229話
酒をしまい、語りに入るビセンテ。裸電球はスポットライト。
「サゼラック・コーヒー・ハウスという紳士用のクラブがあってな。そこで飲まれていたからサゼラックという名前がついたわけなんだが、元々はこのウイスキーではなく、コニャックというブランデーがベースだった」
アメリカ、ニューオーリンズに存在した社交場。そこの看板メニューだったものがこのサゼラック。他にも酒と酒を混ぜる飲み方は多数存在していたが、初めて『カクテル』というふうに認識されたものだと言われている。
コニャックはフランスのコニャック地方で作られるブランデーであることは、フランス人であれば知っていること。もちろんオードもそのひとり。だが。
「なんで変わったの?」
そこまで酒について調べたことはないので、詳しいことは不明。アメリカ人の趣向の変化?
「一九世紀後半に害虫被害がすごくてな。原料となるブドウが軒並みやられて、使えなくなってしまったわけだ。そこで代用したのがライウイスキー。そしてこちらが最終的には定着した」
そのビセンテの説明通り、害虫フィロキセラによってヨーロッパのブドウが海外へ輸出できなくなった。ならばということで苦肉の策として、ペンシルヴァニア州発祥のライ麦を原料としたウイスキーに変更。栽培が盛んだったこともあり、こちらが飲まれるようになった。
そういえば歴史の授業でオードも聞いたことがあった気がする。一九世紀末の被害。もっとよく聞いておけばよかった。
「なるほど。結局は歴史が『積み重なって』こいつはできてるわけだ」
偶然。それが幾層にも。結果、今がある。
とはいえ、常に順風満帆にライウイスキーは推移してきたわけではなく。電球の光が反射する琥珀の液体を眺めながら、ビセンテは生きてはいない時代のことを思い耽る。
「その以前。バーボンが登場して以降、ライウイスキーは衰退の一途を辿っていっていた。しかしこの一件で復権したってわけだ。その後も何度も何度も浮き沈みを繰り返し、今ではどんどん売り上げを伸ばしている」
クラシックカクテルが見直され、温故知新の心が根付いてきている。サゼラックも、また新しく派生し、今この瞬間も積もっていく。




