165話
胸をすいて安堵するオード。有意義な時間だった。
「なんか申し訳ないですけど……助かります。あんまりお金持ってなくて」
誰かにグラスを奢らされたりしたせいで。結構値段の張るものだった。美味しかったけど。
その他、花の道具なども片付け再度イスに座るリオネルは、持ち帰り用に花をラッピング。下半分が赤い、ノエル仕様の袋。紙コップ部分は隠れた。ふんわりとピンクのリボンも添える。
「オードリー・ヘプバーンをイメージしたもの。久しぶりだけど、まぁまぁだな」
受け取ったオードはイスから立ち上がり、帰宅の準備。猫も起き上がる。
「ご丁寧にすみません。正確には、ホリーの歌う『ムーン・リバー』。それをイメージしたカルトナージュなんですけどね」
人物ではなく曲。はっきりとした輪郭がないため難しいが、それでも自分の閃きを信じるだけ。あいつなら、きっとそれに合うショコラを仕上げて来るはず。
その中の『曲』という単語を噛み締め、リオネルはボソッと呟く。
「『なにもない空間に花瓶が形を与えるように、音楽は静寂に形を与える』」
……うん、やっぱりこれだ、と自分の中で解答が出た。ムーン・リバーがテーマだとしても、アレンジメントは作れる。
「なんですか、それ?」
いきなり呪文のようなものを唱えたかと思えば、なにやら自己解決。なんだったんだ一体、とオードは首を傾げた。
スッキリとした表情のリオネルは、その内容を明かす。
「映画『マイ・バッハ』の名言。音と花は同意義だからね。で、どんな風にするの?」
自身の胸に常にある言葉。迷った時に戻る原点。〈Sonora〉の意味。音。
どこか違う時間軸を生きているようなM.O.F様は置いておいて、オードの考えるムーン・リバー。その正体。
「……よくわかりませんけど、ティファニーの前でコーヒーとデニッシュの朝食をとるホリー。でもここにひとつ隠された秘密があるのを知っていますか?」
「? どんな?」
なんかあったっけ? と思い返すリオネルだが、なにも出てこない。自身も知らない情報。楽しみ。
カバンを背負い、オードはマリリンを拾い上げた。
「オードリー・ヘプバーン。彼女は実は——」
「彼女は?」
マリリンの気持ちがダイレクトに移ってきたようで、少し口角の上がるリオネル。
花も抱き抱え、オードは答えを打ち明けた。
「彼女は、デニッシュが嫌いだった」




