37話
ただ厚紙に布を貼るだけだと思っていたが、北欧調の花柄オックス生地を、わざとギャザーに寄せて、オシャレに皺を作っている。そんな方法もあるのか、と写真立てひとつで奥の深さをジェイドは感じた。当然、一点ものなのだろう。どんなものが他にあるのか、気になってしまう。
「本当になんでもやっちゃうんですね」
まわりを見てみても、本棚にはちょっと季節を先どったクリスマスツリーもあるが、よく見ると布が貼ってある。あれもカルトナージュ。
テーブルの上には、最初は赤い水玉模様のコーヒーカップとソーサーがあると思ったが、布が貼ってある。ということはカルトナージュ。薄いアクリル板を上手く丸めて、カップの形にしているらしい。布なので水分厳禁。実用性はないが、遊び心が面白い。スウェーデンのグスタフスベリというブランドの、エヴァとアダムというシリーズらしく、青い水玉模様もあるらしい。
「見本みたいなものだけどね。世界各地から観光客が来るけど、カルトナージュは文字も言葉もなくても伝わるし、形としても残る。フランス土産には最適だ」
基本的に、この店の収入源は、生地などの雑貨を売った利益とレッスン料などで、カルトナージュ作品はあまり販売していない。このレッスンというのが外国からの観光客も多く、メインになっている。ツアーにカルトナージュ体験が組み込まれていることも多く、毎日のように開催しているようだ。
「たしかに。全て手作業だから、同じものがふたつとないし。気持ちがこもりますね」
「ショコラは大量生産だから、わかりづらいと思うけどね」
と、つまらなそうなオードが皮肉を入れる。たしかに、大会などでもない限り、誰かのためだけにショコラを作る、というのはないだろう。同じ職人でも、そういった違いがある。
「こらこら」
と、リュドミラがオードを嗜める。
しかし、「甘いね」と、ジェイドは注釈を加えた。
「それはスーパーなんかで売ってるやつの話。ガシャーンガシャーンて。ショコラトリーの場合は、ほぼ手作業で全部やるからね。ひとつのショコラを作るのに二週間かかる場合もあります。だから、大量生産とはあまり言えないかな。例えば」
と、カバンの中から、またもやオランジェットを取り出し、テーブルの上に乗せた。
「このオランジェット。まず大きな鍋にオレンジを入れて、三回ほど茹でてお湯を捨てて、を繰り返します」
「なんでそんなことすんのよ」
と、オードが噛み付いてくる。相当機嫌は悪そうだ。
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