292話
「クマは茶色とか黒じゃないか? とりあえず違う」
ビセンテのイメージしたクマは、サケを咥えたヤツ。昔、友人から旅行の土産で木彫りのものをもらった。家にまだある。そのクマ。
眉間に皺を寄せてもう一度熟考してみるオード。思いつくと言えば思いつくが、どれも違う気がする。とすれば。
「白いのなんていっぱいいるでしょ。アザラシとかカモメとか。海にも陸にも空にも。降参、こうさーん。で、答えは?」
片っ端から言っていくほど非効率的なことはしない。素直に負けを認める。負け? 勝手に巻き込まれただけなのに? はー、なんかやんなるわ、ほんと。
そんな心情を読んで、これ以上は溜めることはビセンテもしない。さっさと話を進める。
「まぁ、言ってしまうと子羊だ。モコモコフワフワだろ?」
そこ目掛けて倒れ込んでも、押し返してくれそうな弾力の。温かそうな。あれ。というか、普通女の子はやっぱこっち方面から思い浮かべると思う。
答えを聞いて「あー」という声を出しながらも、どこかオードは不満を露わにする。
「たしかにそうだけど。子羊って……なんで子羊? 羊じゃなくて子羊? 明らかに同じ檻に入れたら虎のエサになりそうだけど」
ゴリラとか檻とか、やたらと交戦的なのは置いておいて、詳しくビセンテ解説が入る。
「別に闘わせるわけではないからな。ま、ブレイクの考えていたことなど今になっては誰にもわからんよ。当時もあまりに突出した才能で、周囲からも浮いていたそうだけどな。独特の感性と世界観は他人には理解し難い部分がある」
いわゆる天才というやつ。一般人とは違う流れを生きているというか、彼ら天才とは『普通』の感覚が違うというか。
アメリカの歴史上最高クラスの天才である数学者、ウィリアム・ジェイムズ・サイディズは十六歳で名門大学にて教鞭をふるった際に、あまりの学生のレベルの低さに絶望して精神を病んだとか。それに近いんだと思う。




