297話
《評価はありがたく受け取っておくよ。自由な発想の手助けになれればいいのだがね》
自分にできること。それはチェロを弾くことだけだとフォーヴはわかっている。それ以上でもそれ以下でもない。クラシックの全てを網羅しているほどの知識があるわけでもない。できることをできるようにやる。
だからこそ。ジェイドには頼もしく思えるわけで。
「それで。なにかいい案はあるかな? どんなものでもいい。悩んで机上の空論を挙げていくよりかは、失敗でも体を動かしたい」
新しいショコラなどそうそう生まれるものではない。もちろん、新作のショコラというものはいくらでも作ることはできる。だが、完全な新しいものは先人達が積み上げて築き上げてきている。そこに割って入り込もうなどという、革命児的な人間ではないと思っている。
だからこそ。他人の力が必要なわけで。自身を凡人と認めることができる、それは才能なのかもしれない。プライドなどなくていい。結果だけが。欲しい。
《そうだね。ショコラの案といっていいのかわからないが、ビートルズにはいくつかの嘘か真か、信じがたい話というのは聞いたことがあるね》
ほんの少しだけフォーヴは声を顰める。意味はないが、そういう雰囲気を電波を通して。
ジェイドは唇を尖らせて首を傾げる。
「信じがたい話?」
《あぁ、彼らの名曲のひとつに『エリナー・リグビー』という曲がある。二分程度の短い、孤独で悲観的な曲なんだが、問題はこの曲名なんだ》
フォーヴが挙げたのは一九六六年に発売された一曲。それは人間の孤独や死の寂しさなどを歌ったもので、当時はひとつの物語を紡いでいるような歌詞が珍しいものだった。だが、それよりも曲名のほうに注目した。




