54話
「……ジェイド・カスターニュさんか。おい、ウチの有望なショコラティエールを引き抜こうとするな。そもそも違う職種だろ」
そこはたしかにロシュディも認めざるをえない。実はほぼ全て見ていたのだが、シュシェンで漬けたりレモンで作ったり、誰も想像していないことを平然とやってのける。そして極め付けはカルトナージュ。まさか見本のための新作とは。恐れ入る。
色んな意味で超新星なのは間違いないが、そこは男性もマナーを守る。
「引き抜きはしないよ。ただ、手伝ってほしいだけ。ウチの孫もやる気になったみたいだし、同年代だからきっと話も合うんじゃないかな、なんて。それに、気になるのは彼女だけじゃなくて、カルトナージュを作った子もだね」
老舗ショコラトリーに売り込みに来ている。だが、もしかしたら、こちらの子の方が自分には好都合かもしれない。自分の作品も、なにかしらこういった工夫を施して発売するのもアリ。むしろ楽しみだ。やはり、若い力は自分達の想像を遥かに超えてくる。
しょーもないことを考えているな、とロシュディは男性の考えを見抜いた。無言で笑っているときはロクでもない発想をしている。長年の経験でわかる。
「学生なんだから、あまり無理させるな、ギャスパー。というか、さっさとイスよこせ」
ギャスパーと呼ばれた男性は、嫌々ながらも立ち上がり、気に入っていたフカフカなイスを譲る。今日はもう帰ろう。収穫はあった。実がパンパンに詰まった果実。まだ青いが、ブドウのように、これからしっかりと育て上げなければ。ピースは集まりつつある。まだまだやりたいことばかり。
「まぁ、聞くだけ聞いといてよ。ジェイドさんと、このカルトナージュ作った子にさ」
ドアの前で立ち止まり、振り返る。
「音楽、興味ないかって」
それだけ伝えて、ギャスパーは呼ばれた理由も忘れて帰路についた。
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