252話
「ショコラメレンゲクッキー。本来のクッキーよりも低温で焼き上げて、しっとりとした食感を目指しました」
グラウンド・コントロール内のトンネルのような内部のジャズバー。土曜日ということもあり、観光客にプラスして仕事休みの地元民が押しかけるため、平日よりも二割から三割増で人口密度が高い。比例して会話や音楽の音量も増。
オーブンで百度を四時間ほど。温度と時間を変えてみてもいい。サクサク感としっとり感が微妙に変わって、それはそれで面白い食感。午前中のみの学校を終えたジェイドが、カウンター席に腰掛けて作ったショコラを披露。
カルトナージュ内部右側のショコラをひとつ摘み上げたワンディ。今は〈WXY〉で仕事中のはずなのだが。柔らかすぎず固すぎず。食欲をそそる指感触にご満悦で太鼓判。
「うん、いいんじゃない? 真ん中で分けて、二種類の味を楽しめる。コンセプトはシンプルなんだけど、どこか胸に引っ掛かるような、そんな怖さがある。それと——」
「形、ですね。あるだけ使ってみました」
言いたいことがわかっているジェイド。絞り出しクッキーの場合、その形は使用した口金が決める。丸い形や波打った形などあるわけだが、今回はひとつとしてとして同じものはないのではないか、と錯覚してしまうほどに多種多様。
覗いて確認作業に入るワンディだが、目を凝らしても全体像が見えない。これら全て口金を変えて絞り出していたのだとすれば、相当に手間暇がかかっている。
「なん……種類、あるの。二〇……いやもっと」
老眼……いや、そんなバカな。認めたくない。絶対に数えてみせる。何個であろうと。
思い出しながらジェイドは購入時のエピソードも明かす。
「三〇……ぐらいですね。本当は自然界には百種類以上あるんですけど、流石にそこまでは売ってなくて」
そしてそもそもそんなに焼いても入り切らないし。数としてはちょうどよかった。それでも多いけど。
三〇という数字を聞いて早々に数えることを諦めたワンディ。そして百以上ある形。それは。
「雪の結晶か。なんでこれに?」
そうして手に取ったものは樹枝六花と呼ばれる、一般に目にする代表的な形。細長い枝が伸びているかのよう。
「ほら、雪って冷たくてすぐ消えてしまうのに、ロマンチックだったり盛り上げてくれるじゃないですか。その相反する感じが、ジャックとアリーっぽくて。というのは半分で、作中で冷凍豆で怪我した部分を冷やすシーンがあるんです。そこから」
直感を信じてこの形を選んだジェイド。ピンときたのは、アリーが人を殴って右手を痛めてしまったシーン。それを見かねたジャックが近所のスーパーで、応急処置をする。そこで使われたのが冷凍食品。ということは氷。ということは雪。少し無理はあるが。




