172話
しかし、なんだかその口ぶりにオードは苛立ちを覚える。
《いらん。ないならないにこしたことはない》
「強がるね。次からは用意しておくよ」
ここぞとばかりに煽りを強めるジェイド。期待に応えるのがエンターテイナー。観客だけじゃなく、共演者も巻き込んで未知の世界へ。
《い・ら・な・い。とりあえずあんたの『虹』、まさかショコラを光らせてる、とかじゃないでしょうね》
なんかどこかで見たことある、とオードは脳を活性化。光るものを体内に取り入れるというのは少し抵抗はあるが、害はないらしい。科学者らしき人が動画で作っていた。
ショコラについて意見をもらえたことで、ジェイドも上機嫌になる。
「おっ! いいね! いい線いってる。やはりこの映画はラストの雨のシーンが特徴的だからね。どうしたってそうなる」
土砂降りの雨の中、街を駆け回るホリー。ずぶ濡れになりながら、最上の盛り上がりを見せる山場。ここは外せない。
しかし、オードとしては適当に言ったつもりだったものが、的を射てしまったようで、逆に気まずい。
《……まじ? あたしでも考えつきそうなものでいいの? たしかどっか……そう、スイスだかオーストリアだかにそんなのがあったような——》
「素晴らしいッ! 褒めてつかわす、オード。よくぞ調べてきたッ! さすが我が相方ッ! が、ダメッ!」
進行を奪い取ったジェイドだが、一転して否定。
持ち上げられつつあったオードも呆気に取られる。
《……あ?》
というか、ひっそり『相方』って言われた気もしたけど、そこは間違ってる、と訂正しておきたい。
顔の見えない電波越しに、ジェイドは綻ぶ。
「私は別に『虹』をテーマにしていないよ。それもありかと思ったんだがね、こっちのほうがいいと感じたのでやめた」
《なに? どんなの?》
こっち、と言われても見えないので、不満が募るオードは詳細を要求する。というか、さっさと答えを言えと。なんであたしとの問答で正解を形作っているのか。
素直に教えるのもつまらないので、ジェイドはヒントを用意した。
「曲はどこで流れていたか覚えてる? 全部で三回ほど流れていたと思うんだけど」
映画を思い出すと、朧げにオードの脳に映像が流れ込んでくる。約二時間の作品が五〇倍速くらいで過ぎ去っていった。
《場所……あー……たしか、冒頭と、ギター持ってる時と、エンディング? の三回かな。で、それが?》
だいたいこんなだった気がする。もう一回くらいあったっけ?
「私が注目したのは冒頭の二分三〇秒間と、エンディングのラスト一分。ここにこの映画の全てが詰まっている、と見た」
少しずつ自身のショコラへと近づけていくジェイド。『ムーン・リバー』はそれぞれ違いがある。その差。それこそが込めた想い。




