121話
しかし、ワンディはキョトンとする。
「え? 奪いに行くんだから。そりゃそうでしょ」
当然、とでも言わんばかりに。他人が知恵を振り絞って生み出した技術やアイディア。盗むのが一番効率がいい。
引き攣ったジェイドの顔がさらに曇る。
「そりゃそうでしょ、って……」
そういう人がこの店に来ても、受け入れるのだろうか。この人なら……やりそう。
割り切った考えでワンディは物事を進める。
「細かいことは気にせず、フランス文化の繁栄だと思えばいい。もしくはショコラ」
唐突にフランスの未来を担うことになったベルギー人のジェイドだが、そもそも向こうの店はどう思っているのだろうか。そこが気になる。
「相手方はいいって言ってるんですか? 行って面倒なことになる……なんてないですよね」
だが、そこは実はお互いにメリットのあること。そしてリスクも。ワンディはひとつの例を挙げた。
「もしよさそうな人材なら、ウチより好条件でスカウトすればいいだけなんだから。お客さんの奪い合いでもあり、労働力も奪い合ってる。ギブアンドテイクでしょ」
「でしょ……って……」
こういった形のギブアンドテイクは初めてだが、もうどうにでもなれ、という気持ちをジェイドが抱き始めたのも事実。
「どうする?」
断ったら断ったで、またさらになにかしらの理由をつけて引き伸ばそう、そんな含みを感じさせるワンディの聞き方。
先に音を上げたのはジェイド。どうせ首を縦に振るまで終わらない。
「……わかりました。別にそこで働く、とかってわけじゃないんですよね?」
「まさか。閉店後に軽く話しながら、意見交換やら時間があれば作ってみたり、程度だよ。よし、じゃあ行こうか」
パンッ、と手を叩き、ワンディは気合いを入れる。今日はもうひと踏ん張り。帰って酒を飲む前の下準備。
耳を疑ったジェイドは言葉を失う。
「……はい?」
よし? じゃあ? 行こうか? 聞き間違えか? 日にちを間違えている?
さぁ準備して、とワンディは囃し立てる。
「閉店後、と言ったろ? 今。今。今だよ」
わざとらしく腕時計を確認し、さらに急かす。反応を見るのが楽しみなので、色々と小細工をする。内心は笑っている。
手に持ったモップを確認し、ジェイドはそれを突き出す。
「……清掃中なんですけど……」
一番の新人である自分が清掃を疎かにして、他店に遊びに行くなどもってのほか。むしろ率先してやらなければいけない立場だ。たとえそれが店長のひと声だったとしても、ぜひ行きましょう、などとは言えない。




