特殊ブレスレット。
効果は発動後に放つ一撃の威力を10倍にするという簡素なモノであるが、敵の全物理耐性を無視した一撃を加えられるので正に『ファイナルアタック』に相応しい。
発動後、一撃を加えると共に壊れるので使用には注意が必要。
装備外アイテムなので、装備枠を奪われずに装備できる。
【最後のイヤリング】
キーワード【エンド】により発動。
発動後の魔法威力を10倍に高め、敵の魔法防御・耐性を無視したダメージを与えられるので一撃で倒せる確率が高く、終わりを示すエンドを冠するに相応しい。
発動後、魔法を放つと共に壊れるので注意が必要。
装備外アイテムなので、装備枠を奪われずに装備できる。
内容を聞いたユウキが呆れた目で見てきますが、この様なアクセサリーを着けても似合わない気がします。
「マオ、欲しいとは言わないぞ? ────寄越せ!!」
「言い方の違いで、意味は同じですよね?」
左手をクイクイと動かしているので、腹マイトの起爆キーを書いた紙を乗せます。
『ヒャッハァァァァァ! 貴様らも道連れだ!!』
その文字を見たユウキは『ギギギ……』と音がしそうな動きでボクを見つめてきました。
理由は簡単、世紀末に出るモヒカンたちのセリフですから……
「…………………」
どうやら気にいらない様子なので、もう1つの紙を差し出しました。
『お前らも、もう死んでいる』
「──────────」
ユウキが何を言いたいのか、ボクには分かりません。
ただ、目が語りかけている気がします。
────恥ずかしいよ!! と。
サキやリオの目も『厨ニ過ぎない??』と言っている……気がしますね。
時間が凍りついた様に動かなくなった3人には、教える気がなかった"隠し要素"を話すしかないのでしょうか?
「ご安心ください。
その腹マイトですが、"1回っきり"の特別効果がオマケに付いています。
カウントが未発動の場合のみの効果ですが、廃人には嬉しい、その名も──『デスペナ回避』です!!」
ボクの言葉に『マジかよ!?』と確認している3人の背後に周り、ユウキの腹マイトに追加アイテムをセットします。
あって嬉しい【破壊力凶化キット】です。
このアイテムには、なっ……なんと『爆発の威力、範囲、被害を10倍にする』という頼もしい効果が付いてます!!
これを着ければ、どんなに多いモンスターの群れに囲まれても怖くありません!!
でも何か引っかかる部分があるようなので、背中を押して上げます。
「考えてはいけません」
特に深く考えずに、語感の良さそうな言葉を並べます。
「感じてください」
一瞬のタメを作り、次の言葉に重さを持たせます。
「その威力と──効果を──」
そして、ユウキたちの意識を引き込んだのを感じたら、言いたかった"あの"セリフを言います。
「それで突撃すれば、一網打尽です!!」
カラスが鳴いているかのような静寂の中、再起動を果たしたユウキが叫びました。
「良い風に言っても、神風特攻だろ!!!!」
当然でしょう?
ユウキと言えば『後先考えずに行動する』のが代名詞ですから。
まあ、コカ君もその仲間といえますが……
「問題ないですよ? 10分間は物理も魔法も効きませんので」
「効果が切れたら、デスっちゃうだろ!?」
何を言っているのでしょうか?
「その無敵時間で"殲滅"か"逃走"を図れば問題ないですよね?」
──ですので、心置きなく、周囲を巻き込んで爆発してください。
その言葉を飲み込み、ユウキの肩を叩きます。
「ユウキなら『使われる』と思うので、お渡しするのですよ……」
正直、作製者に使いこなせないアイテムは"ネタアイテム"扱いですからね。
文句を言おうとしたユウキですが、アナウンスが開始時刻が近付いている事を伝えてきました。
お互いに移動を開始しないと間に合いません。
後ろ髪を引かれる様に歩いていくユウキを見てボクは、
──頼もしい効果が付いているので、諦めてくださいね?
と、無言のエールを送りました。そろ~っと付けたアイテムには気付いていないようですね。
マオの作った【腹マイト】は、どんな成果を生み出すのでしょうか?
誤字・脱字がありましたら、ご報告をお願い致します。




