38話
ジェイドは丁寧に解説する。ショコラは一日にして成らず、ということを知ってもらいたいところ。
「表面のワックスを落とすことと、苦味成分が抜けるからね。これをサボるともう美味しくない」
「なるほどねぇ」
リュドミラも相槌を打つ。そんな手間がかかってたのか、と目を丸くした。今後、オランジェットを食べる際は、心の中で感謝してからにしよう。
そのままジェイドは最後まで説明しきる。
「そしてスライスし、あとは五日間ほどシロップを継ぎ足しながら煮詰めて、冷やしてを繰り返す。そして一日かけて乾燥させた後、ショコラをかけて、一八度から二〇度くらいの常温で冷やしたものがこれ」
と、持ってきたオランジェットを手で示した。自分で説明してみて、最初にオレンジを煮てみようと思った人は、一体何を考えていたんだろう、という考えを抱いた。こういう型破りな発想が、自分にもできるようになれれば。
「とまぁ、ショコラティエールといっても、一切ショコラに触らずにオレンジを煮ることも仕事なのよ」
むしろ、オランジェットは最後にオレンジにディップするだけ。ほとんどの仕事は、オレンジを加工することといってもいい。
どうぞ、とジェイドは袋を開けて試食を勧める。結構評判はいいので、オランジェットは自信作だ。
最初にステファンが一枚、輪切りのオランジェットをつまんで食べる。すぐに、うんうん、と頷いた。
「これは美味い。たしかに、スーパーなんかで売っているものより、薄く、パリッとしている。口溶けもいい」
続いて食べたリュドミラも同意見。あまりショコラの違いを気にしていなかったが、ショコラトリーのものは一味違う。
「クーベルチュールショコラと、大量生産したショコラの流動性の違いです。クーベルチュールはサラサラとしていて、塗布した時に食感が楽しめる」
一般的に市販のものよりも高値のクーベルチュールは規格が決まっており、カカオの含有量などで分けられている。特にカカオバターが多く含まれており、サラサラとしたショコラになる。
ジェイドは離れたところにいるオードにも一枚手渡す。食してみてから、依頼を考えてほしいということ。
無言でオードは受け取り、そのまま半分噛み、残り半分も放り込んだ。
「ふーん」
「お気に召した?」
全部食べたことを加味すると、不味くはない模様。不遜な態度のジェイドは、笑顔で腕を組む。
「あたしにどうしろと?」
目線を外し、オードは再度雑誌に目をやりながら、ヴァンショーを飲む。感想は言わない。興味ない、と態度で示している。ペラっとページをめくる音が聞こえる。
「カルトナージュ、引き受けてほしい」
「断る」
続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。




