198話
その完成度。ユリアーネも花については明るくない。とはいえ、感じたことは同じ。さらに自身より四、五歳は幼い子の真心。少し胸が痛い。
「……」
才能、のような。もちろんそれだけではなく努力の賜物だということはわかっている。だとしても、結果に結びつけること。オーナーとして一ヶ月以上経つが、まだなにもできていない。それだけなら仕方ないで済む部分もあるが、同じカフェで働く友人アニー。彼女は——。
複雑な心境らしい。そう感じ取ったジェイドは深くは探らない。自分で答えを出さなければならない時もあるのだろう。
「なにやら悩みがありそうだね。ない人間はいないか。どうだい? 私と手を組まないか? 手伝えることがあれば手伝うよ」
上手いこと力を借りようとする。こういった交渉も自分のショコラ作りの能力に返ってくる。人脈は技術よりも大事。
突然の誘いに唖然とするユリアーネだが、一瞬固まると、再度花の写真に目を落とす。
「手伝う……というのは」
得意なものはコーヒー。好きなものもコーヒー。そんな自分になにが?
一方向からだけ見ないようにしたいジェイドからしたら、飲食に関わる人、関わらない人問わず様々な角度からの意見が、喉から手が出るほど欲しい。
「私のショコラ作り。今回は苦味が必要だから。コーヒーに詳しいユリアーネなら頼りになる。それとユリアーネの悩み相談。観光? 料理? わからないが、できる限り手を尽くそう」
ビター。ビターといえばコーヒー。無数に存在するコーヒー豆。その中から合うものを選んでもらえたら。選びきれなかったとしても、ヒントになるようなものが得られたら。
「頼りになる……私が」
ユリアーネからすれば、なにか自身の店の経営に役立つもの。そういったものを持ち帰りたい。この女性と手を組めば、成長できるのだろうか? それとも大事なパリでの時間。他のカフェなどを巡ったほうが価値がある? その狭間で揺れる。
難しいことを提案したわけではなかったが、ちょっと雑だったかな、とジェイドは反省しつつ。
「あぁ、コーヒーとショコラの相性は抜群だからね。詳しいとなると個人的には助かる」
今までの作品の中にコーヒーはなかった。大人でムーディな味を追求できる。そのためにもぜひとも。
否定するわけでもなく。ゆったりと考える時間をもらったユリアーネ。そしてひとつアイディアを。
「……紅茶、とかは選択肢にありますか?」
いきなり別の視点。頭に疑問符をつけつつも、ジェイドはストレート・ミルク・レモンの三種類をタブレットショコラにした際の味を舌に伝達してみる。
「紅茶。まぁたしかにありだね。ドイツで紅茶といえば、クルト・シェーネマンが最近新作を出したね。ぜひ一度食べてみたい」
最近知名度を加速度的に上げてきている若手ショコラティエ。かなりの難易度を誇る、食に関する国家最優秀職人章『M.O.F』を取得している。ショコラの未来を担う者のひとり。




