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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
レディー・ガガ
226/319

226話

 口元がわなわなと震えるオード。安い挑発だとはわかっている。わかっているが。


「……これはケンカ売ってる、ってことでいいのかね」


 はいそうです、と言われても困るけど。言われたらどうしよう。とりあえず酒でもかけてみる?


 それでも冷静にビセンテはグラスを磨く。


「ケンカは一種のアートだ。その入口程度だが」


 そして他の客が注文してきた酒を作る。あまり手の混んでいないものばかりで内心助かる。


 提供終わりを見計らい、オードが疑問をぶつける。ケンカ? アート?


「どういうこと? 野蛮なものじゃん」


 少なくとも進んでやりたいものではない。骨折したり流血したり、んで最終的には逮捕されたり。いいことなんてなにひとつ。


 もちろんビセンテも進んで事を荒げたいとは思わない。同調するところは同調する。


「それは表面上の殴り合い、罵声での罵り合いしか見えていない。ならたしかに野蛮で卑屈で。蔑むものではあるだろう」


 なんだか哲学的な話になりそうな予感。となるとオードはすぐに降参を選ぶ。


「……いや、やっぱわかんないわ。そりゃ、お互いに言いたいこと言い合うんだから、はたから見るぶんには——」


「それだ」


 唐突に話を遮るようにビセンテがグラスを置く。重要なターニングポイントであるかのように。


 何事かとオードは首を傾げる。


「?」


 なにか変なこと言った? あたし。


「言いたいことを言い合う、ってことは、殴り合いの中にその人なりの美学があるってことだ。それが辻褄が合ってるとか、マイノリティかとかは別問題で。それを見た第三者がそこに介入する。価値をつける」


 口調は強めなビセンテだが、別に教育しようとしているわけではない。今まで生きてきた結果、自分なりの考えをまとめてみた結果なだけのこと。


 変な角度から知識が割り込んできたこともあり、さらにオードは混乱する。


「まぁ……そう、かな? いや……うん? よくわからん……」


 ちょっと点頭してみたものの、全くわかっていない。わかったことは『なにもわからない』ということ。


 とはいえ、さすがにある程度は暴論だということはビセンテも理解している。なので付け足しをしてより深く。


「この世に存在するものの価値は全て『曖昧』だということ。さっきの砂漠の話もそう。誰かにとって不要であっても、誰かにとっては百万ユーロ払っても欲しいものだ」


 酒だけではない。酒が飲めない人にとってはバーはいらないかもしれないし、誰かに話を聞いてもらいたい人にとってはオアシスになる。

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