316話
そんな気後れのようなものを悟りつつ、ギャスパーは笑む。
「ジェイドさんが演奏者なら、キミは指揮者だ。世界に羽ばたいていく音楽には、どちらが欠けても作れない。ただキミ達はそうだねぇ……お互いに反発しあってもらえると助かる」
「反発?」
調和、とか。仲良く、とかじゃなくて? 予想外の言葉にオードの声は上擦った。そりゃ、手を取り合って、なんてのは柄じゃないしお断りだけど。そういえば、バーの店長にも似たようなことを言われたような。
再度絵画を深く読み込みながら、ギャスパーは過去・現在・未来を見据える。
「ジェイドさんもキミも。まだその分野では生まれたてだからね。実力だけでいえば上の者はたくさんいる。だが、必要なのは実力じゃない。『可能性』だ。そこを見極める目はね、私はあると思ってるんだ、うん」
それもまた勘だけど。当たっているか外れているかは、数十年後くらいにはわかるだろう。
その枠組みの中。自分が入っている気なんてオードにはしない。だが、今のこの状況。言葉が染み込んでいく。
「可能性……カルトナージュの、可能性」
そんなこと。考えたこともなかった。もちろん、カルトナージュは時代と共に進化してきている。だから言いたいことはわからないわけではない。けども。この人にそう言われると、本当になにかすごいことが起きるんじゃないかって。そう思えてしまう。
ギャスパーの脳内にはもうひとりの少女が浮かんでくる。
「キミたち『セ・ドゥー』には、海外に奪われたフランスの誇りを取り戻してほしい。負けず嫌いなんだ私は」
「……『セ・ドゥー』?」
いきなりわけのわからないことを言われたオードの眉が吊り上がる。なにかの暗号? こういう美術館は、なんかそんなことを考えてしまう。




