113話
だが、その講師は意外な人物だった。
「それはもう動画で。今は研究材料はどこにでもありますから」
この数日間、悩みに悩んでいたジェイドが参考にしていたのは、プロのショコラティエが配信する動画。これならイメトレもしやすいし、何度でも確認できる。実際にやってみたが、うまくいってよかった、という感想。
「初めてで……! そして花びら。これがメインとなるわけだね」
驚愕しつつも、最後のサプライズ。三枚の桜の花びら。これにワンディは注目した。気になるのはなぜ三枚か。そして、この色のショコラといえば、つまり。
「はい、ぜひ食べてみてください。ルビーショコラですが、味はおそらく、思っているものと違うと思います。なぜ私がこうしたのか、当ててみてください」
逆にワンディにクイズを仕掛ける。そして、やはりルビーショコラか、とジェイドの説明で納得した。
ルビーショコラは、ピンク色をしたショコラだが、着色料を使っているわけではない。『アンロック』と呼ばれる独自の特殊製法により、カカオ豆に元々存在していた『ピンク色の色素』を引き出している、ということ。だが多くは企業秘密となっていて、ミステリアスなショコラと言える。
「……ルビーショコラといえば、爽やかな酸味とフルーティさが特徴だ。カカオは元々フルーツだからね。だがこれは……ビター?」
口の中で緩やかに溶けていくルビーショコラ。しかし、だんだんと苦味が増してくる。ワンディはこの苦味は覚えがある。というより、よく知っているものだ。
「はい、中にはビターショコラが入っています。ルビーは表面だけ」
ジェイドの言葉の通り、一度ビターショコラを花びらの形で作り上げたあと、薄く表面にルビーショコラを重ねる。その結果、見た目はルビーショコラの花びらだが、すぐに苦味が混じり合ってくる。
「うん、複雑に絡み合って、美味しいね。だがなぜこんなことを? そしてこの三枚の意味は……いや、クイズだったか……」
悩ましく考え込むワンディだが、そもそもあまりチャップリンについて詳しいわけではない。降参したほうがよさそうだ、と早めに諦める。
その意を汲み、ジェイドはひとつひとつ、このショコラを紐解いていく。秘めた想い。
「まず『モダン・タイムス』におけるこの曲の役割について、知らなければなりません。この映画をご覧になったことはありますか?」
なぜ『三』なのか。その答えは映画の中にある。
「あぁ、一度ね。だけど、かなり前だから朧げだなぁ」
思い出しながら語るワンディだが、やはりなかなか出てこない。『エビングハウスの忘却曲線』によると、人間は記憶したものを、一ヶ月で八割忘れるという。もはや数年前の記憶。九九パーセントは忘れている。




