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C × C 【セ・ドゥー】  作者: じゅん
オードリー・ヘプバーン
121/319

121話

 しかし、ワンディはキョトンとする。


「え? 奪いに行くんだから。そりゃそうでしょ」


 当然、とでも言わんばかりに。他人が知恵を振り絞って生み出した技術やアイディア。盗むのが一番効率がいい。


 引き攣ったジェイドの顔がさらに曇る。


「そりゃそうでしょ、って……」


 そういう人がこの店に来ても、受け入れるのだろうか。この人なら……やりそう。


 割り切った考えでワンディは物事を進める。


「細かいことは気にせず、フランス文化の繁栄だと思えばいい。もしくはショコラ」


 唐突にフランスの未来を担うことになったベルギー人のジェイドだが、そもそも向こうの店はどう思っているのだろうか。そこが気になる。


「相手方はいいって言ってるんですか? 行って面倒なことになる……なんてないですよね」


 だが、そこは実はお互いにメリットのあること。そしてリスクも。ワンディはひとつの例を挙げた。


「もしよさそうな人材なら、ウチより好条件でスカウトすればいいだけなんだから。お客さんの奪い合いでもあり、労働力も奪い合ってる。ギブアンドテイクでしょ」


「でしょ……って……」


 こういった形のギブアンドテイクは初めてだが、もうどうにでもなれ、という気持ちをジェイドが抱き始めたのも事実。


「どうする?」


 断ったら断ったで、またさらになにかしらの理由をつけて引き伸ばそう、そんな含みを感じさせるワンディの聞き方。


 先に音を上げたのはジェイド。どうせ首を縦に振るまで終わらない。


「……わかりました。別にそこで働く、とかってわけじゃないんですよね?」


「まさか。閉店後に軽く話しながら、意見交換やら時間があれば作ってみたり、程度だよ。よし、じゃあ行こうか」


 パンッ、と手を叩き、ワンディは気合いを入れる。今日はもうひと踏ん張り。帰って酒を飲む前の下準備。


 耳を疑ったジェイドは言葉を失う。


「……はい?」


 よし? じゃあ? 行こうか? 聞き間違えか? 日にちを間違えている?


 さぁ準備して、とワンディは囃し立てる。


「閉店後、と言ったろ? 今。今。今だよ」


 わざとらしく腕時計を確認し、さらに急かす。反応を見るのが楽しみなので、色々と小細工をする。内心は笑っている。


 手に持ったモップを確認し、ジェイドはそれを突き出す。

 

「……清掃中なんですけど……」


 一番の新人である自分が清掃を疎かにして、他店に遊びに行くなどもってのほか。むしろ率先してやらなければいけない立場だ。たとえそれが店長のひと声だったとしても、ぜひ行きましょう、などとは言えない。

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